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トキオトメ  作者: リノキ ユキガヒ
沙織と香奈
19/40

トメの力

沙織は観念したような表情で話し始めた。

「実は私、脅されてるんです」

「やっぱり」

トメはまるで沙織の事情を知っていたかのような返事をした。

目を丸くして驚く沙織。

「トメさん。何で解ったの?」

「人間の悩みなんて大体が『お金』にまつわる事です。沙織さんみたいに女性だけで生計を立ててる方は大なり小なり公には言えない過去を背負ってる場合がまゝよくあります。そこに漬け込む下衆な輩は昔から後を絶た無いんですよ」

「そ、そうなの」

トメの一般人離れしたその分析能力に沙織は、これが軍隊で特殊訓練を受けた者の能力なのかと驚愕せざるをおえなかった。

しかし、良く考えてみればトメはイキナリ未来に飛ばされたにも関わらず何とか生活を立てつつある。

その適応能力からするとその分析能力も高くて当然だとうなづける。

「やはり、香奈さんとの仲をネタに脅されているのですか?」

「そうなの…。初めはお小遣い程度の金額だったのが段々増えていって…。もう私の収入だけでは賄えない位にまで…」

普段は穏和な表情しか見せない沙織の顔から悔しさが滲み出る。

「沙織さん。その輩の事をできるだけ詳細に教えてくれませんか?」

「え?トメさんひょっとして」

「そうです。少しばかりお灸を据えなくちゃ」

そう言ってトメは立ち上がるとミシン台の方に向かって行った。

それとほぼ同時にドアの開く音がして香奈が元気良く飛び込んで来た。

「ただいま~!!ジョナサンでチョコパフェ食べちゃった~!」

香奈を二人は暖かい目で見守る。

香奈は少しばかり二人の視線に違和感を感じたが、気のせいにして作業の続きを始めた。

沙織の告白から幾日か過ぎた日、トメは本郷にいた。慣れない電車の乗り方に四苦八苦しながらも何とか東大の赤門前に辿り着いた。

すると白衣姿のジュディがトメに向かって走って来るのが見えた。

革ジャンにジーンズというラフな格好しか見たことの無いトメにとってジュディの研究者としての白衣姿は新鮮に写った。

「トーメーさーん。こっちデース」

ジュディはそう言うと構内にある自分の研究室にトメを招き入れた。

雑然と資料が積み上げられたその研究室は陸軍中野学校にある資料室と同じ様な雰囲気を醸し出していた。

「ジュディさん、帝大の研究者だったのね」

「NO、NO、今はその言い方ではありまセン。東京大学デース」

「そうでした」

「で、トメさーん。私にお願いって何デスカ?」

ジュディの座ってる椅子がギシリと音を立てる。

「ジュディさん。現在の風俗について教えて欲しいの」

机に片肘を付けてジュディは

「それなら沙織と香奈の方が詳しいノデハ?」

と質問を返す。トメが幾分困った表情をするとジュディは何かを察したように

「oh~ひょっとして殿方が喜ぶような?」

と青い瞳をパチクリしながらトメに言った。

「そう、理由は聞かないで」

「a~ha、トメさんこっちで好きな人でもできたデスか?」

「そんなところかしらね?」

「ナルホド…。ま、訳は聞かない事にしまっショウ」

トメの嘘とも本当とも言えない理由にジュディはいささかの不信感を抱きながらも、トメに昭和から平成にかけての風俗文化を教える為に椅子から立ち上がった。

「因みにトメさん今の時代、『風俗』という言葉の意味は大分変わってマース」

そう言うとトメの耳元で現在における風俗の意味を赤裸々に説いた。


今の時代、調べ物はインターネットで事足りる。ワザワザ図書館などに出向いて調べ物をする人間は殆どいないだろう。

 しかし、ジュディのように研究者ともなるとそんな資料では役に立たない。極一部の人達の人間にとっては調べ物はやはり「足」で稼ぐ物なのだ。

 トメにとって情報は足で稼ぐものだと叩き込まれた者にとってはインターネットの情報量は洪水ではなく津波と言っても過言ではないだろう。

 座して得る情報に如何ほどの価値があるかは解らないが70年近い時代の隙間を埋める為にはこのインターネットから得られる情報は非常に有益だ。

 トメはジュディから粗方パソコンの使い方を習うと自分の欲しいの情報の検索を始めた。

 かと言って闇雲に検索していてはキリが無い。

 自分の年齢からおおよそ25年位を差っ引いて調べる事にした。

「いまが2015年だから大体25年位前…?1990年か…」

 そう言ってキーボードを叩く。

 意外にもその手付きは流暢だったのにジュディは少々驚いた。

「トメさん。パソコンなんて扱った事あるデスカ?」

「いいえ、昭和20年にこの様な機械は無かったけど文字盤の所はタイプライターと体して変わらないわ」

 と、涼しい顔でトメは言ってのけた。

「ナルホド」ジュディは納得した顔をしたがそれにしてもトメの適応能力の高さに唖然とするばかりだった。

 初めてみるパソコンと言う機械を即座に理解し、それを扱うのにも無駄な動きがなかった。

 自分の求める資料のホームページを閲覧しては次々と検索をかけていく。

 トメは平成の女性になる為様々な知識を自分の頭に叩き込んだ。

 驚くべき事に彼女はその間、メモを取ったり、プリントアウトなどは一切しなかった。

 己の記憶力だけで平成の女性になる為の膨大な資料を頭に刻んでいたのだ。

 ジュディは恐らく現代人で唯一、陸軍中野学校の生徒の力を目の当たりにしたのではないのだろうか?

 昔、日本に存在した唯一のスパイアカデミー。陸軍中野学校。

 ジュディの様な現代人からするとその能力は超人的だ。

 いや、当時の帝国軍人には神技とも言える技量の持ち主がゴロゴロいた。

 打電するのに40分かかる暗号電文をすべて記憶し平文に翻訳する電信員のエピソード。

 零戦で弾道を修正しながら射撃をするパイロットの技量。

 ジュディは頭では解っていたがそれを実際に目にすると言葉を失った。

 中には眉唾的なモノもあったがそれらですら真実味を与えかねない迫力をトメは放っていた。



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