第二話
ある発明の取材に来た記者がその発明品を使わせてもらえる事になりました。
「あ、ありがとうございます。ところで、その機械大丈夫ですよね?
脳に障害出たりとかしないですよね?」
てきぱきと準備をしていた博士の手が、
ここでピタリと止まった。
「大丈夫。1453回実験をしたが、脳の働きが変わったのは2人しかいない。」
「全然、だいじょばないじゃないですか?! 失敗した事があるんじゃないですか!! 」
「君、日本語がおかしくなってるぞ。インタビュアーとして大丈夫かね」
思わず出てしまった至極まっとうな抗議の声に、博士が冷静にツッコミを入れてきた。
いかんいかん。確かにヘンな言葉を使ってしまった。
しかし、考えてみれば失敗する確率は確かに低そうだし、貴重な体験を出来る上に知識をひとつ手に入れる事が出来るのは
おいしいと考え直し、体験をしてみる事とした。
そこで、発明品を使ってみたい事を博士に告げたところ、博士は満足そうににっこり笑って親指を立てながら、
こう尋ねて来た。
「君は、乾燥梅干しを食べた事はありますか? 」
「いいえ、ないです。」
急にこの人は何を言ってるんだろう? といぶかりながらも答えると、博士はそれを察したのか、
私の疑問に答えるように言葉を返してきた。
「やはり、味覚と嗅覚がわかりやすいんですよ。新たに増える経験というものは・・・
視覚と聴覚は普段から良く使われるものですし、他の似たものに勝手に関連付けられる場合もあるので、
新鮮味がどうにも足りなくなっちゃうんです」
「そんな訳で、今回のお試しの脳データ入力は乾燥梅干しを食べた記憶でいいかな?」
「まぁ、たいした記憶じゃなさそうなんで、脳の負担が少なそうなのは嬉しいですけど、
正直に言えば、そんなショぼい記憶のために危ない橋を渡りたくないですね」
私の正直な気持ちに一般常識を乗せて口に出したところ、笑顔で作業を進めていた博士の動きがピタリと止まった。
「ショぼい? 君・・・乾燥梅干しの事をショぼいとぬかしましたか?
私が愛してやまない至高の食べ物をけなすのは許しませんよ。
沖縄の上間菓子店さんが、現在の味にたどり着いたのが100年前!
そして、梅を栽培すらしてない沖縄県の梅干し消費量が全国トップレベル(本当です)になるほどの
原動力となっているのが、乾燥梅干し(商品名:スッパイマン)なのです!
その歴史と実績がある乾燥梅干しの体験をショぼいと?」
「ホント スミマセンデシタ イイタイケンガデキソウデ ワクワクシテキタゾ☆」
どうやら、踏んじゃいけない心の地雷を踏み抜いてしまったような空気が、ひしひしと伝わってきたので、
自分の持っている愛想力を総動員して、怒りの爆弾解除を試みるため、精一杯の笑顔と学生時代以来の
キャピキャピした声を博士に投げかけた。そんな私の精一杯に対し、博士は冷たい視線を返しながら
ぽつりと言った。
「もう気にしていないから、その不自然な口調と表情を戻したまえ。
まったく。年齢相応な言動をお勧めするよ。
君はいったいいくつだね?」
「さ…37歳デス☆」
「…… なんだかスマン。女性に年齢を聞くのは失礼だったな。
てっきり、もっと若いと思ってたものだから……」
なんだ? この空気は? 謝られてしまったが、逆に気まずい。
怒りに我を忘れていた博士も、微妙な年齢の女性に歳を尋く危険性に気付いたようで、いらない気遣いをしてきた。
「柴田さん、そんなに謝らないでください。気にしてませんから。
それでは、早速ですが、もしよろしければ、今回の発明を試させて頂いてもよろしいでしょうか?」
機嫌が直った。というか、怒りがうやむやになったようなので、このチャンスを逃さないように
言葉を選びながら、にっこり微笑みながら問いかけてみた。
実在の会社の社名や商品名って入れていいのかな?