お給金
「はい、トメさんこれ今月のお給料」
そう言って沙織はトメに茶封筒を差し出す。
「そんな、居候の身分でお給金なんて頂けません」
トメはそう言って受け取ろうとしない。
「いいのいいの。トメさんはお金を貰える位働いてるから」
「でも…」
「遠慮しないで」
「トメさん。貰っちゃいなよ。どうせ大した金額じゃないから」
香奈が話しの腰を折る様に割り込んでくる。
「香奈さん。そういう事を言うもんじゃありませんよ」
トメは真顔になり香奈を真っ直ぐな目で見る。
「うげぇ~、またトメさんのお説教が始まったよ~」
と苦虫を噛み砕いた表情をしながら香奈は叫んだ。
沙織とトメがドッと笑い声をあげる。
このような会話の流れはニコテスでは定番と成りつつあった。
まるで二人の母親のようにトメは時に厳しく、時に優しく接するようになっていた。
店の雰囲気はというと、米軍基地でのイベントが成功に終わったとはいえ急に変わる程では無かった。
相変わらずニコテスに来客はなくまったりとした空気が流れていた。
店内にはクラッシックのBGMと、香奈の鼻歌と、トメが操るミシンの音がする位だ。
そして閉店間際になると、例のカミナリが聞こえてくる。
「ハーイ!皆さん遊びに行まっショー」
そう言って勢いよくドアが開きジュディが入ってくる。
ジュディの方もなんだかんだでトメに懐いておりトメの方もジュディを慕っているようだ。
お互いに何か通じるものがあるのだろうか?
沙織はすっくと立ち上がると
「そうね。今日はお給料日だし早終いにして皆でパーっと何処かに行きましょうか」
そう言うと香奈が「イエーイ!」と叫びながら表の看板をcloseに変える。
「香奈、どこ行くネー!」
「どこがいいかな~、前から気になるお店があるんだよ」
「Oh~ひょっとして表参道に出来たカフェバーですカー?」
「さっすがジュディ!もうチェック済みだったんだ!」
「善はハリー!早速行まショウ」
そう言って香奈とジュディはミシン台にまだ居たトメを強引に引きずり出した。
「ちょっ、私はまだ仕事が残っている…」
トメの言う事を無視して二人は手を引いて行く。その後ろから沙織も手伝う様にトメの背中を押す。
そんな感じで四人は騒々しく店を後にする。
トメも戦時下では感じる事のできなかった青春時代の若者らしい日常を送っていた。




