表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十章 『吉野先輩を守る会』は・・・。
74/95

狙いはぴいちゃんじゃなくて・・・。  ≪藤野 青≫(2)



「茜ちゃん。藤野くんは前から人気があるんだよ。」


ぴいちゃん?!


「あ、あの、吉野。そんなこと説明しなくても。」


「だって、ちゃんとわかってもらわないと。」


「いや、そんなこと、茜はわからなくてもいいから。」


止める俺を無視して、ぴいちゃんが茜に真面目な顔をして話し始める。


「去年もね、藤野くんに告白した女の子はいたんだよ。」


「ええ〜? 本当ですか?」


だから、茜! その態度はぴいちゃんに失礼だって!


「あたしが知ってるだけでも2人ね。もしかしたら、ほかにも・・・」


「いや! それ以上はいないから!」


ぴいちゃんが知ってる範囲で全部です!


「そう? まあ、告白はしないにしても、トイレとか更衣室とかで、藤野くんのことを話してる子は何人かいてね。」


知らないよ、そんなこと!

今さら言わなくてもいいのに・・・。


「へえ・・・。お兄ちゃんて、意外に人気があるんですね・・・。」


「そうだよ。バレンタインのチョコだって、あたしたち以外から7個も。」


ああ、もう・・・!


「俺は15個もらったけど。」


さりげなく目をそらしたまま、早瀬がぼそりとつぶやく。


「ほら、吉野。早瀬は15個だって。7個なんて、全然多くないじゃないか。」


「そう?」


「うーん、まあ、お兄ちゃんがそこそこ人気があるらしいことはわかりました。だけど、吉野先輩を傷つけるようなことをしてまで、お兄ちゃんの彼女になりたいなんて・・・。」


ようやく話が戻った・・・。

早瀬がやっと戻って来た自分の役割にため息をついたあと、気を取り直した様子で話し始めた。


「田所先輩は、1年のころから藤野先輩のことが好きだったって言ってたよ。それと・・・陽菜子と似てるって言われたことで、自分にも可能性があると思ったみたい。」


「ああ。ちょっと雰囲気が似てるって、奈々とあたしも思ったもんね。」


「全然、似てないよ。」


俺も、真面目そうなところが共通点だとは思ったことはあるけど、ぴいちゃんは他人の嫌がることは絶対にしない。

いつも誰かのために自分が我慢しようとして。


・・・そうだよ。

田所さんの行動に傷ついていても、それを隠したまま・・・。


ぴいちゃんに目を向けると、ぴいちゃんはぼんやりと前を見ていた。

疲れたんだろうか?


「・・・吉野。大丈夫か?」


「え? あ、うん。大丈夫。ちょっと、朱莉がかわいそうだな、と思って。」


「かわいそう? 怒らないの?」


早瀬が尋ねる。


「怒るっていうよりも、悲しいよ。仲良くなれたと思ったら、実はそうじゃなかった、なんて。悲しくて、傷ついた。」


うん。

そうだな。

ぴいちゃんなら、そうだね。


「俺、陽菜子の仇をとるよ。」


「響希。気持ちは嬉しいけど、そんなことする必要はないよ。」


「でも。」


「響希が何かしなくても、朱莉はこれからそんなに楽しい気分ではいられないと思う。」


「陽菜子と藤野先輩が、本当のことを知ってるから?」


「それを本人に言うつもりはないけど。」


そう言って俺を見たぴいちゃんにうなずき返す。


「言わなくても、うしろめたい気持ちが朱莉の中には残ると思う。あたしたちが知らないと思っていても、八木くんが同じクラスにいて、いつ話されるかわからないから、心が休まらないよ、きっと。」


淋しそうに微笑んで、ぴいちゃんが続ける。


「朱莉はそんなに藤野くんが好きだったんだね。でも、あんな方法を取ったから、藤野くんの信用も失くしちゃったね。」


どんな方法を取られても、俺の気持ちは変わらないけど。


「ねえ、響希。仕返しをするって、また恨みを積み重ねるだけみたいな気がするよ。そんなこと、きりがないし、悲しいよ。だから響希も、朱莉のことはこのまま放っておきなさい。部活で会ったときに知らないふりをするのも、けっこう楽しいかもしれないよ。ね?」


恨みを積み重ねるだけ・・・。

そんなことしていたら、行き着く先は・・・?


「あ、そうだ! あたし、お夕飯のお手伝いして来る。」


「え? いいよ、そんな・・・。」


そう言う間にも、ぴいちゃんは立ち上がっている。


「陽菜子が行くなら、俺も。」


え?!


「早瀬、料理なんかできないじゃないか。」


「大丈夫だよ。包丁を使わない手伝いもあるんだから。」


「そうだよね。響希はいつも、うちでお皿出したりしてたもんね。」


また・・・。

ぴいちゃんと早瀬の絆・・・。


「じゃあ、俺も行く。」


「え? お兄ちゃんが?」


「なんだよ。俺、たまに手伝わされてるぞ。味噌汁くらいなら、なんとか・・・。」


「味は保証できないけどね。しょうがないなあ。お兄ちゃんがやるなら、あたしも行かなくちゃいけないじゃん。」


全員が立ち上がると、何となく落ち着かない。

ぴいちゃんが笑いながら言う。


「藤野くんと茜ちゃんはいいよ。急にお邪魔しちゃったあたしたちが行くから。ね、響希。」


「うん。」


ぴいちゃんが早瀬を連れて部屋を出ていく。


「茜。着替えるから、早く出て行け。」


「お兄ちゃん、手伝いに行くの?」


「当たり前だ。」


早瀬とぴいちゃんの邪魔をしてやる!




ダイニングキッチンは母親と俺たち4人がウロウロするとちょっと狭かった。

ぴいちゃんがおもに母親の助手をして、あとの3人が割り振られた仕事をする。


メニューは串カツ。


うちの串カツは、1本の串に肉と野菜を並べて刺したものに衣をつけて、短めのバーべキューみたいな状態で揚げる。

ごろごろと切ったナスや玉ねぎ、しいたけ、アスパラ、ピーマン、肉を、刺す係から衣をつける係へと3人でリレーする。

その横で、ぴいちゃんがキャベツを千切りにしている。

母親は俺たちの前に座って、指示を出すだけ。

ぴいちゃんと早瀬は、母親のことを「おばさま」なんて呼んでいて、それを聞くたびに茜と俺はこっそり笑った。


できあがった串は30本もあって、全部が揚がったときには、あと何人かお客が増えても大丈夫なほど。

・・・と思ったけど、賑やかに食べる食事はみんな箸が進んで、残業で遅くなる父親の分しか残らなかった。



「陽菜子ちゃんが青のことを『藤野くん』って言うのを聞いてたら、結婚前のことを思い出しちゃった。あたしもお父さんのことを『藤野くん』って呼んでたから。」


うわ。

母さん、やめてくれよ・・・。


「なんだか、お父さんのことを呼ばれてるみたいな気がするなあ。何となく変な感じなんだよね。」


「あの、すみません・・・。」


ぴいちゃん、ごめん。

こんな母親のことを謝らなくちゃいけないのは、俺だよ。


「ねえ、陽菜子ちゃん、青のこと、名前で呼んでみない?」


「母さん?!」


「あら、だって、いいじゃない? 早瀬くんのことは『響希』って呼んでるんだし。ねえ、ちょっと呼んでみて。」


ぴいちゃんがたちまち真っ赤になってしまった。(たぶん、俺も。)

持っていた箸を両手でもじもじと動かしながら、俺と母親の顔を交互に見る。

その表情が俺に助けを求めている。


「か、母さん。そんなこと、いきなり言っても無理だよ。」


早瀬が俺を睨んでる。

俺が言わせたわけじゃないのに!


茜は呆れた顔をして母親を見ている。

見てるだけじゃなくて、一言、母親に注意してくれないかな・・・。


「うーん。やっぱり無理か・・・。」


「当たり前だよ!」


びっくりした。

本当に、何を言い出すかわかったもんじゃない。




初めの予定どおり、ぴいちゃんの家まで送って行った。

彼女は遠慮したけど、俺は一分でも一秒でも長く、ぴいちゃんと一緒にいたかったから。


・・・だけど。

早瀬も一緒。

あいつも絶対に行くと言い張った。


夜の下り電車は思いのほか混んでいて、やっぱり一緒に来てよかったと思った。

ぴいちゃんは俺と早瀬に両側からかばうように立たれて、かなり恥ずかしそうにしていたけど。


改札まででいいというぴいちゃんを押し切って、家まで送る。

暗い道を3人で歩きながら、 “早瀬さえいなければ” と、あれこれ考えてしまう。早瀬も同じように思っているのかも・・・。


ぴいちゃんの家に着いたのは9時近くだった。

家族全員が玄関に出てきてくれて、あいさつを交わす声が賑やかになる。


「今日は本当にお世話になりました。」


早瀬が真悟くんと話している間に、ぴいちゃんが丁寧に頭を下げてくれた。


「いいよ。べつにたいしたことしてないから。」


お礼ももらったし♪


キスの感触を思い出してちょっとドキドキしている俺に、ぴいちゃんが耳もとでささやいた。


「ありがとう・・・、青くん。」


・・・帰りの電車内で、ポーカーフェイスを貫けるだろうか?









とりあえず一件落着です。


思ったよりもここまでが長くなってしまいました。

次からは茜ちゃんメインのおはなしに入ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ