金の次
スパイと言う業務は映画で見る様に派手な物ではない。
そして変装の技術も映画で見る様に上部だけを装えばよいものでもない。
その人物になり切る為にはその人にとって変われる位の知識がなければ到底不可能だ。
例えばと有る会社に紛れ込んでもそこで業務が出来なければ、化けの皮はすぐ剥がれてしまう。
スパイという業務は思った以上に地味で厳しいものなのだ。
そしてそれを戦時下で行っていたトメにしてみれば平成の平和な世の中でスパイ業務を行う事は造作もない事だ。
しかも通信技術の発達によって解らない事はスグにインターネットで調べられる便利な世の中になっている。
他人に成りすますのには非常に都合がいい。
しかしそれは裏を返せば誰しも猜疑心を持ちながら生活をするという事だ。
戦時下では感じなかった何か荒んだ空気をトメはこの平成の世で少なからず感じていた。
何を信じていいのか解らない。人々はまるで何かにすがるように毎日を生きている感じだ。
少し物思いにふけってしまったが目的のオープンカフェに着いた。
沙織と田中は既に現れており、何やら茶封筒をやり取りしている感じだ。
どうやら沙織は田中の要求どおり金を支払ったらしい。
トメは店には入らず表の歩道から待ち合わせを装うような感じで二人の同行を監視した。
田中の容姿は極一般的なサラリーマンのような感じだ。とても恐喝などしそうにない雰囲気だが、人間というものは外見からその内に秘めてるものを暴きだすのは難しい。
恐らく田中は、始めは遊ぶ金欲しさ。駄目モトで始めた行為なのだろう。
しかし世間知らずの沙織がまともに相手してしまい、味をしめて徐々にエスカレートしていった事が容易に想像できる。
人間、一度楽をして金を手に入れるとその泥沼から抜け出す事は生半可な意思では不可能だ。
しかし、今のトメにとってそのような堕ちた男は非常に好都合だ。
今、恐らく田中はまとまった金を手にして気が緩んでる筈だ。
そんな堕落した男が次に求めるのは決まっている。
「女」
だ。




