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トロイメライ・メランコリック  作者: 0
きりきりまい
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 あの子は本当に、芸術家として「ホンモノ」だった。




 保育士になって二年が過ぎ、私は子供に物事を教えると同時に子供を通して様々なことを学んでいる。



 ――子供は守られてばかりの立場で自分では何もできない、というのが保育士になるまでの私の本音だった。


 確かに子供は労働もできないし大人に比べると遥かに体が小さく力も弱い。

 そういった意味では金銭面や安全面に関しては大人に守られている存在かもしれない。

 しかし、誰かに守られていることと一人では何もできないことは必ずしもイコールではない。


 上手な嘘を覚えたら人間関係が上手くいき、常に周りの真似をして社会から弾き出されないように生きていく。

 それがどうやらオトナの資格らしく、私もそんな社会の理に基づいて行動する大人の一員だろう。


 やがて保育園の子供たちと接するうちに気が付いた。



 本当に一人では何もできないのは、むしろ大人のほうではないだろうか?



 社会の理に左右されずにありのままの感性を表現する能力。

 その能力は大人になるにつれてだんだん失われていく。


 もう25を過ぎた私には最早その能力は微塵も残っていない。

 子供たちはシミュレーター……というと言葉は悪いが、実際に子供たちを通して、忘れていた感性や情景を体験している気がしている。



 ある日、私はとある男の子と知り合った。

 知り合った……というよりも、私が担当しているさくら組の新しいお友達としてその子はやってきた。


 彼の名はジュンくん、五歳。

 ジュンくんは友人とはしゃぎ回るタイプでなく、とにかく物作りが大好きな大人しい子だった。

 切り絵や貼り絵が彼の得意分野で、私は不覚にも彼の作品に魅了されたことを覚えている。


「ジュンくん、それって何を作っているのかな?」

 それが私が初めて創作中の彼にかけた言葉だった。

 ジュンくんは画用紙に黄色の折り紙やチラシを切り貼りしていた。

「キリンさんだよ。尻尾の先のフワフワは、綿を使おうと思うんだ」


 貼り絵に紙以外のものを使用してキリンの質感を出すという発想に心底感動し、私は彼を「さくら組の児童」としてよりも、「芸術家」として魅力的に感じてしまった。

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