いよいよ
米軍横須賀基地の正面ゲート付近は居様な雰囲気に包まれていた。
男女問わずビクトリア朝の衣装に身を包んだ人達がゲートに向かってそぞろ歩いているのだ。
スチームパンクという特異なファッションの為その注目度は半端ない。
しかもそれは横須賀の米軍基地へと吸い込まれて行くのだ。
人々の目を惹か無い訳がない。
正面ゲートには沙織と香奈が来場者がちゃんとニコテスの衣装をに身に付けているかをチェックしていく。
トメは招待状のチェックだ。
チェックの済んだ客から待機してあるバスに乗ってもらいある程度の人数になったら原潜アラバマへと運ばれて行く。
「沙織さん。ご招待したお客様は大体入り終えたわよ」
トメはそう言うとリストを沙織に渡した。
「そうね。私達もソロソロ会場に行かなきゃ間に合わないわ」
「オネーちゃん。お客さん達ビックリするかな~」
香奈がイタズラっぽい笑みを浮かべながら待機している招待客のバスに便乗した。
最後にトメが乗り込むと運転手はバスを発進させた。
程なくするとバスは原子力潜水艦アラバマの脇に止まる。
車内は動揺のような期待のような何とも言えない雰囲気が入り混じりざわついていた。
「みんなーここがパーティー会場だよー!」
と香奈は叫びバスを飛び降りた。
ビクトリア朝を基調としたスチームパンクのファッションに身を包んだ招待客が順次降りてくる。
そして正装した衛兵のエスコートを受けタラップを渡り船内へと入って行く。
その光景は異様だがニコテスのショップのカラーとしては充分過ぎる位だ。
見ようによっては何かの映画のワンシーンのようだ。
沙織、香奈、トメは最後の客が船内に吸い込まれるのを見届けると自分達も会場へと急いだ。
「沙織さん、香奈さん。いよいよですね」
トメは二人に話しかける。
二人共トメを見ると意を決した視線を送り返す。
「トメさん。ご苦労様、後はパーティーの方を楽しんでね」
「私とオネーちゃんはこれからが本番だから」
沙織と香奈はそう言うと小走りに船内へと入って行った。
一人、バースに残るトメ。
先程までの謙遜が嘘のように収まり、港らしい凪いだ雰囲気が辺りを覆う。
鼻腔を擽る磯の香り。
時折聞こえる汽笛の音。
「横須賀の港湾設備にも昔からのものが結構残っているのね」
トメはそう呟くと周りを見渡した。
「パーティーはお嫌いですか?」
自分の背後から突然声がしたのでトメは咄嗟に振り向いた。
そこには中年位の外国人男性が一人立っていた。
「ちょっと、苦手ですね」
苦笑いでトメがそう言うと、彼は笑顔をたたえながら二、三歩近づいて来た。
「解ります。特にお偉方の集まるパーティーは私も苦手で」
「そうですか」
「ところであなたは何処の軍隊の所属ですか?」
トメは一瞬焦ったが自分の今着ている服装からそういう質問を受けたと思い。
「特に何処の軍隊を意識してる訳では無いんです」
と返す。しかし、彼は
「いいえ。制服では無くあなたの持つ雰囲気が民間人っぽくないので不躾ではありますが…」
そう、言葉を濁しながら彼はトメに聞きなおす。
「フフフ。随分優しい尋問ですね」
トメは口を手で覆い笑う。
「さすがにレディに対して軍隊の様な尋問は行えません」
「でも、もしも私がスパイならどうします?」
「その時はその時です。それに…」
「それに?」
口元に笑みを浮かべながらトメは相手の言葉に注聴する。
「あなたからはこの時代の人から感じられない雰囲気がでてますよ」
「成る程」
そうトメは言い放つと海原に視線を落とす。そして再び彼に視線を向けると
「日本語、御上手ですね」
と話題を変えにかかった。
「日本と米軍。何かと縁深いんで…、勉強してたらのめり込んでしまいました」
「それで…」
「少し堅苦しいですか?」
「いいえ、何だか懐かしい響き」
「ありがとう御座います」
「ジュディさんが日本の研究をしてるのが解る気がします」
「ハハハ、お見通しでしたか」
「フフフ」
二人は顔を見合わすとお互いに気を付けの姿勢をとった。
「大日本帝国陸軍 特務機関所属 福田トメです!」
「合衆国海軍 第七艦隊 司令長官 ジョナサン・グリーナート!」




