朝・ガス・お米
キッチンからまな板を叩く音がリズミカルに聞こえる。
グツグツと煮炊きする音も聞こえる。
香奈はその音に誘われる様に目を覚ました。
薄らぼんやりする視界の中で一人の女性が忙しそうに動いているのが見える。
味噌の香りと米の炊ける甘い匂いがリビングには漂っていた。
香奈は本能的に感じる懐かしいその感じから思わず
「お母さん…?」
と、思わず呟いてしまった。
「あら、起こしちゃったかしら?」
香奈はトメの声でハッと我に帰るとソファから起き上がった。
「あ、おはよートメさん。私そのまま寝ちゃたんだ」
香奈はソファに座ったままトメに問いかける。
「そうですよ。寒くなかったですか?」
「うん?大丈夫」
香奈は自分の膝に掛かってる毛布をチラと見て答えた。
恐らく沙織がかけてくれた物だろう。
「もうすぐ朝御飯ができますよ」
トメはそう言いながらコンロの火加減を神経質そうに調整していた。
香奈はいつもと違うキッチンの様子が少し気になったが身支度を整えるため自分の部屋に一旦戻る事にした。
暫くしてリビングに戻るとドラマで見る様な朝御飯が食卓にはのぼっていた。
香奈はそれらを目を輝かせながら見ていると後ろから沙織が近づいて来て声をあげた。
「トメさんゴメンなさい。私、ウッカリ寝過ごして」
「いいんですよ。泊めて頂いたお礼です」
トメはそう言うと気にする様子もなくご飯をよそっていった。
その様子に違和感を感じる香奈。
「トメさん。何でお鍋からご飯よそってるの?」
素朴に疑問に感じた香奈はトメに聞いた。
「あっ。ゴメンなさい、お米炊くのに使ったらダメなお鍋だったのこれ?」
「いや、そうでなくて…」
なぜトメが謝ったのか解らない香奈をよそに沙織が
「ひょっとしてトメさん、ガスでご飯炊いたの?」
「ガス!?」
続けざまに香奈が素っ頓狂な声をあげる。
「え、えぇ…何か変かしら?」
トメが少し困惑気味に答えると二人して鍋の中を覗きこんだ。
湯気の向こうには宝石のような艶を放つ白米があった。
お茶碗によそわれた白米に改めて目をやると二人は見合わせたように箸をつかんだ。
そしてトメがガスで炊いたご飯を口の中に放り込んだ。
「あらあら、そんなにお腹が空いてたの?」
トメは「頂きます」の挨拶もそこそこに白米に箸を伸ばす二人に冷やかな視線を送る。
そんなトメの視線を知ってか知らずか?沙織と香奈は夢中になって口を動かした。
適度な噛み応えと口の中に広がる甘い芳醇な香り。普段口にしている米とは比べ物にならない位力強い味わいをそれは放っていた。
「おいっしー!!!」
「ねぇ、トメさんコレ本当にウチにあったお米?」
「え、えぇ。そこのテーブルの下にあったものだけど…」
二人の反応に驚いたのはトメの方だった。
ガスで米を炊く事がそんなに珍しい事なのか?といぶかしげな表情をしていたが、後で沙織に「炊飯器」なる機械で今は米を炊いている事を教えてもらうトメだった。




