秘密の秘密
三人は千駄ヶ谷に降り立つと自宅のあるアパートに向かって歩き始めた。
東京の都心部だがこの辺りは閑静な住宅街だ。
沙織と香奈は慣れた足取りで自宅へと向かって行く。入り組んだ路地を入った所に二人の住まいはあった。
「ささ、狭い所だけど上がって」
そう言って沙織はトメを促す。
「お邪魔します」
トメはそう言うと玄関を潜った。
日本家屋とは違う間取りに少し戸惑いながらも沙織の後について行く。
リビングに入ると香奈がソファにどっかと寝転んで「あー疲れた」と叫び声を上げた。
それを見た沙織は
「香奈、着替えてからくつろぎなさい」
と少々説教気味に言い放つ。香奈は何か思いついたように勢いよく起き上がると
「トメさん!一緒にお風呂入ろ!」
そう言って珍しそうに部屋の間取りを見渡しているトメの手を力強く握った。
「え?」
と戸惑うトメの手を引き香奈はバスルームへと消えて行った。
その様子を微笑ましく見守る沙織。
程無くすると頬を桜色に染めた二人がリビングに戻って来た。
香奈はスッカリ部屋着に着替えており、トメも香奈から借りたラフな姿になっていた。
「沙織さん。お風呂先に頂きました」
トメは沙織に遠慮深そうに言うとソファに腰を落ち着けた。
「トメさん、ゴメンね。香奈の面倒みてもらって」
そう言いながらアイスティーを差し出す。
「いいえ、これ位お安い御用ですよ」
トメはそう言うと香奈の方をチラと見た。
香奈はまるで電池が切れた様に横になりスヤスヤとソファに横に寝息を立てていた。
「まったく。香奈ったら」
呆れた様子で沙織が呟くとトメは
「やっぱり疲れていたのですね」
とそっと香奈の髪を撫でながら小声で囁く。
二人は顔を見合わせるとリビングからベランダに出た。
トメから石鹸の香りが漂ってくる。
それは沙織の疲れた身体に染み渡る様に入っていき自分の身体が疲れている事を思い出させた。
沙織はベランダのテラスに両腕を預けるとおもむろに呟いた。
「トメさん…。香奈の事なんだけど…。このままでいいのかしら?」
「正直解りません。でも時間が解決してくれると思いますよ」
「だといいんだけど」
「秘密は墓場まで持っていけば秘密にはなりません」
「トメさんが言うと何だか重みがあるわね~」
沙織がいつものオットリとした口調でトメに言うと彼女も
「フフフ」
といつも浮かべる笑顔をしただけだった。




