表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十三章 ハッピー・エンド♪
90/95

Fight! (3)



健ちゃんと早瀬と3人でおしゃべりしながら廊下を図書室の方に曲がったら、図書室の前で生徒が二人、話しているのが目に入った。



―― 吉野先輩と笹本先輩。



親しげな様子で、笑いながら。

心臓がドキン、と打つ。



・・・また妬いてる。



そうだよ。

あたしは笹本先輩のことが好き。


吉野先輩の気持ちは、疑う余地がないくらい真っ直ぐにお兄ちゃんに向かってる。

笹本先輩は、吉野先輩のことは、妹のように思っているだけ。

じゃあ、あたしのことは・・・?



「陽菜子!」


隣にいた早瀬が、嬉しそうに吉野先輩に向かって走って行く。

いつもみたいにそのまま抱きつくのかと思ったら、手前で止まった?

吉野先輩がにっこり笑って、手を伸ばして、早瀬の乱れた髪を直してあげている。


早瀬・・・少し大人になった?

まあ、その分、うちのお兄ちゃんに甘えてるみたいだけど。


笹本先輩が笑顔でこっちを向いて・・・健ちゃんを見て、ちょっと驚く。すぐにまた笑顔に戻ったけど。


吉野先輩をちらりと見ると、先輩はあたしを励ますように小さくうなずいた。



よし!

とにかく、今日を乗り切ろう!



「今日もよろしくお願いします。」


真っ直ぐに笹本先輩を見て。


あたしの横で、健ちゃんが気軽な様子で先輩たちにあいさつしてる。

それに応えて、吉野先輩がよく通る明るい声で健ちゃんに話しかける。


「こんにちは、近藤くん。近藤くんもテスト勉強なの?」


「は、はい。」


慌てた様子の声に健ちゃんを見たら・・・真っ赤になってる。

吉野先輩のファンクラブ会長だもんね!


「そういえば、茜ちゃんたちと一緒にあたしのことを見守ってくれてたんだってね? 本当にお世話になりました。」


「え? いえ、あの、そんな。」


吉野先輩に丁寧にお礼を言われて、ますます舞い上がる健ちゃん。


「お勉強でわからないところがあったら言ってね。わかる範囲でなら見てあげるから。」


「えー? 健太郎もー?」


早瀬が不満そうな顔で抗議。

でも、吉野先輩が健ちゃんを引き受けてくれるなら、あたしは安心だな。


「どの科目?」


それまで穏やかにやりとりを見ていた笹本先輩が健ちゃんに尋ねる。


「ええと、とりあえず数学、です。」


「ああ、それなら、よかったら茜ちゃんと一緒に見てあげるよ。」


え?!


「まあ、キミが・・・嫌じゃなければ、だけど。」


笹本先輩?!

その・・・微笑んでるようで、違う意味を潜ませた表情はなんですか?!


嬉しいような気がするけど・・・、やっぱり困る!!

健ちゃん! 挑発に乗らないで!


「え? いいんですか? じゃあ、お願いします。」


うそ〜〜〜〜?!

健ちゃん、やめてよ・・・。


あたしの願いは届かず、健ちゃんが笹本先輩に強い視線を返しながら・・・あれは笑ってるって言えるの?

吉野先輩! どうしよう?!


困り切って吉野先輩を見ると、先輩は “しょうがないね” という顔で二人を見ていた。

それから、あたしに近寄って、小声で言ってくれる。


「無理そうだったら助けるから、心配しないで。」


本当に、よろしくお願いしますね・・・。




起こったことに立ち向かおうと決心してきたにもかかわらず、あたしはどうしたらいいのか全くわからない。

教科書とノートを広げたとたん、笹本先輩と健ちゃんの微妙な雰囲気が机を支配した。


いつもの4人机で、あたしは先輩の左隣。健ちゃんはあたしの向かい側。

あたしはきのうの続きから先輩に説明をしてもらい、健ちゃんは自分で問題集に向かう。


吉野先輩は少しあとから早瀬と一緒に入って来て、あたしの斜め後ろの机に。

英語の文法や単語を説明する声が、ときどき聞こえる。



あたしは覚悟を決めてきた・・・はずなんだけど!


笹本先輩に説明してもらうとき、先輩との距離がいつもよりさらに気になる!

それに、先輩がときどき健ちゃんに向ける目も!

あと・・・、あと、できたときに頭をなでないでください! だって・・・、困ります!


先輩に目で訴えても、先輩はいつものように優しく微笑むだけ。

どうして分かってくれないの?!


健ちゃんは・・・先輩を睨んでるよ〜〜〜!!


どうしたらいいの?!



15分くらい経ったころ、後ろでカタン、と椅子を動かす音。

それから、あたしの左側でかがむ人影・・・吉野先輩。


「茜ちゃん、今日は帰ろうか。」


凛とした、いたわるような声。


「「え?」」


あたしの右と前で、驚いたように吉野先輩を見る二人。

その二人に返す吉野先輩の視線・・・冷たい。


「は、はいっ!」


大急ぎで返事をすると、吉野先輩はにっこりと微笑んだ。


「響希。行くよ。」


うしろで早瀬が席を立つ音。

あたしも急いでバッグに荷物を詰めて、立ち上がる。


「ありがとうございました。お先に失礼します。」


「笹本くん、近藤くん、またね。」


可愛らしく小首をかしげて、呆気にとられたままの男二人にあいさつすると、早瀬が恭しく渡したバッグを手に、吉野先輩はあたしの背中に手をかけて出口へと歩き出す。

早瀬が召使いのように開けてくれた戸を通り過ぎて、ようやくほっとする。


「吉野先輩・・・。」


引き戸を閉めたところで、吉野先輩にお礼を言おうと立ち止まると、閉めたばかりの戸がまた開いた。


「茜ちゃん。」

「あーちゃん。」


あー、もう!

やだよー!!


思わず吉野先輩を盾にするように後ろにまわってしまう。

あたしの方が大きいから、隠れるってわけにはいかないけど・・・。


「なあに?」


吉野先輩が二人に向き直って、あたしに代わって返事をしてる。

その声が、なんとなく鋭い。


「あの、ぴいちゃん、茜ちゃんとちょっと話を・・・。」

「ええと、藤野さんに、あの・・・。」


吉野先輩が、しどろもどろにあたしと話をさせろと言う二人から、あたしに視線を移す。


「茜ちゃん。」


にこにこしてるけど、やっぱり声がいつもよりも鋭い。

その声があたしを助けようとしていると思うと心強くて、あたしもしっかりと返事をする。


「はい。」


「茜ちゃんと笹本くんとは、どういう関係?」


え? どういうって・・・・・ああ! わかりました!


「あの、天文部の先輩と後輩です。」


「近藤くんとは?」


「クラスメイトです。」


「そう。」


吉野先輩がにこやかな表情のまま、呆然としている笹本先輩と健ちゃんの方を向く。


「その人たちに、困っている茜ちゃんを引き留めるどんな権利があるの?」


言葉は柔らかいけど、その言い方が・・・恐い。

一呼吸待って、二人が何も返事ができないことを確認して、吉野先輩がくるりと振り向く。


「さ、帰ろう。」


小柄な吉野先輩が、左右に早瀬とあたしを従えて颯爽と歩き出す。

そのとき。


「陽菜子には何か権利があるのか?」


早瀬!

助けてくれてるんだからいいんだよ!


「え? あるよ。」


え? あるんですか?


「藤野くんの妹なら、あたしの妹と同じだもん。」


やだーーー、先輩!

そんな平気な顔で? まるでもう結婚が決まってるみたいに?

聞いてる人は少ないですけど、いつもはお兄ちゃんの話であんなに恥ずかしがるのに!


でも、先輩・・・かっこいい。


「訊くんじゃなかった・・・。」


早瀬がぼそりと言った。




廊下を曲がったところで、吉野先輩が教室に寄ると言う。お兄ちゃんを待たせているのだと。

早瀬とあたしに昇降口で待っているようにと言った吉野先輩に、早瀬が教室までついていくと言う。きっと、先輩とお兄ちゃんを二人きりにしたくないんだ。


結局、みんなでお兄ちゃんのところに行くと、予想よりも早く戻ってきたあたしたちに驚いたようだった。

吉野先輩が簡単に成り行きを説明して、じゃあ帰ろうかと4人で歩き出したとき、早瀬が思い出したように言い出した。


「陽菜子。せっかくだから、うちで勉強教えてよ。どうせ近くだし。」


「響希の家? そういえば、ずっと行ってないね。」


「そうだよ。きのう、母さんがパイを焼いてたよ。」


「あ、本当? おばさまのパイ、美味しいんだよね。行こうかな。」


「え、あの、吉野?」


お兄ちゃんが慌てて口をはさむ。

さすがに、吉野先輩が一人で早瀬の家に行くのは黙って見過ごせないよね。


「ああ、藤野くんと茜ちゃんも行こうよ。大丈夫だよね、響希?」


吉野先輩に言われて、早瀬はしかめっ面でお兄ちゃんを見てから、ニヤッと笑った。

お兄ちゃんがヤキモキしてるのを見て、満足したらしい。


「気は進まないけど、どうぞ。」


それから。


「藤野先輩の分のパイはないかも。」


「足りなかったら、あたしのを半分あげるから大丈夫。」


吉野先輩のフォローに早瀬はがっかりして、お兄ちゃんは得意気な笑顔になった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ