田中(仮称)墜ちる
田中に抱えられるようにトメはラブホテルへと入っていった。
ネットであらかじめ調べておいたので驚きはあまり無いが一応ワザとらしく
「わぁー、こんな風になってるんだー」
さも初めて来た、世間知らずの女を演じた。
そしてベッドの上に脚を組んで座ると
「ねぇ、足首の所どうなってるか見てくれない?」
と田中を誘惑するような目付きで話しかける。田中は返事もロクにせずしゃがみ込みトメの足首をみているが、その視線は落ち着かない。チラチラと別の所をしきりに見ようとしている。
(下衆が)
トメは心の中でそう吐き捨てると、しゃがんでる田中の耳元で
「腫れてないかしら?」
と甘い声で囁いた。
田中は突然聞こえたトメの声に少し驚いたのか?顔をそちらに向けた。
トメと田中の視線が絡み合う。トメから発せらる甘くネットリとした目線に田中は何かが弾けたように目の色を変えた。トメは内心
「来た!」
とほくそ笑んだ。
その刹那、田中は彼女をベッドに押し倒した。呼吸が荒くなる田中。
「ねぇ。どうしたの?」
困惑気味に問いかけるトメ。
「誘ってるんだろ?」
田中はそう言うとトメの胸に手を延ばして来た。しかし
「貴様。沙織嬢から脅し取った金を返してもらおうか」
トメの目付きは突然鋭くなり低く重い口調で田中にそう言い放つと自分の胸元に伸びて来た腕を掴んで捻りあげた。
一瞬自分に何が起きたか解らず苦悶の表情を浮かべる田中。
体はいつの間にか入れ替わり、うつ伏せになった田中の上に馬乗りになるトメ。田中は完全に動きを封じられた。
先程までトメから漂っていた甘い空気は消え失せた。田中は本能的にこの状況がマズイと察すると
「テメェ!舐めたマネしてくれるなよ!こっちにはヤクザがバックにいんだよ!!」
と、トメを脅した。
「ふん。ヤクザがどうしたって?貴様が手を出したご令嬢はどなたか解っているのか?」
「うるせぇよ!」
まだ虚勢を張る田中。トメは半分飽きれ顏で
「よろしい。解らなければ教えてやる。貴様がちょっかいを出した沙織嬢は実は軍属のご令嬢だ。私はとある方に頼まれて貴様を秘密裏に始末しろと頼まれた。」
「始末…」
田中からは先程までの勢いが無くなる。
「そうだ。解りやすく言ってやる。誰にも気付かれずに貴様を殺せという事だ。沙織嬢を傷物にした罪は重いぞ」
「き、傷物って」
焦る田中をよそにトメは周囲をぐるりと見渡して
「ラブホテルは大体の所が防音室になってるらしいな」
と言い放つ。
「え…」
田中の顔色が青ざめる。ここで初めて自分が罠にかけられた事を悟ったようだ。
「貴様、軍隊の拷問は受けた事はあるか?」
「ぐ、軍隊の拷問?」
「質問に答えんかァ!!!」
雷鳴のようなトメの怒鳴り声にクビをすくめる田中。
「ヒッ、ヒィッ!ありません!」
声にならない声で答える。
「よかろう!では今から私が直々に貴様に帝国陸軍仕込みの拷問をしてやる!!ありがたく思え!!」
そう言うとトメは田中の更に腕を締め上げた。
ちなみに沙織が軍属の令嬢と言うのはデッチあげだ。
その日の夜。沙織は再び田中に呼び出された。憂鬱な気持ちで待ち合わせの場所である本郷神社の入り口へ向かう。
そこに田中はいたが傍らに見知らぬ派手な女性がいた。
近づくと田中の異常なまでに憔悴した表情に沙織はギョとした。
田中は沙織に茶封筒と渡すと何やらボソボソと言っていた。
「声が小さい!!」
突然田中の隣にいた女性が雷鳴のような怒号を田中に浴びせる。
田中は
「もう二度ちかづきません!」
と叫ぶとおぼつかない足取りで一目散に走り去った。
沙織は自分に何が起きたか解らずキョトンとしていたが、
「沙織さん。全額は無理だったけどある程度のお金は取り戻せたわ」
そう見知らぬ女性に話しかけられ我に戻った。そしてその声の主が聞き覚えのあるのに違和感を感じた。
狐に摘ままれたような表情の沙織をトメは見るとサングラスを外し
「沙織さん、私です。トメですよ」
といつもの口調で話しかけた。
沙織の知っている普段のトメは牧歌的などこか懐かしい雰囲気を携えた女性なのだが、そこにいたのは正に絵に書いたようなGALだった。
「えっ、トメさんなの?」
沙織はまだ信じられない様子だったが
「何だかこの格好。裸で歩いてるようで恥ずかしわ」
そのセリフを聞いた途端に沙織はトメに抱きついた。どうやら確信が持てたらしい。
トメは沙織の大胆な行動に少し驚いたが、素直に受けとる事にした。




