ここは?
彼女は彷徨っていた。あれから意識を取り戻すと全く知らない場所にいた。
囚われてない事が解ると少し安心したが、無意識の内に知らない土地に来てしまったので別の不安が彼女を苛む。
相変わらず肩が酷く痛むが血は止まっているので大丈夫そうだ。
彼女は自分の身体を確認すると引きずるように歩き始めた。
このままここに留まっていてはいつ憲兵の目に留まるか解ったものではない。
しかし、ここは本当に日本か?
とにかく人通りが多いし、道ゆく人はみな変わった洋服を着ている。
物資は配給で着る物も国民服に統一されてるはずだ。
祭りか?
一瞬そう思ったが街並みといい、雰囲気といい、どうも違うように思える。
しかしいつの間にこのようなビルヂングが立ち並んだのだろう?
東京は空襲で焼け野原になったはず。三月の空襲は特に酷かった。
それらがまるでなかったかのように、街並みは万華鏡のように光り輝いていた。
彼女はあまりにもその眩い光の洪水に少し気持ちが悪くなった。
街には聞いた事もない音楽が大音量で鳴り響き、待ち行く人々はみな楽しそうに話しながら歩いている。
話す内容は全く解らないが日本語である事には間違いない事が解る程度だ。
一体ここは何処なんだ?
しかも通りを行き交う人は若い男女ばかりだ。
段々とまた、意識が遠のいていく。
フラフラと怪しい足つきで彼女は歩いていった。
人ゴミを抜けると彼女を待っていたのは物凄い数の自動車だった。
道を埋め尽くす自動車の群。道の幅も田舎にある畦道など比較にならない位広い。
彼女は再度、ここは日本か?とまた思ってしまった。
しかし、自動車には日本語がハッキリ描かれている。
トラックには「佐川急便」。タクシーと思われる自動車には「日本交通」。そうデカデカと描かれている。
やはり日本なのだと再度思う。
というかこれは現実なのか?
まだ意識が戻ってないから夢を見てるのではないか?
そう思うと再び意識が遠のき始めた。
このハッキリしない意識も夢なのでは…?そう彼女が思いながらもフラフラと歩き始めた。
すると「東郷神社」と描かれた看板が目に飛び込んで来た。
あぁ。やはりここは日本で間違いない…。場所は大体、神宮だろうか?東京だ。
彼女はそれを見た瞬間に安心したのか?急に力の抜ける感じに襲われた。
スーッと意識が遠のく。その薄れて行く意識をかろうじて繋ぎ止めてくる声が聞こえる。
「ちょっ!スチームパンクな鉄砲持ったオネーさん!大丈夫!?」
彼女はその声の主に導かれるように胸に顔を埋めた。
同じ女性だろうか?柔らかく暖かい感触が彼女の頬に感じられた。思わず
あぁ…
と、溜息をこぼしてしまった。