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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十一章 茜
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あれ? ちょっと・・・変?(8)



家に帰ってから、自転車置き場での出来事を何度も思い出してしまう。


健ちゃんの態度。

笹本先輩の表情。


あれって、まるで・・・。


ああ、もう!

勝手にあれこれ考えるのはやめたいのに!


・・・・・?

勝手に・・・?


ちょっと待って!

あたし、もしかしたら、とんでもない勘違いをしているのかも。



笹本先輩は吉野先輩のことを、あたしに説明してくれた。

それを聞いて、あたしは・・・自分の気持ちを・・・、ずっと言葉にできなかった気持ちを、言葉にしてもいいんだって思った。


あたしの気持ち。


言葉にしたら確定してしまうから、できなかった。

笹本先輩が吉野先輩のことをあきらめきれないでいると思って。

あたしの気持ちは、どこにも行き場がなくて、ただ悲しいだけだから。


だから、それを表す言葉を与えなかった。


・・・ちょっとだけ、ピンポイントで使ってみたりはしたけど。

だって!

考えずにはいられなかったもん!


声とか、メガネとか、お兄ちゃんと比べて、とか・・・・とか。


そうやって、部分的に気に入ってるだけって、自分に言い聞かせていたところもあるし・・・。



でも、今は。



“笹本先輩が好き” 。



思ったとおり、一度、言葉で表したら、もう取り消すことができない。

心の中にいつもその言葉がどーんと居座ってる。

一人のときも、先輩と一緒にいるときも。


だけど。


はやまったかも・・・。


だって、笹本先輩は、吉野先輩のことを説明してくれただけ。

お兄ちゃんは、笹本先輩にちゃんと説明してもらえれば先に進めるって言ったけど、先輩の態度って、前と変わった?


・・・ううん。変わってない。


いつもと同じ優しい笑顔。

いつもと同じ優しい言葉。


そう。

優しいのはいつものこと。

親切なのもいつものこと。


だって!


恋愛対象外の吉野先輩にだって、あんなに優しいよ!


それに、あたしのことは、何も・・・。




・・・吉野先輩、か。


あたし、吉野先輩にヤキモチを妬いてたんだ・・・。




初めて天文部に行ったとき、笹本先輩があたしのことを覚えていてくれたことが嬉しかった。

2年も会っていなかったのに、一目見て、あたしだって分かってくれた。

そして、「茜ちゃん」って呼んでくれて。


中1のとき、塾で笹本先輩を何度も見ていた。

先輩が言っていた、あたしが先輩にすがって泣いちゃった話は全然覚えてないけど。

実を言うと、いくら考えても、あのころに「茜ちゃん」なんて呼ばれた記憶もない。

高校に入って会ったときに先輩にそう呼ばれて、 “ああ、そうだったっけ” って思っただけで。

でも、もしかしたら、ほとんど話したことなんてなかったのに優しいっていう印象があったのは、そういうことがあったからなのかも。


それに・・・、先輩が中学を卒業して塾をやめたあと、2才年上の人と付き合ったのは、その人に笹本先輩みたいな優しさを期待したからのような気がする。(全然、そんな人じゃなかったけど!)



奈々にかこつけて天文部に入部することにしたけど、本当は少しだけ期待してた。・・・もしかしたら、覚えててくれるかなって。



覚えててくれた!

「茜ちゃん」って呼んでくれた!



けど・・・、笹本先輩の優しさが吉野先輩に向けられていることを知ったとき、すごくショックだった。

ショックを受けたことが、またショックだった・・・。



それから何度も思った。


“吉野先輩はお兄ちゃんの彼女だよ!” 


吉野先輩はかわいくて、幸せそうで、優しくて・・・みんなを虜にする。

あたしも吉野先輩のことが大好きで・・・でも、いつも自分と比べて、ヤキモチを妬いていた。


笹本先輩が「ぴいちゃん」と呼ぶたびに。

「気をつけて」って言うたびに。

二人が視線で会話するところを見るたびに。



“笹本先輩、あきらめてください” 。



『守る会』を最初に作ったときは、本当に吉野先輩のことを守ろうと思っていた。

だけど、その気持ちの裏に、あたしの願いがなかったって、はっきり言える?

もちろん、あのころは本気で奈々の応援をするつもりでいたんだけど。


奈々が真悟くんに一目ぼれして、笹本先輩をあたしに譲るって言い出したときは、本当にびっくりしたっけ。

あんまり急だったし、あのころはまだ自分の気持ちがよく分かってなかったから。


それに、奈々がいくら頑張れって言ったって、笹本先輩の目は吉野先輩に向いている。

頑張っても悲しいだけ。

だから、頑張りたくなかった。


・・・そう思ったってことは、たぶんその頃も先輩のことが好きだったんだね、やっぱり。


でも、自覚してなかった。


違う。

見ないようにしていたんだ。


でも、心は正直で、吉野先輩にヤキモチを妬いて。

だけど、吉野先輩のことは大好きで。


笹本先輩が親切にしてくれると嬉しくて。



そういえば、あたしが悩んでいると思って、名刺をくれたのはいつだっけ?

ほかのものと一緒にしておくのがもったいない気がして、一枚だけで引き出しにしまってある。


学校の帰りに「気をつけてね。」って言われることも嬉しかった。


アイスでも、なんて言ってくれたこともあったな・・・。


プラネタリウムで眠っちゃったときも・・・あれは恥ずかしかった!

いくら吉野先輩に頼まれたからって、あれは・・・。



笹本先輩はいつも親切だった。

でも、あたしにだけじゃない。

“妹” の吉野先輩にだって、いつも優しい。



・・・でも、勉強を見てもらってるのはあたしだけだ。


いや!

あのときは奈々も誘った。

単に奈々が断っただけ。


だけど、お家にも行った・・・。


あれは、ほかに勉強する場所がなかったからだよね?


でも、「次」って先輩が言ったのは?

それに、「歩いて迎えに来る」って・・・。


ああ、もう!



その言葉だけで期待していいの?!

あたしのことも “妹” じゃないって言い切れる?!



そう。

つまり、そこなんだ。


笹本先輩は、何も言ってくれてない。



それなのに、さっきは自転車置き場で健ちゃんと・・・。

なんで、健ちゃんと先輩がああいう状態になるわけ?


いや、“ああいう状態” って、ええと・・・、その・・・、ちょっと言いにくいけど。

勘違いだと困るし。



・・・ああ、もう、めんどくさい!!


どうして、みんな勝手なことばっかりしてるんだろう?!

言わないんだったら、態度に出さないでよ!

そんなことされたら、あたしが混乱するだけだって、わからないの?!!



「もう・・・、ばかっ!!」



思いっきり叫んでみる。

それからベッドの上の枕を壁に投げつけて。


「みんな、大っきらい!」


こんなにあたしを混乱させる笹本先輩も、健ちゃんも、大嫌い!



大きな声を出したら力が抜けて、ベッドの上にうつぶせに倒れ込んでしまった。



あーあ。

もう、何もかもめんどくさい・・・。



ぼんやりしていたら、机に置いた携帯が鳴りだした。

さっき、あれを投げなくてよかった・・・。


発信者を見て、驚いた。


吉野先輩からの電話だった。









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