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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十一章 茜
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あれ? ちょっと・・・変?(5)



誰もいない校舎の中を笹本先輩と並んで歩く。


本当に誰もいないわけじゃない。

教室棟の3階では土曜講習の3時間目が始まっているし、さっきまでいた図書室にも、もちろん職員室にだって人がいる。

でも、誰にも会わない。


あたしたちが部活で使っている第一理科室の廊下から中庭を見下ろしてみる。

見慣れた景色。真ん中の丸い植え込みに大きな・・・ヤシの木?


棕櫚(シュロ)だよ。」


笹本先輩が笑いながら教えてくれる。


「でも、あそこにヤシの木があったら楽しいだろうね。実がなったりしたら、きっと、何人も登ろうとするんじゃないかな?」


うん。

本当に楽しそう。

高校生って、体力は大人と同じくらいあるし、けっこう賢い。

でも、まだ大人みたいにいろんなことに縛られていないから、思ったとおりにチャレンジすることもできる。


高校生だからできること。

高校生だから楽しめること。


2か月前に入学したころに、そんなことを考えていたっけ。


そうだ。

まだ2か月。

あたしの前には、まだ3年近い高校生活がある。


・・・でも、笹本先輩は?


残りは一年を切った。

10か月? いや、3年生は年が明けると学校にはあんまり来ないらしいから、7か月くらい・・・? あと半年?


歩き出した先輩について歩く。

こんなふうに歩けるのは、あと何回?


教室棟の5階に上がって、1年生の教室沿いに歩く。


「俺、1年のときは6組だったんだ。」


からっぽの6組の教室に入って、窓から外を眺める。


「5階はやっぱり景色がいいね。」


懐かしそうに話す先輩。

廊下に出て、向かい側の図書室のある校舎の屋上を指差す。


「合宿のときは、あそこの屋上から、星空の観察をするんだよ。」


そう言って、あたしに優しく話しかけてくれる。


「それまでにカメラの取り扱いを覚えないとね。中間テストが終わったら、練習しようね。」


「はい。」


それが、先輩からの贈り物ですか?


「そういえば、きもだめしの話は知ってる?」


「あ・・・、はい、長谷川先輩から聞きました。」


「そう。今年もやるのかな?」


「先輩方は楽しみにしているみたいです。女子が増えたから安全だって言って。」


「安全? くくく・・・。去年のこと、けっこう気にしてるんだな。」


お兄ちゃんに叱られたことを知ってるんだ。

・・・あれ?


「笹本先輩は、脅かされたことはないんですか?」


「え? 俺?」


「はい。毎年やるって聞きましたけど。」


「・・・やられた。」


「吉野先輩と長谷川先輩に?」


「そう。あと、当時3年生だった女子の先輩たち。一人だったから恐かったよ。」


こんなに落ち着いてる笹本先輩でも恐いんだ・・・。


「男子の2、3年生は自分が経験して知ってるのに、1年の男子には絶対に言わないんだよ。自分だけがやられるのは悔しいっていう気持ちもあるし、大慌てで逃げてくる後輩を見るのも面白いから。それを見るために、天文部の3年生の引退が合宿後になってるんじゃないかって考えちゃうよね。」


ふうん・・・。

こういうのも、高校生らしいよね。


「去年は、ぴいちゃんたちが脅かした中に、野球部の1年生が混じってたんだよ。それで藤野に見つかって叱られてね。次の日のまーちゃんの怒りようったらなかったよ。なだめるのが大変だった。」


くすくすと先輩が笑う。


ふいに、思い出話を通して、先輩にお別れを言われているような気がしてきた。


胸がキリキリと痛い。

息が詰まる。

このままだと・・・。


「先輩。1階で飲み物を買いませんか? カバンに入れたまま来ちゃったので。」


このままだと、また泣いてしまいそう・・・。




昇降口前の自動販売機でジュースを買って、その場で一気飲み。

冷たいジュースが体も頭も冷やしてくれる。


「あー! 元気が出ました! また始められそうです!」


先輩に宣言する。


そう。

あたしの取り柄は元気。

元気じゃなくちゃ、あたしじゃない。


笹本先輩が微笑む。


「無理そうだなと思ったら、我慢しないで言うんだよ。」


「はい。よろしくお願いします!」


あたし、頑張ります。

そうすることでしか、先輩の親切に応える方法がないから。




そのあと12時まで頑張って、4時間目が終わる前に学校を出る。

校舎内の散歩で気持ちが切り替わったせいか、そのあとの勉強中も、帰り道も、きのうほどドキドキしないで済んだ。

先輩と話すのも、いつもの帰り道と同じように楽しい。


・・・そうだ。

今なら訊けるかも。


「あの、訊いてもいいですか?」


信号待ちで止まったときに、思い切って口に出す。


「なに?」


「あのう・・・、吉野先輩が妹って、どういう意味ですか?」


笹本先輩がものすごく驚いた顔であたしを見た。

それから困った顔になって。


・・・訊いちゃいけなかった?


「ええと、あの、すみません、変なことを訊いてしまって。」


「いや、その、いいんだよ。ただ、ちょっと・・・・・して。」


え?

車の音で、よく聞こえなかった。

ちょっと “びっくり” って言った? それとも “がっかり” だった?


先輩がそわそわしながら、あたしから視線をそらす。


あらら。

そんな態度を取られると、あたしも困ってしまう。


「ええと、妹っていうのは、つまり茜ちゃんと藤野と同じってことだよ。」


あたしとお兄ちゃんと同じ?


うん。

たしかにあたしとお兄ちゃんは兄妹だよ。

あたしとお兄ちゃんの関係って・・・なんだ?


・・・あ。

そうか。


「わかりました。」


「あ、そう?」


先輩がほっとしてる。


「はい。切っても切れない絆があるってことですよね?」


そうだよね。

笹本先輩と吉野先輩は、いつも近くにいたんだもの。

切り離すことができない、 “大切な妹” 。


「あの、茜ちゃん。」


「はい?」


先輩、少し慌ててる?


「ええと、あの、そうじゃなくて、」


「は?」


信号が青に変わって、周りの人たちが動き出す。

あたしたちも動かないと。


ため息をついて先に走り出した笹本先輩の後ろ姿が、なんとなく元気がないように見える。

やっぱり、あたしに勉強を教えるのは疲れるんだろうな。

自分の勉強は全然進んでないし・・・。


本当にすみません、先輩。


いつもの分かれ道で先輩が止まって、あたしを待っている。

今日のお礼を言わなくちゃ。

お勉強だけじゃなくて、いろんなこと。


「先輩、今日もありがとうござい・・・」


「あとで連絡するから、そのときに明日のことを決めよう。」


あたしの言葉が終わらないうちに言われて、びっくりして顔をあげると、そこにはいつもと違う、怒ったような表情の先輩。

どうして・・・?


「はい・・・。」


「考えないといけないことがあるから、少し遅くなるかもしれないけど。」


そう言うと、あたしの返事を待たないまま、点滅している横断歩道を渡って行ってしまった。

あたし、何か失敗したんだろうか・・・?











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