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ただ今逃亡中  作者: 七
9/12

お披露目での出逢い②

サラが住んでいる国は5つの国からなる大陸にあり、他の4つの国に囲まれるように中央に位置している。


各国は其々に特化した特徴があり、分かりやすいので言えば魔法や農業だろうか。サラの国は中央にあるだけに商業に特化していて【観光の国 マカーナ】と呼ばれている。


今回のサラ母娘御披露目パーティーも各国から招待されていている使者達が皆自国の衣装を着ている為見ていて面白い。特に幾重にも布を重ねて各所に宝石をちりばめている衣装を着た国が一番目立っていた。


魔法大国 ミール聖国


人々が争いを繰り返していた遥か昔、魔法に特化していたミール聖国はその強大な魔法をもってこの辺りを支配しようと目論み、達成間近で敢えなく夢潰えた残念な歴史を持つ国だ。


成し遂げられなかった理由は丁度その頃に魔法の無効化作用のあるアンチ魔法石『ノーマ』が発見されたからである。


まさかの発見によりミール聖国は撤退を余儀なくされ、それ以降各国協力体制のもとにノーマで対抗して膠着状態が永きに渡って続いた。


各国はミール聖国への防衛手段として国内にノーマを配置。それにより国内での魔法使用不可となったがどうせ魔法でミール聖国には敵わないのだ、支配されるくらいなら魔法を捨てた方がマシとばかりに国中に配置しまくった。


お陰でミール聖国以外の周辺諸国の魔法の進化は途絶える事となったが魔法の代替となるモノを求めた結果、現在各国ともそれはそれは特色溢れる個性豊かな国々に発展しているのだからあの歴史的戦いも必要悪だったのだと訳知り顔で語る歴史研究家は少なくない。


そんな感じでノーマでガッツリ防御した各国から警戒されてきたミール聖国は侵略による国土の拡大は諦める他なく、防御や治癒魔法等人々の役に立つ生活魔法などを発展させていった。


現在では皮肉にも【守護の国 ミール聖国】と呼ばれている。


緩やかだが戦のない安定した国交とそれにより行き来する経済と癒し手としての実績。間違いなくミール聖国の民達は幸せだと答えるだろう。


だがしかし。


口では平和万歳と言いながらも1度思い描いてしまった夢は消える事なく残り、粛々と親から子へと受け継がれていく事となった。


つまり、魔法こそ最強であるべきだと。


流石に何百年も昔の敗戦の遺恨はなく、ただ魔法がノーマ以下であるという事が我慢ならない。その認識を覆し魔法の凄さを証明がしたい。彼らの思いはその一点に尽きた。


「ノーマがなんぼのもんじゃあ!」を合言葉にこの中二病を拗らせたようなミール聖国の魔法使い達――特にエリートである貴族達はノーマを越える魔法を研究し、腕を磨き、更にはより強い魔法を使える人間を作るために親近婚を繰り返すという事態を招いた。家を継ぐ条件はいかに強大な魔法を使えるか。女だろうと愛人の子供だろうと関係なく、求めるはただただ魔法の強さだった。お前らどんだけ悔しかったんだよと感心する程の執念である。


負けず嫌いかつ執念深い魔法至上主義者。


この清廉な癒し手のイメージをぶち壊すミール聖国の国民性はあまり知られていない。


ぶっちゃけ数百年前の大戦も当時の国一番の魔力持ちだった国王が「ちょっと他国に魔法の凄さ自慢しちゃうか」の一言から始まっているのだが、当時の有能な書記官が「……これ後世に残ったらヤバくね?」と自己判断を下し墓場までもっていってくれたので事実は闇の中である。グッジョブ書記官。君のナイス判断が穏便な平和協定に繋がっている。





そんな中でミール聖国の名門ザガリア公爵家に1人の男の子のが産まれた――膨大な魔力を持って。


まだ制御が出来ない赤子は泣くだけで魔法を使って周囲に被害を及ぼしてしまうので、絶えず制御魔法が掛けられる事となる。しかも並の魔法使いでは男の子の魔力を完全に抑えられず当時の宮廷魔法師長が最上級の制御魔法を行使するなど、産まれたばかりの段階でかなり周囲を驚かせた。


そんな状態の為男の子は公爵家の三男として大切に扱われたが、感情の起伏での魔力暴走防止対策として距離を置いて接することを余儀なくされた。結果、物心つく頃には喜怒哀楽の表現が薄っすい少年の出来上がりである。この少年はいわゆる天才という部類の人間で、大人からの課題を無表情で淡々とこなしていった。


だから周囲の人間はその事に気付くことが出来なかった。


ノーマで抑え込まれた魔力が体内で暴れまわり身が捻切れそうになる苦しさを。

暴走しないように無理矢理抑え込む時に頭を襲う激痛を。


反発するほどの複数のノーマを身につけなければならない程の魔力持ちがこの時は少年だけだったのも気付けなかった原因だろう。


この後の研究で複数のノーマを使用するとノーマ同士が反発して上手く魔力が制御されないという事がわかり、後にノーマ同士で反発しない調節ノーマが開発されてより強力で安定したアンチ魔法石『モノーマ』が出回ることとなる。




少年は10歳になった。


この時すでに魔力は国内最大であるが、心身の器が大きくなった事で複数のノーマと魔導師長の抑制魔法を身に纏えば外出許可がおりる程度には制御も安定していた。


しかし余りに強大過ぎる魔力によって少年は孤独のままだったおかげでサッパリ表情筋の活躍の場がないまま今に至っている。そのせいか貴族特有の整った顔立ちは少女のような線の細さと常に無表情から周囲から【人形姫】と揶揄されている程だ。


その少年が、今珍しく焦っていた。無表情だが確実に焦っていた。


両腕で自らの身体を抱き締めるように抱えてしゃがみこむが気休めにもならない。久しく感じなかったこの身を切るような痛み……間違いなく魔力が暴走しようとしている。


ピンチである。

暴走自体もヤバイが何より時と場所がヤバイ。


今少年は父親に連れられて使節団の一員として隣国のマナーカ国に来ていた。暴走の危険を考えて公爵家からすらあまり出ていない引き籠もり少年が何故参加しているかというと、ノーマで守られた他国内で少年が魔法を行使できるか実験したいなどと魔法省の人間が録でもない事を言いだしたからだ。


ノーマに囲まれた他国で魔法を使ってみるとか本気か?と少年は思ったが、万が一発覚した場合は子供の魔力暴走で通す気の魔法省の人間にいかに子供らしく可愛く泣く方法を実演付きでレクチャーされた事により彼らの本気を悟った。赤ちゃんの時以来泣いてないのにちゃんと泣けるか甚だ疑問であるが一応頷いておく。それこそ眼から涙っぽく水を数滴出すという緻密な水魔法を行使する方が遥かに難易度が低い気がしなくもない。


それより今問題なのは今がその実験の時でもなく、オマケに場所が隣国の中枢――お城の庭園で、近くのホールでは各国の人間がにこやかに腹の探り合いという名の社交に勤しんでいるという事だ。果たして子供のオイタで済ませられるのか。


暴走の原因はノーマの紛失だ。


1番大きなノーマがメインで魔力を抑えて残りがその補助になるように作られている複数のノーマの内、紛失したのはよりにもよってメインのヤツだった。補助役のノーマならまだ何とかなったのだが主軸のノーマ無しに制御魔法だけで自身の膨大魔力を抑えることは少年はまだ出来ない。


犯人は恐らく長兄だろう……国を立つときの見送りでやたらいい笑顔だったし。


長兄も普通に高い魔力を持ち優秀な人間なのだが如何せん少年が魔力量も含めて優秀すぎた。皆が少年の魔力を賞賛し、次期公爵家当主だと誉め称える様子を長兄はいつも恨みの籠った目で睨んでいたのを少年自身も気付いていた。


警戒もしていたのだが――


まさか「今(公式の場)」、「この場(他国、しかも城 )」で仕掛けてくるとは思わなかった。珍しく機嫌が良さそうな笑顔を見て「兄さん良いことがあったのかなーヨカッタねー」とか呑気に思っている場合では無かったようだ。


少年が身に付けているノーマは綺麗に加工れて宝石のように衣服の至る所に装飾品としとちりばめられているのだが、メインのノーマが填まっている銀の台座に細工がしてあったようで魔力の異変に気が付いた時には既に紛失した後だった。


取り敢えずパーティー会場の近くにいては不味いと招待客用に開放されていた庭園の奥に来たのはいいが、そこで立っていられない程になり今に至っている。


気付いたのが少し休憩してくると父や魔法省の人間と離れて1人で庭園に来ている時だったのも運が悪かった。ノーマが至る所に配置されている城内では少年の身から漏れる魔力は打ち消されてしまう為、彼らはまだ少年の状況を気付いていない可能性が高い。しかし確実に身の内の魔力は少年の中で暴れているし、その大きさも徐々に強くなっている。


――ああ、痛い。苦しい。


果たして抑えが効く内に気付いてもらえるか。万が一を考えて咄嗟に結界を張ったから被害は自分とこの美しい庭園だけだと思うが国交問題なのは変わりがない。


……と言うか魔法使えたな。と痛む頭の隅でつい冷静に考えてしまうのはやはり魔法馬鹿の血か。


ノーマの干渉を受けないようにする調節がやや難しいが何とか使えるようだ――ただし、一緒に来た魔法省の人間けではこの精密な調節は無理そうだが。もっともノーマは魔力の大きさに比例して威力を発揮するからより魔力を使う攻撃魔法ではどうかわからない。取り敢えず各国で1番ノーマ配置率が高いマナーカ国で補助魔法が使えたな。


と、ソコまで考えて少年の思考が止まる。


そろそろガチでヤバイ。額から汗がポタポタと垂れる。頭が割れるように痛い。身体中が悲鳴をあげる。


あぁ、もう、無理――




「お兄ちゃん大丈夫?」




可愛らしい声と共にキツく握り締めた手にさな温もりを五感がキャッチしたのと、諦めかけた少年の中で今まさに暴走しようとしていた魔力が引いたのは同時だった。


「……」

「ポンポン痛いの?」


ユックリ顔を上げると目の前に少女がいた。温もりの正体は少年の手に乗せられた少女の小さな手だ。招待された貴族の令嬢だろうか、蒼い眼が印象的で覗き込まれてつい見つめ返すことしばし。


あれ?どこかで見たような……いやいや、待て待て。それより結界は?ミール聖国の魔力を感知しない者は入れないように制限したはず。というか今自分の近くは危ない、って言うか暴走収まってる?え?何で?


「――あ」


現状に混乱した少年は何気無しに自分の手に重ねられた少女の手を見て思わず呟く。そして理解した。


「あ、これ?綺麗でしょー?さっき向こうの花壇で拾ったのよ」


と言いながら少年の手から少女が手を離そうとしたので思わず反対の手でハシッと更に上から被せるように掴んで阻止。


危なかった。もう抑える力が残ってない今離されたら即大暴走である。


驚く少女に内心苦笑いをしながら少年は再び掴んだ少女の手を見る。小さな手に収まりきっていない拳大のソレは間違いなく紛失した筈のノーマであった。正しい配置でないためにやや歪ではあるが少年の魔力を制御するように作用している。


「助かった……」


安堵の息を吐きながら少年は身体から力が抜けズルズルと背後の木にもたれるように倒れた。必然的に手を掴まれた少女もそのまま引っ張られて少年の上に倒れ込む。


「大丈夫?やっぱりどこか痛い?」

「……大丈夫」


少女の温もりが疲れた身体にジワリと広がる。自分を心配してくれる優しい声を聞きながら少年は眼を閉じてもう一度息を吐いた。


「ーー心配してくれてありがとう、可愛いお嬢さん。お名前を聞いても?」

「サラよ」


少女ーーサラはニコリと返す。つられて少年の口角も上がる。


「初めましてサラ。僕の名前はルーヘルム」





これが、見た人間悶絶必至の少年ーールーヘルムこと人形姫の超貴重な微笑みが生まれた瞬間だった。

同時にサラとルーの出逢いの瞬間でもある。




●サラ付影の護衛s in庭園結界前


ゴンッ


「痛ぇっ!……何コレ、こっから先に行けないんだけど」


護衛1がペタペタと見えない壁を触る。


「でもサラお嬢ちゃんは普通に歩いていったぞ!?」

「マジかよ旦那様に殺される!お嬢ちゃん戻ってきてー(泣)!! 」


……みたいな事があったり。


この後割りとすぐサラが1人で戻ってきたため護衛sは胸を撫で下ろした。既にノーマ内での補助魔法行使のコツをマスターしたルーはかなりの魔力を消費してしまったので瞬間移動で部屋に戻ったため目撃されず。コツ掴むの早すぎるだろオイッ!とツッコミたいが、1を知って10を知る天才の前には愚問である。


報告を受けたカイルはサラに変わりがないことを確認してからミール聖国に対してほんの少し警戒を胸に留めた。


勿論護衛sはシッカリお仕置き済みだ。




【時系列】

・サラ5歳

・ルー10歳


ノーマ=no魔法 

モノーマ=もっとno魔法(笑)

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