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ただ今逃亡中  作者: 七
8/12

御披露目での出逢い①

サラ唯一の貴族の友人であるルーヘルム・ザガリア――通称ルーとの出逢いはサラがまだ公爵家に引き取られてしばらくの頃だった。





王から一回だけでいいからお披露目しとけとお達しがありサラ母娘はまさかの社交界デビューする事となった。


因みにこの事を1番嫌がったのは言うまでもなく公爵家当主のカイルである。最初にその旨が書かれた王主催のパーティーの招待状は一読後即破いて暖炉くべられ、それ以降届いた招待状は開封されることなく暖炉の燃料になること五回。その事実を知った王が直で伝えてすげなく断られること二回。普通に不敬罪で投獄モノであるが、今回は涙眼の王を王妃が慰めて終了した。


最終的に王妃の案である「国内外の良質な小麦粉の入荷優先権」でカイルは渋々手を打った。当然パン作りが好きなサラ母の喜ぶ顔見たさである。カイルを動かすモノが何かよく理解している王妃様さすがである。


因みに2番目に嫌がったサラ母は、ここでもカイルから「君は僕の側にいてくれるだけでいいよ。笑顔もいらないから。むしろ誰とも話さず僕だけを見ていていいから」と少々無茶な事も含んでいたが、要はただ立っているだけでオッケーと言われてしまい「え、いや、でも…」と混乱している間にいつの間にか承諾させられていた。


しかし冷静になって考えると、王家主催のパーティーーしかもどうやら信じたくもないが自分達母娘のお披露目がメインーーで当の公爵家夫人がただ立っているだけって……いや、絶対駄目だよね?


作法は習ってはいるがまだ全然完璧ではないラ母が無理無理無理どうしよう!と公爵家の家令に泣きついたら、ニッコリ笑って「奥様、大丈夫です。旦那様がそのように言われたなら本当に何があろうとも絶対大丈夫です」と言わた。何その旦那様への絶対的な信頼。「むしろ愛想良くした方が大丈夫じゃないですから」と続いた彼の言葉は残念ながらパニック中のサラ母には聞き取れなかった。


公爵家の皆にも「旦那様が側におられるから大丈夫でよ」と優しく言われても元平民のサラ母には何の慰めにもならない。むしろ「何が?一体旦那様が側にいるからって何が大丈夫なの!?」と不安を煽るだけであった。自分達の主の性格とスペックを知る公爵家の面々は本気で大丈夫だと思っているため焦るサラ母を生暖かく見守った。


大丈夫ですよ、奥様。あの旦那様が奥様の顔と声を他人――特に男――に曝すわけないじゃありませんか。


結局あまりにもオロオロするサラ母が可哀想になった

公爵家の面々は、サラ母の精神安定のためにカイル許可をもらい挨拶の仕方と上級貴族の情報だけ教えることとなった。






「カルテラード公爵家ご夫妻及び、こ子息様とご息女様入場ー!」


入場係からカルテラード公爵家の入場が知らされると広間に一瞬の静けさが広がり視線が入口に注がれた。


…………………………あれだぁれ?


この時広間の人間の心は確かに1つになった。


「カロリーナ、先に王に挨拶に行こう」


男に耳元で囁かれた新しい奥方様が小さくコクりと頷くと公爵一家は壇上へと歩きだす――固まる人々を丸っと無視して。


(……うぉい!誰だよアレ!!)

(氷の宰相が満面の笑みなんだけど!?怖っ!!)

(子供を抱っこしている宰相って果てしなく違和感しかないな……てかご息女が宰相の髪を思いっきり引っ張っていたのは気のせいだよな、って言ってるそばから両手で引っ張りだしたー!!?奥方様アラアラじゃなくて止めてー!宰相の髪がー無造作寝癖ヘアーに!!)


夫が妻をエスコートしながらもう片方の腕で娘を抱っこし、妻も空いた方の手で息子と手を繋ぐ。全くなんの問題もない幸せ家族の図である。


が、しかし。この幸せ家族があのカルテラード公爵家となれば話は別だ。


突然この国の筆頭公爵家の婚姻が発表された。しかも相手はパン屋の女将。おまけにバツイチ連れ子。内容の割りに混乱が少なかったのは王家と他の公爵家の頑張りだろう。だが少ないといっても内容が内容なだけに水面下では様々な情報が飛び交う事となった。しかし公爵家の鉄壁の守りで大した情報は手に入らず、皆悶々とした気持ちを抱えて今日を待っていたのである。


残念ながら混乱は増すばかりの貴族を背景に一家は王の前に辿り着く。地面に下ろされたサラは初めて見る王族に緊張して兄の横へ移動した。


「この度は(何度も断ったにも関わらず)ご招待頂き有り難う存じます、陛下」

「うむ、よく来たな(最初っから来いっつーの!)」

「遅れて申し訳ありません(来てやっただけでも有り難く思って下さい)」

「(ぐぬぅっ)……そちらが新しい奥方か?」


ブーケ越しに王に視線を向けられたサラ母は公爵家で習った最上級の礼をとった。


「カロリーナと申します。妻はただ今喉を傷めておりますので言葉はご容赦ください(て言うか見ないで下さい、減ります)」

「構わん、大事にな(見るくらいよくない!?)」


王はもう内心涙眼だ。隣の王妃が「バカねぇ」とそんな王を見ていた。


ブーケで顔が隠れていて良かった!サラ母は自分を紹介したカイルの言葉に思わず「あ」と開きかけた口を急いで閉じた。なるほど、その設定なら話さなくてもよさそうだ。さすがは旦那様、ありがとうございます!


因みにサラはジャーナルが然り気無く耳を塞いでいたため問題ない。


最終的に王妃がもう行きなさいと目で合図したため公爵家夫婦は再度頭を下げ、子供たちもそれに倣って場をあとにした。






会場の関心はサラ一家が独占だ。皆無関心を装いつつも興味津々だ初披露の新しい奥方を見ていた。勿論あくまで然り気無くチラ見、かつ話し掛けたりはしない。だって宰相様が怖い。


残念ながら奥方の顔は完全にベールで隠れているが、覗く肌は白く見事に結い上げられた金髪は艶々と輝きを放っていた。元々パンを捏ねまくっていたので引き締まっていた身体は毎日公爵家のエステ隊に磨かれ抜かれて今や頭の天辺から爪の先まで一切隙は無い。そこに衣装隊が公爵家の威信にかけて用意した最高級の素材を使用した最先端のドレスを身に纏っているのだ。


隣のイケメン公爵に全く見劣りしない公爵夫人の出来上がりである。


当然周囲からは様々な視線を向けられているのだが、高いヒールで転けないように必死なサラ母は気付いていない代わりに隣の旦那様がキッチリ気付いて全て対処している。


「あ、またどこぞの次男坊がカイルに睨まれて固まったぞ 」

「うぁ~止めてくれよ。絶対カイルの奴1人1人覚えてるぞ。後始末が面倒だろうが」

「あっは、無理矢理。それが出来るなら今頃もっと出世してるって」


中々キツいことを言いながら遠目には朗らかに談笑しているようにしか見えないこの男達は他の公爵家当主、又は後継者達である。カイルとは学舎の頃からの知り合いで、今回の婚姻にも多大に協力していた面々だ。


「奥方は今回で見納めかな~」

「ま、あの様子では2度と社交界には出しそうにないな」

「協力しといてなんだけど、本当にカルテラード家の愛情はネットリだよな」

「ラブラブていいんじゃない?ウザイ上にほぼ一方通行だけど」

「公爵家はどこもあまり他人の事は言えないがな。……取り敢えずカルテラード家の件はこれで問題ないだろ」


男達はカイルに気付かれないように然り気無くカルテラード公爵夫人を見た。顔は見えないが恐らく緊張で一杯一杯だろう元パン屋の女将。粘着家系のカルテラードに見初められたのが運の尽きとはいえ、協力した手前罪悪感が半端ない。ま、だからって何も出来ないけどね!たってカルテラード家怖いし 。


「……あれ?カルテラードのちびっこ達はどこ行ったんだ?」


ふと気が付いたダイリー公爵家の当主である1人の男が呟きながらカルテラード夫妻の周囲を見渡すが、先程みた2人のミニチュア版のような子供達の姿はどこにもなかった。











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