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なろうレビュー祭り2014  作者: レビュー祭り運営委員会
最終回 紹介文!
30/41

ベギンレイム/吉田早之(ぱじゃまくんくん夫)『俺の親知らずを抜いていけ』

【この国ではある日をさかいにして、生まれつきの異常能力者が現れるようになった。

 視力が格別に優れている者だったり、怪力者であったり、掌をかざすだけで傷の治癒をおこなえる者だったり――。


 彼らはトランセンデンスと呼ばれている。


 法にある。

 トランセンデンスは義務教育を果たした中学卒業後、国防軍専門兵学校に進まなければならない。

 ここでは厳しい教練がおこなわれる。体罰も当然のようにある。起床時間も外出時間もすべて監視下に置かれた全寮制である。

 三年間の兵学校生活を終えると、トランセンデンス少年少女たちは特殊保安群という部隊に配属される。

 特殊保安群=Special Security Group。

 通称は「SG」。

 トランセンデンスは、生まれながらにしてSGの運命を定められているのだった。】

(以上一話冒頭より抜粋)



 この物語の主人公、夜目の異常能力を持つ17歳の少年、近田チカタ洋瑛ヒロアキは、バカである。いや、アホだ。そもそもどっちかと言うよりも両方などうしようもないダメ野郎なのである。

 彼は些末な事柄に楽しみを見つけることのできる少年だ。些末な事柄には色々あるが、例えば一度の放尿でトイレの小便器全てに小便をかけようとしたり、悪友が何かを決めた時に指パッチンを鳴らすのを見て、一生懸命指パッチンをやろうとしたり、そんなくだらないちっさいことに楽しみを見つけることができる少年だった。作者は彼の世界のちっささを指して、小便器の世界と表現している。

 そして彼は手に負えない癇癪持ちでもあった。気に入らないことがあれば喚き散らし、相手が女子であろうとショルダータックルをかます。不良漫画であれば、仲間から「誰にでも噛み付く狂犬みたいな奴だ」と言われそうだし、もし何らかの事件の被疑者になったとしたら昔の同級生から「なにかやると思ってたんですよ」と言われること請け合いである。クラスに1~3人はいそうな頭の悪い非常識なヤツ、通称DQN(ドキュン)そのもの、いや、それ以上に危険で危なっかしいバカでアホな関わりあいになりたくはない、しかしどこか小心者な男子。それが近田洋瑛という人間だった。


 そんな奴が、そんなどうしようもないクソ野郎なちっさい奴が、なんかカッコイイからというしょうもない理由で始めた指パッチンの特訓の末に、兵学校の授業中、遂に初めて指パッチンを成功させた瞬間、


 世界が、止まった。


【静かだった。無論、鬼教官が取り仕切る授業なので静かであるのは当然である。ただ、静けさの質が違う。窓の向こうの校庭にすべる柔らかな風も、それにささめく紅葉した木々も、青空を泳ぐいわし雲も、これら秋の気配すべてが分厚いガラス板のように無言であった。】(作中より抜粋)


 もう一度指パッチンをすると、世界は元の通り動き出した。

 ヒロアキの異常能力は夜目だけではなく、指パッチンを鳴らすことによって(たぶん)時間を止めることのできる時間支配能力(仮称)があったのだった。

 そんな強大な能力をこんな危ない野郎が持ったらどうなるのか、大いに不安である。しかし、結果は特に大それたことをするでもなく、せいぜい注文したヌード写真集をコンビニエンスストアで受け取るため、寮からの無断外出をこっそり済ますぐらいにしか使われないのだった。万が一能力が発覚した際に研究所送りになって実験体にされる(妄想)のは嫌だったのだ。彼は危険人物でもあったが、同時にどうしようもなく小物でもあった。



 しかし、そう遠くない内に彼の何気ない厳しくもどこか楽しかった日常は終わってしまう。

 季節外れの転入生。急に現れた、隔離地域「G地区」に閉じ込められているはずの怪物ウィアード。そして兵学校を襲うウィアードの群れ。仲間たちの絶体絶命の危機にヒロアキは時間支配能力を使うのか。


 G地区解放作戦、それに近田洋瑛が参加するとき、彼の宿命の因果は巡り、物語は収束する。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 上の紹介文を見て分かる通り、主人公、近田チカタ洋瑛ヒロアキはバカでアホでクズだ。カスも追加してもいい。DQNのワガママ癇癪野郎で、絶対に知り合いになりたくないような人物だ。しかし、だけど、この物語の前編を読み終わった時、彼に対して、不思議な可笑しみというか、微笑ましさのようなものをきっと感じ取ってもらえると思う。たしかに、DQNな童貞野郎ではあるのだが、不思議と妙に憎めないナニカがヒロアキにはある。不思議と、彼という一人の人間を好きになってしまうのだ。


 ぱじゃまくんくん男もとい、作者の正目 民男氏(編註:現在は「ぱじゃまくんくん夫」にて活動中です)は、このような第一印象最悪な人物を主人公を書かせたら天下一品で、彼の代表作である『キモオタの国盗り物語シリーズ』でもそれは見ることができる。どう見ても最低でアホでかっこ悪い主人公なのに、不思議と何故か憎めない味のある一人の人間を見事に描いてしまう。


 人物描写の妙も見どころだが、同時に、どこか文学的な情景描写と文章表現の美麗さにも強く唸らされる。美しい文章と言うのは簡単だが、それを生み出すとなるととんでもなく難しいのは想像に難くない。間違いなく正目 民男氏は、美麗な魅せる文章を描ける「なろう」でも希少な作家である。


 終わりに、これぞ情景描写と言うべき部分を抜粋したいと思う。情景を持って心情を描いく、その文章技術は圧巻かつ、美しい。


【夜明けの暁光が雲のあいまあいまを赤紫でいろどっており、その赤紫はくれないにゆったりと色づいていった。刻一刻と太陽の出現が近づいていた。

 やがてくれないは、燃えるような金色となって雲のはしばしを覆うようになった。それは朝のしらせだった。小鳥の鳴き声も湧いてくる。風なのか息吹なのか木々の草葉がささやいているようにも聞こえてくる。

 色のなかった空が青く染まっていく。色のなかった地上に光が広がっていく。

 洋瑛はじっとして朝を見つめていた。見つめながら、誰も知らない朝を見ているようにも思っていた。終わりの朝を見ているような気持ちでもあった。だからといって、何かの感慨にふけっているわけでもなかった。ただ漠然として感じていた。何かが始まる朝を感じていた。

(俺は――)

 始まりを予感した彼は、呟いた。

(俺は、明日、全部をぶっ壊しに行く)

 20時の研修室で作戦指令が下されるのは、言われなくてもわかっていることであった。この朝をどうして美しく思ってしまうのかは、わかりきっていることであった。】

(作中、中編より抜粋)



 この、悲しく不毛な、無常感漂う、だけど、どこか暖かく、美しい。そんな不思議な傑作を、是非味わって欲しい。

 悲しい、とても悲しい物語だが、それだけではない暖かさを、あなたは感じるだろう。

『俺の親知らずを抜いていけ』

作者:吉田早之(ぱじゃまくんくん夫)


URL:http://ncode.syosetu.com/n0242bk/

註:再掲されました。新しいURLはこちらです→http://ncode.syosetu.com/n8824da/



《ベギンレイムによるレビュー》

【異常能力者トランセンデンス。彼らに自由は無い。兵士として生き、子を産み、30歳にも成らずにガンで死ぬ。 これは、そんなクソッタレな人生を宿命付けられた、一人の17歳童貞DQNな少年と少年少女達の物語。】


近田洋瑛チカタヒロアキ、彼は正真正銘のDQNだ。気に入らなければ女子だろうがタックルをかまし、キレれば道理も論理もへったくれも無しに殴りかかる悪童である。


 彼は憎んでいた。30歳にも成らずに死ななければならない現実を、生涯を兵士として生きねばならない不自由を、ロクに顔を合わせぬまま戦死した父を、妹一人御せない自分を、ままならぬ現実に抗えない自分自身を。


 彼は、物語の英雄などではなく、ひたすらに必死に生きようと足掻く、歳相応のただの17歳の童貞な少年だった。

 馬鹿みたいで、アホらしくて、なんか微笑ましい。今を全力で楽しみ、理不尽に怒り、仲間の死を悲しみ、敵を殺す。どうしようもなく悲しい、ただの一個の人間であった。


 これは、理不尽な運命を、刹那の間に過ぎ去っていく今を、悲しいまでに生き抜く少年達の物語。


 悲しく不毛な、無常感漂う、だけど、どこか暖かい。そんな不思議な傑作です。」

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