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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十一章 茜
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あれ? ちょっと・・・変?(7)


日曜日のお勉強会は・・・楽しかった!


朝、先輩が迎えに来るのが恥ずかしくて家族には言えず、外で待っていようと思っていたら、先輩が予想外に早く到着。

インターホンに出たママに「笹本です。」って先輩が名乗ったので、事情を知らなかったママはお兄ちゃんを呼んでしまった。

お兄ちゃんはわざと知らん顔して玄関に出て、笹本先輩をからかった。

あたしが大慌てで家から出たときの、先輩のほっとした顔ったらなかった!

・・・笑ったらいけないけど。


先輩のご両親はお出かけで、広いお家に二人きり。

広い机がいいからと、リビングのテーブルに勉強道具を広げて。

人目を気にする必要がないし、声をひそめる必要もない。

はじめは少し緊張したけど、すぐに勉強に集中することができた。


お昼は先輩のお母さんが作っておいてくれたサンドイッチ。

先輩は、お母さんにあたしのことをどう説明したんだろう・・・?


お昼を食べたあと、また先輩に送られて帰って来た。

本当は一日中でも勉強できそうだったけど、さすがにそんなに先輩の時間をいただくわけにはいかないから。

先輩の家から我が家までは、自転車で5分弱? あっという間。

うちの前に着いたとき、サヨナラしながら言われた言葉。


「次にうちに招待するときは、歩いて迎えに来るよ。」


本当は、もう先輩の家まで一人で行けるけど・・・。

ドキドキして、先輩の顔を見ていることしかできなかった。


午後は一人でお勉強・・・なんて、こんな心境で、はかどるわけがない。

だけど、先輩に心配をかけるような成績じゃ困る。

頑張らなくちゃ!




6月11日、月曜日。

今日も放課後に一時間、図書室でお勉強の予定。


心が軽い。


奈々は・・・何も尋ねない。

休み時間に、思い出したように「今日もやるの?」って訊いただけ。

前は、あんなにあれこれ言ってたのに。

なんだか気が抜けちゃうな。


早瀬は毎朝、吉野先輩と一緒に勉強していると言った。

この期間はお兄ちゃんが朝の通学から一緒にいるはずだから、吉野先輩と早瀬とお兄ちゃんの3人でやってるってこと。

まったく、こんなに諦めないなんて、感心してしまう。

でも、もしかしたら、案外3人で仲良しなのかも。うちで夕飯を作ったときも、楽しそうだったし。



放課後。

金曜日とはまったく違う気分で図書室に向かう。

今日は土曜日みたいには混んでいなかった。


金曜日と同じ4人机を二人で占領。

土曜日に、みんな見ていないようで、実はちゃんと見られていたことを思い出して、図書室の中を見回してしまった。


あんなに何度も先輩と並ぶ位置が気になっていたことを思い出して、今日は先週とは左右逆になるように座ってみる。

やっぱり、あんまり近いのは恥ずかしいかな、と思って。

そうしたら、今度はあたしが先輩の方に体を寄せなくちゃならなくて、 “できた!” と思って顔を上げたら、すぐ上から先輩が見ていた、なんてことも。

見られる方か、見る方か、どっちがいいか比べたら・・・見る方が落ち着くかな。

明日は元の位置に戻ろう。


一時間がたちまちのうちに過ぎる。

テストが始まるまで、放課後はあと3回。

一緒に勉強して、一緒に帰る。二人で。




昇降口で靴を履き替えていると、廊下に足音がして、振り返ったら健ちゃんだった。


「あれ、あーちゃん? 今、帰り?」


下駄箱で仕切られた広い昇降口に健ちゃんの元気な声が響く。

笹本先輩に、男の子から「あーちゃん」って呼ばれたの、聞こえちゃった?

あたしのことを呼んでるって、もちろん分かっちゃうよね・・・?


「あ、うん、そうなの。健ちゃん・・・は、どうしたの?」


ああ・・・、「健ちゃん」なんて呼んでも大丈夫かな?

でも、今だけ呼び方を変えるなんて、健ちゃんに変に思われちゃうし。

先輩、誤解しないで〜!


「先生に質問してたら遅くなった。あーちゃんは?」


下駄箱から靴を出しながら、健ちゃんが尋ねる。


「ええと、あの、図書室で勉強・・・。じゃあね。バイバイ。」


健ちゃんと自転車置き場まで一緒に行く破目にならないように、あわててその場を立ち去る。

笹本先輩のところに行きながら、先輩に健ちゃんのことを訊かれたらどうしようとドキドキしてしまう。


・・・でも、先輩は何も言わない。


いつも通りの微笑み。

いつも通りの優しい言葉。


・・・聞こえてなかった? それならいいけど。




クラスごとの自転車置き場には、昇降口で別れた健ちゃんが先に到着していた。

そんなにゆっくり歩いてきたつもりじゃなかったのに。

いつもは満員の自転車が、今日はもうほとんど残っていない。


「あの人、誰?」


健ちゃん?


「あの・・・、うちの部長さん。」


「今日は部活はないよね?」


なに?

なんとなく鋭い口調。


「うん。一時間っていう約束で、勉強を教えてもらってて・・・。」


「勉強?」


「うん。図書室で。」


「一時間だけ?」


畳みかけるような質問。


「うん。」


そうだよ。

本当に、一緒に勉強してるだけ。

・・・あたしが勝手に恥ずかしがってるだけ、で。


「ふうん・・・。」


「あの、先輩が待ってるから行くね。」


「あ、俺も。」


健ちゃんはにこっと笑うと、あたしと並んでゆっくりと走りだす。


機嫌が悪そうに見えたのは勘違い?

にこにこと楽しそうに話しかけてくる。


正門に近い3年生の自転車置き場で笹本先輩が待っている。


自転車から降りながら健ちゃんに「バイバイ。」と言おうとすると、健ちゃんも隣で止まっていた。


・・・・・?


「初めまして。俺、あーちゃんと同じクラスの近藤健太郎です。」


なんで?!

何やってんの、健ちゃん?!


「あ、あの、健ちゃん・・・?」


これは何?

どうしたらいいの?


先輩は・・・笑ってる?!

でも、いつもの笑顔じゃないような?!

なんとなく挑発的な・・・?


「初めまして。天文部部長の笹本彰です。よろしく。」


なんだろう、この雰囲気?

言葉は普通のあいさつなのに、変な緊張感が・・・。


「じゃ、あーちゃん、またな。笹本先輩、失礼します。」


健ちゃんが気軽な様子で言って、自転車に乗る。


「うん・・・。バイバイ、健ちゃん。」


力が入らないまま手を振って見送るあたしの隣に笹本先輩が並ぶ。


「帰ろうか、茜ちゃん。」


そう言う先輩の笑顔は、もういつもと同じ。

だけど・・・。


なんだかあたし、今の何秒かで、ものすごく疲れちゃったんだけど・・・。









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