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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十一章 茜
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あれ? ちょっと・・・変?(10)



先週の木曜日に笹本先輩からお勉強会の申し出をされたところから、今日の健ちゃんと笹本先輩のやりとりまで、吉野先輩に一気に話す。

そして、あたしが何故、大きな声を出して、枕を投げつけるに至ったかも。


『あら、まあ。』


吉野先輩ののんびりした相槌に、思わず笑ってしまった。 自分のことなのに。

笑いながらも、文句を言う。


「だって、二人とも勝手だと思いませんか? あたしのことを無視してますよね?」


『ホントだね。茜ちゃんに何も言わないなら、見えないところでやってほしいよね!』


「そうですよ!」


『そんなの、知らんぷりしちゃえばいいんだよ。』


「え? いいんですか?」


『いいんだよ。好きな人を困らせるようなことをする方が悪いんだから。』


ふうん。

それでいいのか。


でも、“好きな人” って、決めちゃっていいのかな・・・?

・・・いいや。

放っておくんだから、そんなこと考える必要ないや。


『それにね、二人が争ったからって、茜ちゃんが勝った方を好きになるって決まってるわけじゃないでしょう?』


「あ。」


そうか。


『だから、勝手にやらせておけばいいんだよ。茜ちゃんは何も言われてないんだから、気付かないふりでいいと思うよ。笹本くんにも、いい薬になるよ。』


「笹本先輩にも、ですか?」


気付かないふりをしてもいいの?


『そうだよ。茜ちゃんの話だと、今回のお勉強会のことだって、笹本くんがけっこう強引に決めたみたいだけど?』


強引・・・。

そうか!


「そうですよね?! 強引ですよね?! どうも変な気がしてたんですよ。断る隙がないっていうか・・・。」


『ふふ。それだけ笹本くんがあせっていたんだと思うけど、いきなり押しの一手っていうのは驚くよね。でも、こういうことに先輩の権力を利用するなんて、だめだなあ。』


「先輩の権力?」


『そうだよ。茜ちゃんは後輩だから、遠慮して断れないだろうって、笹本くんは思ったんじゃないかな? それとも、自信があったのかな?』


「自信・・・ですか?」


『自分は茜ちゃんに好かれてるっていう自信。』


「え? せ、先輩、何を。」


『ああ、もしかしたらそっちかもね。』


「ど、どうしてですか?」


『だって、あたしもそう思ってたもん。茜ちゃんが笹本くんのこと好きだって。』


「あの、何を根拠に・・・?」


『あのね、あたしが笹本くんと話してると、よく割って入って来てたから。ヤキモチを妬いてるんだと思ってた。』


それって・・・、それって、前の『守る会』の・・・?

ほかの人からはそう見えてたの?


そういえばあのころ、あたしと奈々が笹本先輩に吉野先輩のことを訊いたりすると、笹本先輩がこっそり笑ってたことが・・・。

やだ〜、もう!!

よく考えたら、吉野先輩のことを “妹” って言ったときも、あたしのことをからかうような顔をして・・・。

つまり、笹本先輩は、あたしが先輩のことを好きだってわかって・・・いや、思い込んで・・・いや、やっぱりわかっててって言うべき? いや、勘違いして・・・かな?

あ〜、もう、どうでもいいや!

でも、恥ずかしい!


「でも、でも、あの、あたしだけじゃなくて奈々も。」


『あ、だって、奈々ちゃんは真悟のことが好きだって、あたしは知ってるもん。』


「ええっ? 吉野先輩、いつから・・・?」


すごい情報網!

あ、もしかして、早瀬・・・?


『ゴールデンウィークに4人でお出かけしてるところを見かけたよ。』


あの日?!

吉野先輩もあの辺にいたんだ!


『だから、今回、奈々ちゃんに協力を頼むときに、一度、うちに遊びにおいでって言ってね。ふふふ。』


先輩?

そういうの、買収って言うのでは・・・?


『まあ、いいじゃない? 奈々ちゃんのおかげで、笹本くんが行動に出たんだから。』


そう言われてしまうとそのとおりで、これ以上は何も言えなくなってしまうのですけど・・・。


『だけどね、今は茜ちゃんのことを困らせてるのは間違いないんだから、茜ちゃんは怒っていいんだよ。』


「・・・そうですか?」


『うん。こういうことに、先輩も後輩もないと思うよ。我慢してないで、怒りなさい。』


「どんなふうに?」


『それは茜ちゃん次第だよ。』


うーん・・・。


「あのう・・・、吉野先輩はお兄ちゃんとけんかしたこと、ありますか?」


『え? あ、あ・・・、あるよ、一回だけ。あの、まだ、あの、お付き合いする前に。』


先輩、恥ずかしいんだ。

ごめんなさい。

でも、教えてください、参考に。


「どんなけんかだったんですか?」


『え? ええと、ふ、藤野くんと電話してるときに、あの、ちょっと行き違いがあって、で、あたしが怒って電話を切っちゃったの。』


「お兄ちゃんはその場で謝らなかったんですか?」


『あの・・・、すぐに電話が来たけど、出ないで切った・・・。メールも怒ったまま、ひとこと返しただけで・・・。』


「じゃあ、その日には・・・?」


『仲直りしたのは2日後くらいかな?』


2日もかかった?!

こんなに温厚な吉野先輩なのに?!


「どうやって、仲直りしたんですか?」


『藤野くんが飴を・・・。やだ、もう! 茜ちゃんは笹本くんに考えてもらって!』


「あ、ああ、そうですよね・・・。」


でも・・・、怒っても大丈夫なんだ・・・。

吉野先輩とお兄ちゃんって、今はすごく仲良しだもんね。


「わかりました! あたしも遠慮しないで怒ります! ありがとうございます!」


よし!

あたしをこんなに悩ませた罰だ!


・・・・あ。

せっかくだから、あと一つだけ訊いちゃおうかな?


「あのう・・・、先輩?」


『なあに?』


「笹本先輩のこと、どう思ってますか?」


ずっと心にあった質問。


『笹本くん? しっかり者だけど、恥ずかしがり屋さんだね。』


あれ?

てっきり “仲間” とか “お友達” とか、そういう言葉が出てくると思ったのに。


「恥ずかしがり屋、ですか?」


『そうだよ。いつも余裕ありそうにしてるけど、たまに赤くなって困った顔してるよ。そういえば、それを慰めるのがあたしの役目だったんだよね。』


「吉野先輩の?」


『うん。どうしてかな? そういうときって、いつもあたしのところに来るんだよ。あたしが慰め上手なのかな?』


違うと思います。

やっぱり、吉野先輩は笹本先輩の心の支えだったんだと思います。

ただの “妹” じゃなくて、 “大事な妹” ですもんね。


『そういえば、藤野くんも・・・』


「え? お兄ちゃん?」


『あ! いや、なんでもない。あ・・・あの、笹本くんを慰めるのは、これからは、茜ちゃんの役目だよ。』


「はい・・・。」


そうなれたらいいんですけど。


「あ、あと一つだけ。」


『はい?』


「先輩は早瀬のことを『弟と同じ』って言ってましたよね?」


『ああ、うん。』


「それって、どういう意味なんでしょう?」


『どういう意味・・・って、具体的には説明しにくいけど・・・。たとえば、面倒を見てあげたり、悪いことをしたら一緒に謝ってあげたり・・・みたいな感じかな。』


「面倒をみる・・・。そうですか・・・。」


『もしかして、響希がクラスで何か?』


「い、いえ、違います! 早瀬はみんなと仲良くやってます。」


『それならいいけど。あの子、生意気だから心配でね。』


「大丈夫です。何かあったら、吉野先輩に言い付けるぞって、脅しちゃいます!」


『それがいいよ! 是非、そうしてね!』


吉野先輩が笑う。

あたしも一緒に。


そうだ。

“妹” は、心配して、面倒をみてあげる相手だ。


でも、恋愛対象外。



吉野先輩。

本当にありがとうございます!









次はちょっと休憩して、藤野くんのおはなしが入ります。

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