昭和20年
1945年・昭和二十年。配色濃厚な日本。
それでも彼女は任務を全うせんと立ち回っていた。
闇夜に潜み敵兵が通り過ぎるのをジッと待っていた。
もう後がない。ここで奴らに捕まったらどんな目に合わされるのだろうか?
兵士達の鋭い眼光が夜の闇に浮かび上がる。九九式小銃の先に取り付けられた銃剣が月明かりに照らされヌラリと怪しく光を放つ。
そしてその眼は怨敵を探さんとギョロギョロとせわしなく動いていた。
彼女は気配を消し藪に身を潜めていたがその内一人の兵士が小銃の先に取り付けられた銃剣で藪を探り始めた。
彼女の脳裏に「絶望」の二文字が浮かぶ。
小脇に抱えた一〇〇式機関短銃の冷たい感触が絶望しかけた意識をわずかながら食い止める。
何か手がある筈だ。
彼女は薄れゆく意識の中で思考を巡らせる。すぐそこで銃剣と藪の擦れるカサカサと言った音が聞こえる。
もうダメか…
そう諦めにも似た感情が彼女を支配しかけた。
しかし彼女の懐にあるソレが許さなかった。ソレは日本の命運を左右するものと聞かされていたからだ。
そんな彼女の焦りを煽るかのように銃剣と藪の擦れる音はどんどん近くなる。先程までは音しかしなかったがもう、銃剣が藪の隙間から見える位まで来ていた。
彼女は身体を出来るだけ小さくした。
いっそひとおもいに
そう思った刹那。彼女の肩を銃剣が掠める。「シュパッ」とした音と共に肩に熱い痛みが走る。そして肩から肘にかけて生温かい感触が伝わる。
直感的に「ここまでか!?」と思ったが敵兵は彼女が潜む藪をチラリと見ただけで先程の様に銃剣で無闇やたらと藪を漁る事はしなかった。
そして兵士達は回れ右をして彼女の前から去っていったのだ。
思わず安堵の溜息を出す。そしてそのまま仰向けになり夜空を仰いだ。
満天の星空が広がる。その美しさに一瞬任務を忘れそうになる。
そして彼女は何かに引きずり込まれる様に意識を失ってしまった。