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野良怪談百物語

作者: 木下秋

「“幽霊の声”……」



「は?」



 直哉なおやは読み込んでいた漫画雑誌から顔を上げ、声のした方を見る。


 オレンジ色の光差す、夕暮れ時のサークル棟。「映画研究会」と扉に書かれたこの部室内には、今日も“映画”を“研究”することなく――ただダラダラと時間を消費する為に集まった部員、約二名が、各々“映画”に全く関係のない本を読み込んでいた。


 

「“幽霊の声”って、聞いたことあるかい?」



 そう言うのはこの「映画研究会」会員、岸田正人きしだまさと。趣味はネットゲーム。……映画はあまり見ない。「映画研究会」に入ったのは、成り行きだった。



「……イヤ。ねぇわ」



 そう返事をするのは松山直哉まつやまなおや。趣味は寝ること。……映画はあまり見ない。



「なんでもな。“幽霊の声”が聞けるらしいぞ」



「おお。マジか」



「早速ググろう」



「ネットで⁉︎ ネットで聞けんのかっ⁉︎」



 正人が読みふけっていたのは、オカルト雑誌だった。読んでいたページには、こうある。



『……1975年。あるフォークグループのライブ音源がラジオで流れた。その放送後、ラジオ局には問い合わせが相次ぐ。それはどれも、「不思議な“声”のような音が入っていた」というものだった。早速ラジオ局のスタッフが音源を調べると、確かに“声”が入っている。ライブのMCから曲に移り変わる寸前に――……』



「……あった」



「早いな」



「YouTubeでグループ名入れたら一発で出てきたぞ」



 正人が動画を開くと、同時に携帯電話のスピーカーから音が流れ出した。――観客達のざわめきと、アーティストのエコーがかった声。正人は音量を上げ、テーブルに置く。



「“MCから曲に移り変わる寸前”、とある」



「ほうほう」



 直哉は身を乗り出し、その瞬間を待った。正人は腕を組み、座っていた椅子の背もたれに体重を預けて外を見た。夕陽は、三分の二を水平線に浸からせていた。


 ――そして、その瞬間はやってきた。



『――じゃあ、聞いてください。次の曲……』



『……(いいかげんにしてよ)…………』



 ――!



「……えっ、えっ! ……今の……? 今のか……⁉︎」



 直哉は興奮したように言った。――正人は、外を向いたままだった。



「……うっわ! まじか! あっはっはっは! スッゲェー! 思ってたよりハッキリ聞こえたじゃんかぁー! なぁー!」



 直哉がそう言うと、正人はようやく振り返り、



「……そうだな」



 そう言って、静かに笑った。



「……? なんだよぉー。テンションひきぃーなぁー」



「そんなことないさ」



 正人はそう言うと、荷物を片付けはじめた。直哉はその様子を見て、自分も荷物を片付け始める。



「もう帰んのか?」



「あぁ。もう陽が沈む」



 正人はそう言い、直哉を連れて部屋を出た。





 ――……直哉は、あの“幽霊の声”と言われているものが、本当は『私にも聞かせて』と言うはずだったということを、知らない。

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