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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十三章 ハッピー・エンド♪
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Fight! (6)



ママと入れ違いに笹本先輩は帰って行った。


「彰くんは感じやすそうな男の子だから、あんまりいじめちゃダメよ。」


なんて、ママは笑った。




一人になって落ち着いたら、携帯に健ちゃんからの着信記録が3つ。

でも、留守電にメッセージはない。


たぶん、お断りしなくちゃいけない話もあるだろうから、あたしから電話した方がいいよね・・・と、思っているところに4回目の着信。


「はい。藤野です。」


「あーちゃん、ごめん!」


話し方と声で、健ちゃんのあたしに謝りたいという気持ちが伝わってくる。


「うん。いいよ、もう。」


「俺、あーちゃんを笹本先輩に取られるのが嫌で。」


まっすぐな健ちゃん。


「うん。ありがとう。」


「俺、俺・・・、あーちゃんのことが好きだから、それで・・・。」


「ありがとう。でも、ごめんね。」


「・・・やっぱり、俺じゃだめなんだね?」


「うん。あたし、好きな人がいるから。」


「・・・笹本先輩?」


健ちゃんの声は・・・やさしかった。


「うん、そう。 ・・・さっき、先輩も謝りに来てくれた。」


「そうか・・・・。」


電話の向こうで、ため息をつく気配。


「わかった。いいよ。でも、これからも今までどおりの付き合いはできるかな?」


ああ。

健ちゃんって、すごくいい人だ。

こんなふうに潔く言ってくれるなんて。


「うん。それはあたしからもお願いしたいな。」


「俺が・・・『あーちゃん』って呼んでも?」


「もちろん! あたしも『健ちゃん』って呼ぶよ。」


「俺のことはクラス中の女子が呼んでるんだから、あたりまえだよ。」


健ちゃんが残念そうな声で言い、二人で一緒に笑う。

その笑いで心の中の不安が取り除かれて、ふと、今までのことを思い出す。


「ねえ、健ちゃん。」


「ん?」


「あたしたち、吉野先輩を守るのは失敗しちゃったね。」


「ああ・・・、そうだな。」


「あたしたちの『守る会』は、全然役に立たなかったのかな・・・?」


ちょっとの間、健ちゃんからの返事はなかった。

でも、そのあとに健ちゃんと交わした言葉は、あたしにとって、とても大切なものになった。


「吉野先輩を守ることはできなかったけど、俺にとってはすごく大事なことだったと思う。」


「大事なこと?」


「うん。あーちゃんとも、窪田とも、響希とも、仲間になったから。」


「仲間・・・。」


「うん。ただのクラスメイトじゃなくて、もっと近いっていうか、遠慮しないで何でも言えるっていうか。」


「そうか・・・。」


仲間か・・・。


「あ!」


「どうした?」


「さっき、図書室の前で吉野先輩に『どういう関係?』って訊かれたとき・・・。」


「うん。」


「あたし、『クラスメイトです。』って言った・・・。」


「そうだよ。ショックだったなあ・・・。」


「ごめんね。」


「まあ、あの状況ではしょうがないよな! でも、吉野先輩って、怒ると恐いな。」


「そうだよね、あの目つき! お兄ちゃんも恐いって言ってたよ。けんかしたときは、仲直りするのに2日かかったって。」


「そうなのか?! あんなにいつもにこやかなのに・・・。見かけによらないな。」


「本当にね。だけど、吉野先輩が怒ることなんて、滅多にないんじゃないかな?」


「じゃあ、俺は貴重な体験をしたってことだ。やっぱ、ファンクラブ会長だもんな! ははは!」


それから、健ちゃんとあたしはいろんな話をして、たくさん笑った。

健ちゃんはあたしの・・・大切な友達だ。



夜に奈々に電話した。

図書室での一件と、そのあとのことも全部話した。


健ちゃんが『守る会』で仲間ができたと言っていたことを話すと、奈々は「フフン。」と鼻で笑った。


「健ちゃんはどっちかっていうと手下みたいなものだけど、そんなに言うなら仲間って認めてあげようかな。」


奈々ったら!


「あたしはね、とにかく楽しかったよ。」


と奈々が笑う。


「普通、誰かのことを見張ったり、メンバーで連絡を取り合ったりって、高校生になったらやらないもんね。」


「たしかにそうだね。あたしたちってみんな、子どもっぽいのかな?」


「あのね、子どもだったんだと思う。」


奈々は少し真面目な調子で言った。


「子どもだった?」


「うん。特にあーちゃんとあたし。」


「そう? 今より?」


「うん。笹本先輩が吉野先輩に優しいからって、笹本先輩が吉野先輩を好きなんだって決めつけたり、吉野先輩の雰囲気だけを見て、自分で身を守れない人だって思い込んだり。」


・・・そうか。


「そうだね。吉野先輩、自分の身を守れないどころか、今回はあたしの方が守ってもらっちゃったもんね。」


「うん。人は見た目の印象だけでは分からないってことがわかったし、男子と女子の間にも、恋愛抜きに相手を思いやる関係が築けるってこともわかった。」


「そういえば、吉野先輩と早瀬の関係だってそうだよね。」


「ああ、半分ね。」


「そうか。半分だね。」


早瀬は吉野先輩のことが好きなんだもんね!




早瀬はどうなんだろう?

『守る会』で何か変わったんだろうか?


学校の帰りにお邪魔したお礼を兼ねてメールで質問してみたら、こんな簡単な答えが返ってきた。



『お互いに名前で呼ぶ友達ができたことくらいじゃないか?』



たしかに健ちゃんとは仲がいい。


でも、健ちゃんと仲が良くなって、お互いに名前で呼び合うようになってから、早瀬のことを名前で呼ぶ男子が増えている。

それに、気さくで明るい性格の健ちゃんは女子に頼りにされるタイプだから、よく一緒にいる早瀬も女子に頼られることも多くなった。・・・まあ、早瀬の場合、女子が近付いてくる理由はほかにもあるけど。


よく考えると、早瀬が一番変わったかも。『守る会』のせいばかりではなく。


入学したころのとげとげしさとか、何か構えた雰囲気がなくなって、よく笑うようになったと思う。

きのうみたいに、お兄ちゃんに甘えたりするし。

なんていうか・・・素直になった?


パッと見は子どもっぽくなったように見えるけど、4月のころの方が、子どもじみた態度だったんじゃないかと思える。

素の自分を出すっていうのは、そんなに簡単なことじゃない。・・・笹本先輩のように。



あたしは?


最初に始めた『守る会』では、笹本先輩に・・・吉野先輩にも、目的を誤解された。

でも、目的を誤解されたから(本当は誤解じゃなかったかもしれないけど)、笹本先輩はあきらめないでいてくれた。


4人で頑張った『守る会』は、やっぱりあたしにも仲間をくれた。

健ちゃんも早瀬も、あの活動がなければ、こんなに信頼できる関係を築くことはできなかったと思う。

それに、あれがなければ笹本先輩が早瀬にやきもちを妬いて、あたしに勉強を教えるなんて言い出すことはなかったかもしれない。


つまり・・・あたしは彼氏を手に入れた?

なんだか安易な結末みたいな気がするけど・・・。


ほかにもいろんな人や出来事を見て、奈々が言っていたように、考え方が変わったり、新しいことを知ったりした・・・よね?



やっぱり『吉野先輩を守る会』の活動は、あたしたちみんなに、何かしら与えてくれたんだと思う。







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