スチームパンク
スチームパンクという言葉をご存知だろうか?
空想科学なんかで使われる用語だ。
現代のように電子技術が発達せずに蒸気機関の技術が異常に発達した世の中の事をいう。
歯車
水蒸気
デストピア
巨大機械
これらがキーワードとなりその世界観を作り上げていく。
まぁ簡単にいうと「宮崎ナントカ」さんのアニメみたいなものだろうか?
そしてそれをモチーフとしたファッションのジャンルも存在する。
基本は産業革命の起きた当時のイギリスの流行を取り入れたような感じだ。
これらは極一部の人達から強烈な指示を受けてその地位を確立しつつある。
その証拠に小さいながらもブランドも立ち上がっておりファッション業界の新たな目になっている。
ひところで言う「ゴシックロリータ」のような様相だ。
そしてそんな尖ったファッションの発信は大体、原宿と相場は決まっている。
そのようなマニアックな傾向にあるブランドは「裏原宿」と呼ばれる原宿より少し外れた所に店を構える。
この辺りは、住宅やオフィスビルがあったりで普通の人がイメージする原宿とは少しかけ離れている。
特種かつ独特な雰囲気を持つブランドは大体が手造りに近いものを扱っているので工房と店舗が一体になっている場合が大多数だ。
世間一般でよく見られるようなアパレルメーカーとは大分趣きは違うはずだ。
どちらかというと中世の仕立て屋のようなものを想像してもらえれば良いだろう。
彼女達の店はそんな裏原宿にあった。
店の名は「NikoTes」
店と言っても正直狭い。カウンターバー位の広さを想像してもらえば良いだろう。
「オネーちゃ~ん!大変大変!フラフラなパンキッシュなオネーさん拾っちゃた!!」
大声で叫びながら入って来たのは「香奈」だ。
店の奥でミシン掛けをしていた「沙織」はその手を止めて慌てて駆け寄った。
香奈の肩にもたれるようにしてその女性は息も絶え絶えにしていた。
沙織は香奈と一緒にそのフラフラになった女性を店の奥へと連れ込んだ。
そして店にあるありったけの椅子を繋ぎ合わせてベッドのようにしてそこに女性を横にした。
「香奈!救急車よんで!」
「りょーかい!!」
そう香奈は叫ぶとスマホを取り出し119番通報をしようとした。
「だめ!!私は大丈夫ですから!」
その女性はいきなり起き上がると沙織の胸ぐらを掴み救急車の要請を拒絶した。
沙織と香奈の表情が一瞬固まる。しかし、
「でもあなた、大丈夫なように見えないわよ」
沙織は冷静に言い放つ。
「そーだよ。オネーちゃん言う通りだよ、おねーサン」
香奈も心配そうにしながら彼女を説得する。
だがその女性は
「本当に大丈夫ですから、少しだけ眠らせて下さい。それだけで大丈夫ですから…」
そう言うと沙織から手を話し静かに目をつむった。
沙織はその女性の言う通りにとりあえず眠らせて様子を見る事にした。
彼女は安心したのか?ものの数分で寝息をたて始めた。
沙織はそれをみると香奈に静かに話しかけた。
「どうやら大丈夫そうだからこのまま様子を見ようか?」
香奈はスマホをレジカウンターの上に置くと「そうだね」と呟いた。
店内に流れる優雅なクラッシックのBGMが今までの慌ただしい雰囲気を変えていく。
二人は落ち着きを取り戻すと改めて担ぎ込まれた女性をみた。
モデルガンと思われる鉄砲を大事そうに抱えてるのが印象的だ。
髪は後ろで一つに結わえられておりメイクはしてない感じだが目鼻立ちはハッキリしている。
「オネーちゃん。この人の格好って大分ジャポネクス入ってるね」
香奈はジロジロと舐めるように女性を見てそう呟いた。
「うーん。ジャポネクスというか何というか…」
沙織は香奈の質問の回答に困ったように片手を頬にそえて溜息混じりに話した。
確かに現代の日本ではない感じはあるが、かと言ってスチームパンクかと言われるとそれも違うような気もする。
「肩の所破れてるけど、何か意味あるのかなぁ…」
香奈がしゃがみ込みそう言いながら女性の顔を覗き込む。
「そうね。彼女なりのテーマがあってこの格好じゃないのかしら?」
「何かに追われてる自分的な?」
「そうね~。起きたら聞いてみましょう」
そう言うと沙織は回れ右をしてミシン台へと戻っていった。
「オネーちゃん。この人このままでお店明けて大丈夫?」
香奈がそう問いかけると沙織はクスリと微笑み
「お客なんて滅多に来ないから気にしないで開けなさい」
そう答えた。
「りょーかい!」
香奈は勢いよくそう答えると表のドアに掛けてある看板を「close」から「Open」にひっくり返した。
少し慌ただしかったが彼女達の店。ニコテスは無事開店した