ねーねー
「ねぇ。三人共お腹空かな~い?」
沙織が店のドアから頭だけを出し表の三人に話しかけた。
「空いた~」
香奈がそう叫ぶとジュディも
「私もペコペコでース」
同調する様に答える。
なぜかモジモジしてるトメの手を香奈は引き一緒に入って来た。
「昨日の余りものなんだけどね」
沙織はそう言うと鍋をテーブルの真ん中にドカッと置いた。
「Wowビーフシチューですネー!」
ジュディが声を挙げながら鍋を覗き込む。それにならうように香奈も覗き込む。
それを離れた所で伺うトメ。
「トメさん。こちらにいらっしゃい」
沙織がそう促しがトメは動こうとはしない。
「どーしたのトメさん」
香奈が不思議そうな顔をしてトメに話しかける。
「あの…、そろそろ私、おいとまします。これ以上皆さんの御厄介になる訳にはいきません」
トメはそう言うと回れ右をした。
「トメさんウェイト!!」
ジュディはそう叫ぶと、トメの肩を掴んだ。
「あなたドコに行くつもりネ!!」
そう叫ぶ。
「そうよ、トメさん当ても無いのに出て行ってどうするつもり?」
優しい口調で沙織がトメを引き止める。
「野宿でも何でもして凌ぎます、そういう訓練も受けてますし、かくなる上は…」
唇を真一文字に結び、トメがドアのサッシに手をかける。
「No!スーサイドでは何も解決しまセン!生き抜く事を考えるのが優秀な兵士の務めデース!日本軍は高級将校が次々と自決して敗因が解らず戦況が不利になったのデスヨ!!死はいかなる場合に置いても有利にはなりまセン!!」
「貴様知ったような口を聞くな!!」
突然トメは鋭い目付きでジュディに言い放つ。先ほどの和やかな雰囲気が一気に吹き飛ぶ。
その迫力に一瞬たじろぐジュディだが、とり直し
「今は戦時下ではありまセン!!『生きて虜囚の辱めを受けず』なんて気にしなくてもいいんデスヨ!!」
「黙らんか!この日本かぶれ!!」
トメはそう言うとジュディの胸倉を掴みながら片足を彼女の内股に素早く入れた。
するといとも簡単に大柄なジュディは膝をついた。
一瞬の出来事に唖然とする沙織と香奈。少なからずショックを受け黙ってしまったジュディ。
「御迷惑をお掛けしました」
トメはそう言い放つとドアのサッシを力強く掴んだ。その瞬間
「ねぇー、オネーちゃん。トメさんウチで働いてもらえば?」
緊迫した空気を塗り替えるように香奈のアッケラカンとした声が店内に響く。
「そうねぇー。トメさん。お裁縫できる?」
沙織のオットリとした口調がトメからほとばしる殺気を消していく。サッシに手をかけたまま、固まるトメ。
「ねぇー、トメさん。私達と一緒に働こうよ」
そう言いながらトメの手を握る香奈。
「え…」
トメは香奈の顔に視線を移す。まるで動物が哀願するような眼差しが自分に突き刺さる。
2016年。日付が変わろうとする時間にいつの間にかなっていた。