彼女の名
「私の名前はトメ。陸軍のある特殊任務を遂行中だったのですがどういう訳か追ってから逃げてる最中に別の時代に飛ばされたようなんです」
沙織と香奈はキョトンとしているがジュディだけは真剣な眼差しでトメを見つめていた。
ジュディは軽く息を吐き出すとトメにゆっくりと落ち着いた口調で話し始めた。
「なるほど。ユーは陸軍の任務中だった訳ですネ。私達は軍属ではないからとりあえず安心してイイね。でも幾つかの質問に答えてもらうネ」
「ハイ」
トメは軽くうなづきながら返事をする。
ジュディは羽織っていた革ジャンを脱ぐとイスに掛けてからトメの向かいに座った。
異様な緊張感がこの場を支配し始めた。香奈と沙織が見守る中ジュディは静かに話し始めた。
「幾つか質問をする前に言っておく事があるデス。まず大日本帝国軍は1945年8月15日、昭和20年に無条件降伏してマス」
「そうですよね…」
トメは力なくそう答える。
「?。ユーは過去から来た人間なのにこの事に驚かないのですか?」
「ハイ。私に覚えのある日にちは昭和二十年の八月十四日位なので」
「なるほどネ。終戦間近のニッポンから平成に飛ばされたって事ネ」
「恐らく」
「敗戦の事実に驚かないって事はユーは終戦工作に関わっていたのでは?」
「…」
黙り込むトメ。不敵な笑みを浮かべ、ジュディはボソリと
「録音板」
と言い放った。
「貴様!なぜそれを知っている!!さては反乱分子か!?」
目の色を変えてトメが立ち上がる。
「NO!!トメさん落ち着いて。さっきも言った通り日本は負けてマス。」
ジュディはそれを手で制した。トメも我に戻り椅子に落ち着く。
「そうでした。日本は負けていたのですね。すみません」
「録音板を巡る反乱は今では知ってる人は知ってマース」
「そうなのですか!?」
「ってー事はトメさん。ユーは陸軍中野学校のスチューデントでは?」
「な、そこまで!」
一瞬狼狽えるトメだが
「そっか、日本はもう負けてるんですよね」
そう静かな口調でジュディに話した。
「イエース。さすが中野学校、状況判断能力が素晴らしいデス」
「鍛えられましたから」
「HAHAHA!」
「えーっ!ちょっとナニナニ、二人ともイキナリ仲良くなって」
香奈が羨ましそうに割って入って来る。
ジュディはそれを微笑みながらみると椅子から立ち上がり。
「香奈に沙織。トメさんは本当に昔の日本からタイムスリップして来た方デース」
「本当!?」
香奈が驚きの声をあげる。
「そうなの。でも何で解ったの?」
沙織が素朴な疑問を投げかける。
ジュディはそれを聞くと鼻高々に話し始めた。
「第一の決めてはその機関短銃デース。一〇〇式機関短銃は終戦間際に日本軍に実戦配備されていたモノで稼動状態で保存されているものは日本では公には無いのデース。それに日本では個人でクラシカルなGUNを所持するのは法律が邪魔してほぼ不可能なーのデース。それにトメさんの着てる物も今現在、流通してるものではありまセーン。そこから推測して先程のクエッションを思い付いたのデース。」
「なるほどねー。解ったような解らないような…ただ服は確かにそうね。現在の縫製技術じゃなさそう」
沙織は片手を頬に添え少し考えてるようだ。
「なんかあれだね!本当にスチームパンクの映画みたいな感じだね!トメさんかっこイイ!!」
香奈が笑いながら一〇〇式機関短銃を振り回す。
「ジーザス!!香奈それはオモチャじゃないヨ!!それに資料的価値もあるヤツね!!」
ジュディが慌て香奈を追いかける。
「なんだか今日は賑やかね~」
沙織がそう呟く。それを暖かい目で見守るトメ。
ジュディは香奈からやっとの思いで一〇〇式機関短銃を奪うとそれをトメに渡し
「トメさん。危ないからコレのファイヤリングピンを抜いて欲しいネ」
「ファイヤ…?」
キョトンとするトメ
「ソーリー。撃針ネ」
「あぁ。そうね、そうしましょうか」
トメはそう言うと瞬く間に百式機関短銃を分解して撃針を取り除いた。その動作に見とれる三人。
そして撃針を抜いたそれを再び香奈に渡す。
香奈は子供のように瞳を輝かせ再び一〇〇式機関短銃に見入っていた。
どうも気に入ったようだ。
それを微笑みながら見るトメ。
そして思い付いたかのようにジュディに話しかける。
「あなた。外国の方なのに日本について詳しいのね」
「ハーイ!私。日本大好きデース!日本陸軍は最強の軍隊デース!零戦、大和、サンパチ、日本の兵器はどれもビューティホー!」
「結構、海軍びいきなのね」
「ソーリー。サンパチしか咄嗟に出てこなかったネ」
「うふふ」
トメとジュディは二人とも顔を見合わせると笑みを浮かべた。