スーツにガソリン
あたしの心きざむ、エッジがキいてる横顔。
鼻先のキスが唇傷つけ、赤く流れるものは。
君の為だけのガソリン。火遊びして居たら骨も残らない。
「柑橘めいた香りを吸った、黒と白であたしを包んで」
君の細身な角度が、この寝室にたちこめる。
うたた寝してる君の、あどけなさまるで別人。
隙だらけの襟を指で正して、不意に香れるものは。
君の身に纏うガソリン。身体に毒だと知りつつ吸い込め。
「汗と煙草の煙を吸った、黒と白であたしを包んで」
君の鋭利な角度が、見知らぬ私室にたちこめる。
洗いざらしのシャツと、無造作極めた前髪。
中身がなくとも今は構わない。目がしみる原因は。
君から気化したガソリン。火花で燃やして跡形無くして。
「ひどく甘えた香りを吸った、黒と白であたしを包んで」
黒い上下のスーツは、車の中でもたちこめる。
白い花を抱えて、黒い傘がゆく葬列。
見送るあたしは何もわからない。君の遺したものは。
形の見えないガソリン。いずれは消えて無くなると知りつつ。