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プロローグ

 今年は春が来るのが早くて桜はすぐ散ってしまった。まだ四月末だというのに陽射しは強く、生徒会議室に全クラスの代表議員が集まると、人の熱で暑いのか気温のせいで暑いのかわからなくなった。


 今年度第一回生徒議会の議題は、議長・副議長の承認と、各部活動の予算申請の承認だった。高校に入ってまだ一月も経っていない私が、部の予算のことなんてわかるわけがない。こういうのは儀式みたいなもので、採決の段になったらそっと手を挙げればよいのだろう。私はシャーペンをくるくる回しながら議長の話を聞いていた。


「辞書研究部の予算要求、九万円とありますね。三十八条調査員を設置しましょう」


 議長は何やら訳のわからないことを言っている。


「2年1組の松島さんと、1年1組の魚津さんにお願いします」


 私の名前が呼ばれた気がする。自分の名前を思い出してみた。私は魚津ほたるだ。自分のクラスが発表されたとき、一番みたいで嬉しいと小躍りしたのも覚えているので、1組なのも確かだ。やっぱり私のことだ。


「他の部は問題なさそうですね。異議がなければ解散としたいと思います。お疲れ様でした」


 議長が終了を宣告すると、議員たちは軽く礼をしてそそくさと生徒会議室を出ていった。



 どうやらこの学校の議会規約には予算の章があって、約十万円を超える予算要求には議員から調査員を出して実態を調査する決まりになっているらしい。それが規約の三十八条に定められているので、この調査にあたる人を三十八条調査員と呼ぶそうだ。2年の松島さんに教わった。


「私も1年のときにやらされた。そのときは野球部で、十二万円だったけど。これ、2年と1年の1組がやらされることになってるんだよね。今年も1組とか、おこなんだけど」


 松島さんは、議員のいなくなった会議室で、べらべらと愚痴ってきた。「おこ」というのは、怒っているという意味の新しい言葉だが、現実に人が口にしているのを聞いたのは初めてだと思う。


「ま、そんなわけだから、あとはよろしく」


「え、何がですか」


「いや、調査だけど」


 もしかして、この人は私一人で調査をしろと言っているのだろうか。


「だって、私は部活が忙しいから。魚津さん、まだ暇でしょ。金曜日に資料見せにきて。女バレ……バレー部の部室にいるから」


「はあ……」


 松島さんの要求は滅茶苦茶だと思ったが、この理不尽さは、私が想像していた高校の先輩後輩の関係という感じで、少しわくわくした。金曜までは三日ある。まだ部活にも入っていない私は、確かに暇を持て余しているし、こうなったら完璧な報告書を仕上げて松島さんをぎゃふんと言わせてやろう。私はこういうひねくれたところのある私が好きなのだ。


 松島さんと別れた私は、南棟にある辞書研究部の部室へと駆け出した。

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