ミシン
階下からの「ダダダ」と言うミシンの音でトメは目を覚ました。
辺りを見回すと沙織と香奈がいない事に気付く。
どうやら自分が一番最後まで寝ていたらしい。
この店の二階は倉庫になっており洋服やら生地やらが雑多に置かれていた。
そこに強引にスペースをつくり三人は昨晩を文字通り「川」の字になって過ごした。
トメは昨日の事を今一度思い出すとゆっくりと起き上がった。
「夢じゃない…」
突きつけられた現実に絶望をしながらも戦時下では無い、平和な世の中にいるので少なからず安心している自分もそこにはいた。
沙織と香奈を探す為にトメは階段を降りた。
階段のギシリと軋んだ音に気付いた沙織は
「おはよう。よく眠れた?」
と穏やかに話しかけてきた。
「はい。熟睡できたのは本当に久しぶりでした」
「そうね。今まで大変だったもの」
沙織はそう言うとミシン台から離れて
「早速だけど今日からお店で働いてもらうわよ。トメさんミシンは大丈夫?」
トメの背中に手を当てミシン台を見るように促した。
トメはそのミシン台を見ると少し違和感を感じた。
その表情に気付いた沙織は
「やっぱりトメさんから見てもこのミシンは古いの?」
と話しかけた。
「いえ…私がまだ中野学校に入る頃のものだと思います」
沙織はミシン台にそっと手を置くと
「このミシンは私のオバアちゃんから代々受け継がれて来たものなの、かれこれ70年位は働いてもらってる事になるわね」
「長いですね」
「そうね。でもまだまだ現役よ」
沙織はミシン台の椅子を引いてトメをそこに座るように導いた。
「あぁ。」
思わず安堵の溜息をトメは吐き出す。
「やっぱり安心するの?」
沙織はトメの顔を覗き込みながら話しかけた。
「えぇ、何だか馴染みの友人に会えたようなそんな感じです」
トメは微笑みながらミシンを触り話す。
「やっぱり同じ時代を生きて来たもの同士で惹かれ合うものがあるかも知れないのね」
沙織はトメがまるで古い友人に会えたような、表情をしているのを見ると少しホッとした顔をした。
トメは懐かしそうにミシンを見つめていた。
ミシン台はまるでトメを待っていたかのように彼女を受け入れる。