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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十三章 ハッピー・エンド♪
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Fight! (2)



「窪田、あーちゃん、おはよう。」


教室に着くと、健ちゃんがいた。

普段は朝練で、もっと遅くならないと教室には来ないのに。


きのうは・・・だめだめ、気付かないふり。

いつもの笑顔だ。


「おはよう。」


「今日も、放課後に勉強会?」


うわ。

いきなり、この話題?


「う、うん、そうだよ。」


「俺も図書室で勉強しようかな?」


ええ?!

どうしよう?


『放っておきなさい。』


そうだ。

吉野先輩は勝手にさせておけって言ったんだっけ。

気付かないふりをして、ね。

それに、健ちゃんは “一緒に” とは言ってない。


「いいんじゃない? 空いてるし、静かで落ち着くよ。」


「じゃあ、そうしようっと!」


隣で奈々が密かに笑ってる。


吉野先輩。

先輩の助言どおり、勝手にさせようと思ってはいますが・・・なんだか不安なんですけど?!




それから授業中もずっと、不安は去らなかった。


図書室まで、健ちゃんと一緒に行くのかな?

席は別なところに座ってくれるかな? もし、一緒にって言われたらどうしよう?

笹本先輩は、どうするだろう?


笹本先輩・・・?


慌てる?

やきもちを妬く?

まさか、健ちゃんに詰め寄ったりしないよね?


それで、あたしにちゃんと「好きだ」って言ってくれたら嬉しいけど・・・。


けど?!


それじゃあ、健ちゃんをあたしの目的のために利用することにならない?!

そんなのダメだよ! 健ちゃんに悪いもん!


どうしたらいいんだろう?!


健ちゃんに、あたしは笹本先輩が好きだって言った方がいいの?

だけど、そんなこといきなり言うのって、変だよね?

だって、健ちゃんがどんなつもりなのか確信がないんだから・・・。


どうしよう?!



わけが分からなくなって、思考はぐるぐると繰り返してばかり。


「奈々〜。どうしたらいいの?!」


休み時間に奈々に泣きつくと、奈々は笑うだけ。


「二人に想われて泣きごと言うなんて、贅沢だよ。」


って。


こうなったら、吉野先輩に相談しよう!

吉野先輩は事情を全部知ってるし!




昼休みに急いで3年8組へ。

前の戸口からのぞくと、吉野先輩は教室の真ん中あたりで女子5人でお弁当を食べている。


どうしよう?

声をかけにくい・・・。


おろおろしながら後ろの戸口に移動してのぞいたら・・・目の前の席にお兄ちゃんが。

お兄ちゃんを見て、こんなにほっとしたのは何年振りだろう・・・。


「おっ、お兄ちゃん、お兄ちゃん。ちょっと。」


小声で呼ぶと、すぐに気付いて出てきてくれた。


「どうした? 何かあったのか?」


あれ? 心配してくれてる?

こんなときだけど、やっぱりお兄ちゃんなんだ、と心の中がほっこりする。


「あの、吉野先輩に相談したいことがあって。」


「吉野に?」


お兄ちゃんは眉を寄せて、少し不安そうな表情。


「吉野だけでいいのか? 長谷川も呼んだ方が・・・。」


「え? どうして?」


そんなの恥ずかしいよ!


「だって、吉野はあんまりそういうことには・・・。」


そ、そういうことって・・・、お兄ちゃん、あたしの相談内容分かってるってこと?!

それも恥ずかしい!!


「あ、あの、吉野先輩だけでいい。」


「・・・・・わかった。待ってろ。」


吉野先輩はすぐに出てきてくれた。


「お弁当中にすみません!」


「ううん。食べ終わってたから大丈夫だよ。どうしたの?」


「先輩! あたし、また、どうしたらいいのか分からなくなって・・・。」


先輩は声を小さくして、


「笹本くんのこと?」


と訊いてくれた。


「はい。」


「じゃあ、ちょっと移動しよう。歩きながら話して。」




隣の校舎を抜けて、校庭側の校舎へと歩きながら、健ちゃんのことを話す。それから、あたしが不安に思っていることも。


「あらら。なんだか困っちゃうね。」


「本当は、さっさと健ちゃんを断ってしまった方が気が楽なんですけど、健ちゃんが何も言わないから、自分の勘違いだとみっともないし・・・。」


「うん、そうだよね。」


吉野先輩は窓から校庭をながめながら、一生懸命考えてくれる。


「ねえ。今日は、あたしも一緒に行ってみようかな?」


「え?」


それで何か効果があるんでしょうか・・・?


「知り合いが近くにいれば、その場で言い争いになったり、おかしな雰囲気になったりっていうのは避けられると思うよ。まあ、一時しのぎでしかないけど。」


ああ、なるほど・・・。


「それにね、なんとなく、今後の勉強になりそうだし。」


吉野先輩の参考になるようなことなんて、なさそうですけど?


ふと、不安がよぎる。

もしかしたら、面白半分なのでは・・・。


あたしの新しい不安をよそに、吉野先輩は笑いながら続けた。


「響希に、今日は放課後に図書室で勉強を見てあげるって言っておいて。」


「え〜〜〜〜?! 早瀬も来るんですか?!」


「そうすれば、あたしが図書室に行く言い訳になるでしょう? 大丈夫。あの子には口出ししないように言うから。」


「は・・・、はい。よろしくお願いします・・・。」


本当に大丈夫なのかな?

お兄ちゃんが言ったとおり、長谷川先輩にも一緒に相談に乗ってもらった方がよかったのでは・・・?

ああ、でも、もう遅い。


吉野先輩にあたしたちがいつも座る席を教え、先輩の気楽な笑顔に見送られて教室へと戻る。

早瀬に吉野先輩の伝言を伝えると、早瀬は踊り出しそうなほど喜んだ。

こんなに素直に喜べるなんて・・・、羨ましい・・・。




放課後。


不思議なことに、あんなに不安だった気持ちはなりを潜め、静かな決意みたいなものがわき上がってきた。

決意 ―― というよりは、闘志、みたいな、 “やってやろうじゃないの!” という気持ち。

もちろん、心の奥底には不安があるけれど。


これで、笹本先輩とうまくいかなくなっても仕方ない。

そうなったらそうなったで、そのときに考えよう。



今まで、笹本先輩とのことは、先輩主導で流されてきたような気がする。あたしはいつも、先輩の前で、ただ恥ずかしがったり、驚いたりするだけで。

ドキドキして、楽しくて、幸せな気分だったけど、それは・・・本当のあたしじゃないような気がする。


だから、うまくいかなくなっても仕方がない。

本当のあたしじゃないままで進んで行っても意味がないから。


「あーちゃん、図書室まで一緒に行こう。」


健ちゃんがウキウキと誘いに来た。


「うん。」


そうだ。

健ちゃんのことも、ちゃんと考えてみよう。


「あ、ちょっと待って。俺も!」


それに、今日は吉野先輩が守ってくれるはず。一応、早瀬も、かな?


・・・ちょっと不安だけど。






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