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モンドの異世界徒然の日々  作者: 腹グロひつじ
1/5

検証事案:回転を入れて貫通

 俺の名前は、モンド。日本のサラリーマンだった。

 異世界転生――俺はそれに巻き揉まれた。

 彼女は、ラインさん。

 俺が巻き込んでしまった、俺の相棒みたいな人……人じゃないけど。

 人工の……いや、神工の存在。手足を機械化した人型の何か。誰もが振り返る至高の造形美を持つモノ。

 グラスファイバーを思わせる光沢ある長い髪に。悪魔のような鋭く長い大きなきな機械の手。つま先立ちを強制するゴツゴツしたブーツと呼べないそれは、なぜか地面から少し浮いている。

 機械的で無い部位は、ボディペイントじゃないのか思わせるほど、体のラインを惜しみなくエロい……本能が溢れた。知らしめている。

 何一つ、特別な能力を持てなかった俺だが、ラインさんの能力ちからを借りて、何とか毎日を生き抜いている。

 そんな俺たちは今――

 

 

 王立魔術学校で、入学(実技)試験を受けていた。

 

 

 はい、ドーン。

 触れたら切れそうな程エッジの効いた人の頭程度の大きさの穴が、的板の中央にポッカリ。

 ついでのように、的の後ろにある土手には、人一人が立ったまま入れるでっかい穴がガッツリ。

 今やっているのは、遠当て。

 決められた場所から20メートル先の的へ、魔術を使って干渉する。

 グラウンドの隅へ置かれた的は、2メートルは無い大きさの長方形板。それを、棒で後ろから支えて立たせている。木製で厚さ30センチあるか。

 それなりに受験生もいるので、一人につき三枚、それが三コース。

 

「回転を加えて、貫通力を上げたのさ」


 試験管の教員が、「なんと!?」と驚きの声上げている横で、取り巻きの女の子達へあの野郎――当のご本人は、ご高説。


「あんた馬鹿なの!? 少しは、自重しなさいよ!」


 オーバーキルなこの惨状は、“しっかり者の幼馴染”でなくても、小言の一つも言いたくなるだろう。俺なら言う。

 まてよ、普通はこんな事は起きないだろうから、チートな光景に慣れている彼女だから言えたのか? 周りの受験生も含め、試験官役の教員も呆然としてるもんな。ある意味毒されてんな、彼女達も。

 まあ、それはともかくだ。


「回転を加えて、貫通力を上げる?」


 あまりの発想に、俺も思わず繰り替してしまった。


「どうやって?」


 何で俺が。これはラインさんの口癖のだろ。

 ああ、そうじゃない。俺が言いたかったのは、回転を加える方法じゃなくて、回転を加えて貫通力が上がる仕組みの方な。

 回転って言ってるのは、ジャイロ効果の――だよな。ボールがその回転したって貫通力なんて上がらない。直進性は安定するけど……。

 あの魔力弾、ドリル刃みたいに溝が切ってあるのか? そもそもあの球コロ、物質化してんのか?

 直進性が高ければ、エネルギーの移動効率は上がるから、間違いでもないとも言えなくもないか?

 でも、あんな馬鹿みたいな力技の魔力でぶつけて、違いなんか――ああ? そういうことか? 銃弾がライフリングで回転してるのを……。

 あーつまり、

 

「思い込みかよ」


 勘違いで威力が上がるとか、魔術って凄えな……アバウトな意味で。

 あの野郎は取り巻き(一名はお説教中)をつれて御退場。

 

「おいおい、埋め戻していけよ」

 

 大穴は、そのまま。

 知ってるか? 土って以外に重いんだぜ。他人の身になって考えてみなさいって教わっったろ? あっちの世界でよ。


「まあ、無理か」


 アイツ、死ぬ前は引きニートで、世界が俺を認めてくれないって、ブヒッってたんだったな。

 取り巻きちゃん達もよ。“褒める”“称える”“叱る”“怒鳴る”はいいけど、一人くらい“直す”を意見出来なかったのか?

 これで、サクッと埋めなおして行くチートなら、好感の持てるチートなんだがな。


「次、六百五番。前へ……六百五番、六百五番いませんか?」


 あ、俺の番か。

 何人もの受験生を相手にしているからな、こういう手間が苛立つのは良く分かる。それでも、声を荒げなかったし、俺が謝ったら不機嫌な顔を戻したし。この試験官は当たりだったみたいだな。


「確認します。今立っている場所から、あちらに設置された三つの的へ魔法を行使してください。一度に全てへ行使してもいいですし、一つだけでもかまいません。その場合は、終了した事を宣言して下さい」


 行使……ね。この辺の解釈も、実技の試験なんだろうな。


「線の内側から的の間までに、足を着かないように。準備が出来たら、いつでも初めて下さい」


 さて、やりますかねえ。

 でも、ジャイロ効果ねえ。

 まあ、基本からいきますかねえ。


「マジックショット」


 俺が指差した一番左の的へ、鈍く光る光跡を残して魔力の塊が駆けた。

 魔力の塊が、空間にある魔力と反応して、本来無色なのに薄く色付いて見える。だったな。


「ふう」


 的の一部にヒビが入ったのを見て、思わず吐息が突いた。

 気づかないだけで、緊張してたんだな。

 的は後、二枚ある。当てた的も、まだまだ的として使える、


「ふむ」

 使い切らないのは、勿体無いよな?


「終了で、よろしいですか?」


 回転、回転ね。


「マジックショット」


 まあ、そうだよな。

 回転を加えて射出された魔力弾は、気持ちいつもより発光を強めながら、先に当てた的の無事だった部分に当たった。

 結果は、さっきとあんま変わんない。

 そうだよな。曲射したり、自由な機動を魔力弾にさせるほうが難しい。

 これなら、どうだ?


「マジックショット」

「ほう。抜きましたか」

 

 くあっ、頭痛え。

 穴を開けるなら、こういうのもありだよな。

 まあ貫通を狙って、とりあえず魔力弾の五連撃ってのやってみた。弾を五個密に並べて、擬似的に棒状にしてみたけど、試験官の反応だと、成功したみたいだな。

 俺の魔力じゃ、魔力弾を五個も同時に行使するのは親指程度の大きさが一杯一杯で、貫通させても、小さすぎてよく分からんからな。

 じゃあ、次ぎは、


「ニードルショッ、くっ」


 すみません、調子くれました。

 視界の隅に映る試験官。なんか呆れている気がする。

 針のように鋭い魔力弾を飛ばすニードルショット。

 貫通力はあるが、その効果は痛みを強く与える事に特化。これで、30センチの厚みを貫くとしたら、あいつくらい出鱈目な魔力が必要になるだろう。

 で、発想を変えて、木工の要領で円線に沿って打ち抜きを繰り返して、大穴を開けられないかと思ったんだけど。

 きつい。俺の魔力じゃ、そこまでの制限も、生成できなかった。

 この失敗は痛いなあ。忘れかけていたが、今は試験中だったよ。


「実験は、終わりですか? 受験生さん」


 そうですか。そうきますか試験官さん。

 もう、魔力は殆ど無い。拳程度の魔力弾も作れないだろうけど、いいだろう。ご期待に、応えてやろうじゃないか。

 さて、エネルギーの伝達。見かけの量……よし、イメージは掴めた。


「マジック」


 拳どころかピンポン球程度しかない魔力弾が、突き出した俺手の先に生成される。

 行けよ。


「ショット」


 ひょうろひょろと、魔力弾が迫力無く的へと向かう。

 間を置かず的から響いた、水面に平たい物がぶつかったような重く大きい音に、俺は口端を上げた。


「粉々に? あの魔力量で?」


 俺は今、凄いドヤ顔してんだろうな。

 目論見通り、狙った三枚目の的は、粉微塵に吹き飛んだ。

 物を壊すなら、“刺す”より、“殴る”だよな。

 イメージしたのは、ゲル状の何か。的にぶつかった時に、潰れて広く当たり無駄なく擬似質量エネルギーが、十分に伝わるように。

 うん。貫通はどっかいっちまったが、まあ良しだ。

 

「はい、お疲れさまでした。次の人。的の交換をおこないますので、少しまってください」

 

 うえ、気持ち悪い。一般人以下の魔力量なのに、はしゃぎ過ぎた。

 まだ、弾速の違いによる威力確認とか、同程度の魔力消費による射出タイプと、設置型起爆タイプの効果測定とか、興味は尽きない。

 今度、ラインさんに手伝ってもらって、検証すっかな?

 さてさて、当のラインさんはっ、と。

 試験のやり方を教えておいたから、「どうやって?」と試験官を質問攻めにしていないとは思うけど。

 

 「もう、一回!」

 あ、なんか物々しいな。って、ラインさんのところかよ。

 

「はい。的を破壊します」

「またか!? どういうことだ」

 

 ラインさんは、ルール通りに線に立ち、立って、ただ、立っている。

 ただ立っているだけで、的が粉々になっていく。

 

「何をしている!? 魔力の一切を感じなかったぞ。どういう事だ!」

 

 人の知覚限界の外にあるモノだしなあ。ラインさんが何をやっているのかは、本人にも分かってなしなあ。

 とりあえず、「認識出来ない程の、刹那の魔力開放を彼女は行使している」と、嘘ぶいてその場を収めた。

 

「どうやって?」

 

 ラインさんは、黙ってて。

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