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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十一章 茜
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あれ? ちょっと・・・変?(2)



「疲れちゃった? ちょっと厳しかったかな?」


図書室から昇降口へと向かいながら、笹本先輩が尋ねる。


あたしの頭の中では、数字とローマ字がぐるぐる回っている。

解き方を忘れているというプレッシャーと、笹本先輩の隣に座っているという緊張とともに過ごした一時間で、すっかりくたくただ。


だってね。

本当に近いんだもの。


右利きの笹本先輩が右側に座っていると、あたしのノートに先輩が書き込みをするときにはあたしの方に体を寄せるか、半分こっちを向くようにしなくちゃならない。

もちろん先輩は必要以上に近寄って来るようなことはしないけど、それでも隣の席(っていうか、隣の椅子?)っていうのは普段より格段に近い。

もともと好きだった弦楽器の声がすぐ隣で聞こえて、それに・・・・ノートに向かっているときの先輩の横顔が・・・きれいなの。


そういうことを考えないようにするためには、ひたすら問題と向き合うしかなかった。


それが一時間!

身も心もくたくたになって当然。

今日は早く眠れそう・・・。


「明日はどこでやろうか?」


「え? 明日も・・・ですか?」


明日は土曜日、学校はお休みなのに。


「ああ。先輩は土曜講習で学校に来るんですね?」


そうだよね。

3年生は土曜講習がある。

お兄ちゃんも、吉野先輩も来てる。


「いや、俺は講習は取ってないよ。でも、茜ちゃんが図書室がよければ、朝から開いてるはずだから使えるよ。」


「いえ、あの、あたしはどこでも。」


・・・あれ?

明日も先輩と勉強するってことは、もう決定事項?!

でも、学校がない日にまでお世話になるのは申し訳ないよ。


「あの、先輩? 土日はお休みでもいい・・・。」


「だめだよ!」


「へ?!」


「少しずつでも毎日進めなくちゃ。テストまで間に合わないよ。」


「・・・ええと、じゃあ、宿題を出して・・・、」


「一人でできるの?」


・・・そうだった。

今日の練習問題、ほとんど全部、解き方を忘れていた。

先輩に教えてもらったところは思い出せたんだけど、その先となると・・・。

中学のときも、塾の先生に頼りっきりだったもんね・・・。


「そうだ。うちに来る? よく考えたら、学校よりも近いよね?」


先輩の家?!


無理無理!

絶対に、落ち着いて勉強なんてできない!


「いえ、あの、学校でお願いします。」


「そう? じゃあ、午前中でいい? 8時半にバス通り沿いのコンビニで待ってるよ。」


えっ?!

待ち合わせ?!

そりゃあ、同じ通学路なんだけど、待ち合わせなんて・・・どうしよう?!


でも・・・断る理由が見つからない〜!


「はい・・・。よろしくお願いします・・・。」


どうして、こんなことに?


「明日はお昼までやろう。よかったら、数学以外も持っておいでよ。俺も自分の勉強道具を持って来るから、遠慮しなくていいよ。」


先輩・・・、張り切ってますね。


だけど、あたしが先輩と一緒に勉強だなんて。それも、学校がない日まで。

あたしって、そんなに教え甲斐のある生徒なんだろうか?

ホントに、どうしてこんなことになってるんだろう・・・?



よく考えたら、帰り道も先輩と二人きり。(今だってそう。)

いつもなら天文部のみんなやほかの部の生徒が周りにいる道も、部活休止期間の今日は普通の通行人ばっかりだろうな。


もしかして、制服姿って、目立つんじゃないかな?

二人きりだと、カップルと間違えられちゃうかも・・・。


どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・?


やっぱり、断るべきだったのかな?

でも、先輩は親切で言ってくれてるのに。

ああ、だけど!


「茜ちゃん?」


「はっ、はい?!」


「1年生の下駄箱、向こうじゃなかった?」


ひゃー!

ぼんやりしたまま、先輩のあとにくっついて来ちゃったんだ!

恥ずかしい!


もう! どうしよう?!

笹本先輩と二人きりだと思うと、動揺しちゃって・・・ああ、もう!


ほっぺたが熱い。

こんな顔のまま、先輩の前に出られないよ!

だけど、待ってるよね・・・?


ちょっと、下駄箱の陰からのぞいて・・・やっぱり。

早く行かなくちゃ。


昇降口のガラス扉から出て、中庭を見ながらのびをしている先輩のところへ。


「お待たせしました。」


顔を上げると、笑顔の先輩と目が・・・合わせられない!


どうしよう?!

これじゃ・・・、これじゃ、まるで・・・。


「ええと、自転車を出してきます・・・。」


まるで先輩から離れる言い訳みたい。

でも、ウソをついてるわけじゃない。


どうしてこんなにドキドキするんだろう?

先輩はいつもと同じなのに。

勉強のできない後輩のために時間を割いてくれる親切な先輩。


でも、二人きりって・・・やっぱり、いつもとは違うよ。

部活のときと同じ気持ちではいられない。

どうしても・・・。


どうしても、・・・何?


だめ。

今は考えちゃいけない。

まだ、今は。


早く行かなくちゃ。

笹本先輩が待ってる。




自転車を出しながら深呼吸を繰り返し、外の風に吹かれて、どうにか鼓動も治まった。


大丈夫。

笹本先輩は、天文部の先輩。特別じゃない。誰にでもやさしい。


お別れする交差点まで、楽しい会話が続く。

いつもと変わりない景色。

今日は、一緒に勉強するなんていう初めてのことに緊張して、いろいろと余計なことを考え過ぎてしまったのかも。


「茜ちゃん。」


「はい。」


「中間テストまで頑張ろうね。」


「はい!」


ほらね。

心配することなんて、何もない。


心配? ・・・じゃなくて、 “緊張” だ。


「じゃあ、また明日。お疲れさま。」


さわやかに手を振って、信号を渡って行く先輩。

その背中に頭を下げる。


「ありがとうございました。」


そういえば、今日は吉野先輩のことを思い出さなかった。

見守る必要もなくなったし、自分のことで精一杯だったからね。


笹本先輩も、「ぴいちゃん」って、一度も言わなかったな・・・。

まあ、心の中では想っていたのかもしれないけど。


よし!

明日もがんばろう!




青信号に変わった交差点を、元気よく自転車をこいで渡る。


そうだ。


明日はほかの科目も持っておいでって言ってくれたっけ。

お昼まで3時間くらいあるけど、今みたいな感じだったら大丈夫かも。

やっぱり今日の図書室は、慣れないことばっかりで勝手に緊張しちゃったんだな・・・。



・・・!

ちょっと待って! やっぱりダメ!


明日の朝は待ち合わせ。

先輩と一緒に学校に行くために。


やっぱりそれって、帰りに一緒に帰って来るのとは、ちょっと意味が違うよね?!


・・・いや、そんなことない。


通学路が一緒なんだし!

学校での用事が同じなんだし!


それになによりも、笹本先輩が気軽に言ったこと。

余計な意味なんてあるわけないよ!









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