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モンドの異世界徒然の日々  作者: 腹グロひつじ
4/5

検証事案:ハーレムの一人 と 他種族の価値観

 俺の名前は、モンド。日本のサラリーマンだった。

 異世界転生――俺はそれに巻き揉まれた。

 彼女は、ラインさん。

 俺が巻き込んでしまった、俺の相棒みたいな人……人じゃないけど。

 人工の……いや、神工の存在。手足を機械化した人型の何か。誰もが振り返る至高の造形美を持つモノ。

 グラスファイバーを思わせる光沢ある長い髪に。悪魔のような鋭く長い大きなきな機械の手。つま先立ちを強制するゴツゴツしたブーツと呼べないそれは、なぜか地面から少し浮いている。

 機械的で無い部位は、ボディペイントじゃないのか思わせるほど、体のラインを惜しみなくエロい……本能が溢れた。知らしめている。

 何一つ、特別な能力を持てなかった俺だが、ラインさんの能力ちからを借りて、何とか毎日を生き抜いている。

 そんな俺たちは今――



 知りたくもない事実を、押し付けられている。



「いい? 私達の種族は、年中発情しているわけではないの」

 

 少し遅い昼にしようと、ラインさんを文字通り引き摺って、屋台で買い込んだ食事を片手に酒場に入ってみれば、兎さ耳の女が何故か俺達のテーブルに同席してきた。

 

「求められれば応えるわ。命に関わる事でも無ければね」

 

 俺は同席を求めていない。

 あいつのハーレム要因……何号だ? まあいいか。

 そういえば、彼女は何族なのだろうか? 兎さ耳のある種族と検索してみたら、この世界には十種族居ることが分かった。

 俺は、ラインさんの力を借りて検索する事が出来るが、鑑定が出来るわけではない。

 返事があるまで総当りの質問を繰り返してもいいが、この備考にある『類似種族と勘違いされると、殺傷沙汰になってもおかしくないよ。あは♪』な文面。

 うん、この方法は無しだ。

 

「体と心は完全に別なのよ。分かる?」

 

 確かに、別物だよな。つぶらな瞳。ちょこんとした小鼻。アヒル口。清純路線の顔なのに、首から下は歩く十八禁。正にバニーな、ショーパブガールなコスチューム。

 あ、これは顔と体か。

 

「正直、彼の力に不満はないし、外見は分からないわ。ただ、中身は不満だらけ」

 

 俺は腹が減ってるんだよ。いい加減食わせろよ。

 会話の切れ目で飯が冷める前にと手を伸ばすと、言葉の弾丸を撃ち込んでくれやがる。

 

「もしも、私の心を求められたら、もうあの中には居られないわね」

 

 横目に見えるラインさんは、じっと兎さ耳彼女を見つめている。以前約束した“聞く”という行為を実践しているだけだろうけどな。

 ラインさんは、耳で音を聞き分けているわけではないので、話を聞く時に“聞いている”という行動をしない。その事実を俺が理解するまで、誤解というトラブルは面白いように釣れまくった。

 音や光、その他の状況を事象として認識していて、感覚器官的な理解が必要無いなんてな。

 うん。言葉には出来ても、実際を理解できていないのが分かるな。

 

「でも、それって普通でしょ? 実際、心が欲しいと言われたことないし。あっちも分かってるって事でしょ? 違う?」

 

 知らんがな。

 

「ん? 何よ」

「店主が凄い顔で睨んでるから、注文をしたいんだが」

「あら、悪いわね。私は野草酒でいいわ」

 

 おい。

 

「で、たまには一人でって、ここに居たのか?」

「そうね。そうかもね。そうなのかな? そうなの?」

「野草酒でいいんだな。おっちゃん。緑の野草酒と、味の薄いのを二つ」

「あら、それおいしそうね。うん。おいしいわ」

 

 俺の“干し菜の酒戻し”を食べる前に、『いい?』とか聞け。

 あのチートはちょっとした富豪らしいから、一緒に居るとこういう感覚が薄れていくのかね。

 

「何よ。何か変? あ、貴方も『雄が雌にエサを与えるのが当たり前』って常識を知らないタイプ?」

「は?」

「まさか! 筋肉猫みたいに、『雌が雄へエサをどれくらい与えられるかが、良い雌の条件』とかいいだすつもり!?」

 

 常識なのか彼女の中では。ああ、彼女達の種族の中では、か。

 

「ごめん。やっぱりこの話は無し。この話になると、駄目なのよ。皆とケンカになっちゃうから。はあ、何でだろ?」

 

 そんな悲しい顔するなよ。慰めたくなっちまうだろ?

 俺たちが来店する前から、彼女はここに居た。てことは彼女の常識とやらを考えると、他人の飯を男限定で摘まんでいたはずなのだが、怒号とかのそんな雰囲気はなかったよな。

 胃が小っこいのか?

 今も俺のアゲ芋的なのを摘まんでいるが、本当にチビチビといった感じで、“無断”での部分に目をつぶれば、正直気になる量ではない。

 この食べ方のおかげで、トラブルにならないのかもな。

 

「いや、当たり前の事なのか」

「何?」

 

 なんでもない。

 

「なあ、あんたの“男の好み”ってどんなの?」

「何よ、突然に? 私が欲しくなったの? いいわよ、ここでする?」

 

 服をはだけるな。胸を晒すな。俺の野獣が目を覚ますだろが。

 本当に貞操観念が無いのな。いや、観念そのものが違うのか。

 

「とりあえず、ソレはしまっておいてくれ。魅力的な話だけど、ここじゃあ恥ずかしくて、俺の息子が縮み上がって、無理」

「あら、以外に大人なの? 貴方くらいの雄だと、大抵ガッツクんだけど」

 

 今は青年(少年か?) の顔つきだしな。中身は、おっさんのつもりだけど。

 まあ、横で“聞く”を続けているラインさんの芸術的造形美と呼ぶべき御姿に、お世話になっている余裕からかもしれない事は、否定できない。

 

「どうやって?」

「な、何を。ラインさん?」

 

 兎さ耳彼女に、俺達の寝相を説明しろとでも!?

 

「こう、胡桃を噛み割ってね。って、何?」

 

 焦った。何だよ、ラインさんの質問は兎さ耳彼女にだったのかよ。

 

「何でもない。噛み割るって事は、“歯が丈夫”って事が良い男って事なのか?」

「そうね。後、毛並みもそうだけど“耳”と“後ろ脚”ね。やっぱり、大きくて幅のある良く聞こえる耳は重要よね。でも私は、断然後ろ足派!」

 

 拳を握りこむ程の思い入れがあるのか。語らせると長そうだな。

 ……長かった。

 だが、しかし! 食事にはありつけたよ。よかったね。

 

「だから、お尻は後ろ脚なのよ。ね、わかるでしょ?」

 

 うん。わかりません。

 

「硬い歯と、良く聞こえる耳、強い後ろ脚」

「強いじゃなくて、長くて、太ももの筋肉もだけど、脛の筋肉が、こう溝を掘ったように、大きくしなやかで、」

「ストップ! 待て。とまれ。ステイステイ。兎さ耳ステイ」

「きゃ、止めてよ。一応あいつがいるし、会ったばかりで、だし……でも、こんなに簡単に掴ませちゃったし……」

 

 あ? 頭をぶんぶん振って、後ろ脚談義が再燃焼し始めたから、止めるつもりで目の前を往復する兎さ耳を思わず掴んでしまったのだが……

 

「ラインさん」

「はい。モンド」

 

 検索開始……終了。

 俺、終了。

 やっちまった。思い込みって怖ーな。おい。

 男にしろ、女にしろ、角・獣耳・尻尾等を持つ種族は、簡単に触れさせない。無意識に触れられる事を忌諱しており、触れようとしても、本人が意識して触れさせようとしない限り難しい。らしい。

 で、兎さ耳彼女の場合は、【耳掴む】は、【捕食された】と同意で、つまり球根。すまん、現実を見つめられなかった。つまり【求婚】の三段落ちだとよ。

 いや、でもよ。あっちの世界のお話では、兎さ耳とか、猫尻尾とか、気軽に簡単に掴ませてるシーンいっぱいあるじゃん。そいう常識しかなくても、俺しかたないじゃん。そうじゃん。じゃんよ。

 

「少し、時間を頂戴。気持ちの整理というか、“掴まれた”から直ぐっていうのもなんか、尻軽みたいで嫌だし……」

 

 尻軽……ここで俺と事を成そうとした人がね。これが、心と体は違うってことなんだろうな。

 どうでもいいが、この顔は見るに耐えん。主に男の矜持の部分が。

 俺はゆっくりと、兎さ耳を再び掴もうと手をアピールしながら、手を伸ばした。

 俺って酷い奴だよな。これが、大人って事なのかもな。

 身を硬くして、掴まれるのを待つ兎さ耳彼女。

 

「逃げたな」

 

 俺は見逃さなかった。微かに俺の手から、兎さ耳を遠ざけたのを。

 

「いや、違う。違うの」

「違わない。確かに、耳を掴んで自分の物だとした。けど正直、俺の習慣にそういうのは無い。やった事を無かった事になんて無責任な事は言わない。だけどだ、」

 

 自己嫌悪と、拒絶された事実。兎さ耳彼女は、それらに襲われているんだろうな今。

 真っ赤な瞳を色あせさせた血の気の引いた顔は、そのまま死んでしまうのではないかと思わせる。

 

「だけど、お互いに準備が出来ていないと思う。頭もそして……心も。だろ?」

 

 沈黙が俺を押しつぶしてくるよ。助けて、ラインさん。

 

「……そう。そうね」

 

 よっしゃあ!

 ええ、ええ、卑怯者とも、ろくでなしとも、いくらでも罵ってくれ。どうせ俺は、自分の不注意が原因なのに、相手を気遣ったように振る舞い。その実、自分は悪くないと取り繕う甲斐性なしですよ。はいはい。

 うわあ。マジへこむ。

 

「そんな顔しないで。ごめんなさい。私が悪いの。本当にそう思ってる。だから、ね?」

 

 ……だれか俺をぶん殴ってくれ。マジで。

 兎の献身か。

 うん? 献身?

 

「さっきの話だと、あいつには、歯も耳もまして後ろ脚も無いけど、ひょっとして何か助けてもらったのか?」

 

 すんげージト目で、見られた。

 

「このタイミングで、あいつの事を持ち出すとか、最低ー」

「モンドは、サイテー」

 

 ラインさん。何でここだけ復唱?

 

「すまない。なんか意識したら、気になって、つい」

「そういうことなら、しょうがないわね」

 

 兎さ耳彼女は、背景に桜満開の幻覚を俺に起こさせるほどの笑顔になった。

 俺って、サイテー。

 

「前は、筋肉猫とペアでね。二人で野宿した時に、野党に襲われたの。そしたら野党達が発情しちゃってね。私は命に比べたらむしろそっちで助かるならありがたいくらいだったけど、あの娘はそうじゃなかった。汚される前に自害をしようとした時、あいつが助けてくれた」

 

 なるほどね。

 

「恩人なのもあるけど、純粋に強い雄って事が理由ね」

「そっか。正直、俺の強さは、あいつとは比較にならないしな」

 

 あいつチート。俺、一般人。

 

「混乱させるような事をしたな。気にしないで、」

「はあ? あんた馬鹿なの」

 

 いや、そのセリフはアカンて。

 

「強い事だけが条件なら、あいつの周りには、私の同族が全員いるわよ」

 

 そうだけど。『他の同族が、あいつを知っているわけではないしな』って言ったら、マジ切れするよな。

 

「それに、私の耳を掴んだんだから、あんたが弱いというわけでもないと思うし……」

 

 おもむろに兎さ耳彼女は立ち上がって、「戻るわ」と呟いた。

 

「じゃあな」

「ねえ?」

「うん?」

「もし、私の心が疑問を覚え始めたら、」

 

 俺の横を過ぎる時に、背中越しに声を掛けてきた。

 

「もう一度、耳を掴んでくれる?」

「飯の準備は平等だぜ」

「甲斐性がないわね」

 

 顔は見えないが、桜の花びらが舞った気がした。

 

「あー、どうしよ」

 

 あっちで彼女を寝取られてから、寝取られシチュエーションのゲームとかAVとか、トラウマで見れなくなった。その記憶は、今も魂に刻まれている。

 俺が寝取る側とか、頭も心も処理落ちしそうだぜ。

 

「モンド」

「うん? 何、ラインさん」

「ここで脱げば良いのですか」

「えっと?」

「モンドは私の耳を、毎晩掴んでいます」

 

 はい。その通りですが、何か?

 

「なら、私はモンドの所有物であり。ここで、昨晩のように性行為というもの成さなければいけいのでは?」

「それは、後でね」

「どうやって?」

 

 まさか、食事を終えてから、日が沈み、それに至るまでの予定を報告しろとでも?

 

「どうやって?」

 

 どうしようかね。

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