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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十章 『吉野先輩を守る会』は・・・。
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狙いはぴいちゃんじゃなくて・・・。  ≪藤野 青≫(1)


茜に催促されて、早瀬が放課後に見たことを話し出す。


「授業のあと、八木と田所先輩が二人で体育館の裏の方に行くところを見て、あとをつけたんだ。」


茜とぴいちゃんがベッドに、それに向かい合うようにカーペットの上に早瀬と俺が座っている。

真ん中にはお盆に載ったコーヒーとお菓子。


「ちょっと待て。どうして早瀬がその二人のあとをつけたりする必要があるんだ?」


俺とぴいちゃんが早瀬を見ると、早瀬は困った顔をして茜を見た。

その視線を受けて、茜が話しにくそうに言う。


「あたしたち・・・、吉野先輩を見張ってたの。」


「「見張ってた?!」」


ぴいちゃんと俺の声が重なる。


「見張ってたって・・・え? どうして? 二人で? いつから?」


ぴいちゃんが慌てて尋ねる。


「あの・・・、あたしと早瀬のほかに2人。奈々と健ちゃ・・・野球部の近藤くんの、全部で4人で。で、でも! 見張るって言っても変な意味じゃなくて、あたしたち、『吉野先輩を守る会』っていうのを作ってて・・・。」


自分が後輩に守られる対象になっていたとは思ってもみなかったぴいちゃんが目を丸くする。

しかも、このネーミングが何とも言えない・・・。


「早瀬が八木っていう人の行動が怪しいって言うし・・・。田所先輩がお兄ちゃんにつきまとって、吉野先輩に嫌がらせをしようとしてるんじゃないかってことで・・・。だから、その人たちから吉野先輩を守ろうと思って、4人で分担を決めて・・・。」


分担まで決めて?


茜と早瀬は、さすがに黙って見張ったりしたことが後ろめたいんだろう。二人とも、俺たちからは目をそらしている。


でも、茜たちが八木はともかく、田所さんのことまで怪しんでいたってことには驚いた。


「いつから? どうやって?」


俺と一緒のところも見られてたってこと?

見られて困るようなことはなかったとは思うけど・・・学校では。


「ええと、2週間くらい前、かな?」


早瀬が答えながら茜を見ると、茜がうなずく。


「俺は朝の担当で、毎朝、陽菜子のところに行って、八木の邪魔をしてた。」


「ああ、だから・・・。」


ぴいちゃんが納得したようにつぶやく。


長谷川が見通したとおりだ。

早瀬はぴいちゃんを守るために教室に来ていたんだ。


“がんばったな” と褒めるつもりで早瀬の肩をたたくと、早瀬はちょっと照れた顔をした。


「あと、昼休みは近藤が図書室に顔を出すことになってて。」


「ええっ? 図書室も? 野球部の近藤くんって、図書室でよくあいさつしてるけど・・・。」


「ね、念のためだよ! 八木か田所先輩が一緒じゃなければ何もしないし!」


驚いて目をパチパチしているぴいちゃんに、早瀬が慌てて弁解する。


「実は、今日、陽菜子が具合が悪いって知らせてくれたのは近藤なんだ・・・。」


・・・ん?

ってことは、俺が図書室でぴいちゃんを待っていたときも、ぴいちゃんが来てから話していたときも・・・?


なんだよ?!

ずっと見られてたのか?!

この二人にも、それが報告されてる?!


信じられない!

やめてくれ!


目が合った早瀬がすばやく目をそらす。


それは・・・、やっぱり、知ってるってことか?


「奈々とあたしは放課後の担当で、」


放課後?!


ちょっと待て。

放課後って・・・、まさか、俺とぴいちゃんが一緒の時間・・・?


「あの・・・、お兄ちゃんたちが昇降口を出てきたときから、吉野先輩が学校から出るまでを・・・。」


俺たちが「気をつけて」「頑張ってね」ってやってたのを、毎日?!

妹に見られてた?!


もう・・・、なんて言ったらいいんだ!!


学校では何もなかったと思ったけど、実際にその場面を思い出してみると、恥ずかしさでどうしていいかわからない!


「くくっ。」


ぴいちゃんが笑い出す。


「やだ、もう。そんなに徹底して見守られてたなんて。くくく・・・。全然、気付かないまま? 信じられない。あははは!」


“見守られてた” って言うのか、それは?

単に “見られてた” じゃないんだろうか・・・?


笑っているぴいちゃんに、茜が弁解する。


「あのっ、見ているときに、べつに変なことはありませんでしたよ! いつも、仲良しでいいなあ、って思ってただけで。」


「茜。言わなくていい。」


そんなこと、自分で分かってるよ!

俺たち二人とも、あの時間は幸せだったんだから!


そうだ!

早く次の話題に・・・。


「早瀬。今日、見てきたことを話せ。」


「え? あ。そうだね。」


早瀬は一瞬、考えてから話し始めた。


「体育館の裏で、八木と田所先輩が怒鳴り合ってたんだ。俺は見えない場所で聞いてた。八木が、田所先輩に騙されたって怒ってて。」


「「「騙された?」」」


聞いていた三人の声が重なる。


「うん。田所先輩が八木に、陽菜子には付き合ってる男が3人いて、だから、八木が申し込んでもOKするはずだって言ったらしくて、それを信じた八木が・・・陽菜子にそのまま・・・。」


早瀬がそれ以上は言いにくそうに、言葉を濁す。


「朱莉が・・・?」


ぴいちゃんが呆然としている。

俺だって驚いてるんだから、当然だ。

田所さんはぴいちゃんの友達だと思っていたのに。


「田所先輩は俺と陽菜子のことをちゃんと分かっていたのに、八木にわざと間違って伝えたんだ。俺が毎朝、陽菜子に会いに行っていることも・・・、陽菜子が複数の男と付き合ってることの証明にして・・・・。それに、俺が流したウワサも・・・。」


辛そうな顔の早瀬。

自分の行動が、悪意で利用されるなんて思ってもみなかったに違いない。


「響希。そんなに気にしなくていいんだよ。」


ぴいちゃんが早瀬の頭に手を置いて、優しく言う。

早瀬がぴいちゃんを見上げると、安心させるように微笑む。


「どんなことでも、悪いことに利用される可能性はあると思うよ。それに、あたしはもう元気でしょう?」


「でも、陽菜子。ひどいショックだったよね? 藤野先輩が部活を休んで送るほど。」


「そうだね。でも、今は大丈夫だよ。響希がそうやって心配して来てくれたしね。」


ふたりの絆。

長い年月で深く、強く結び付いている絆。


俺とぴいちゃんはまだ一年と少し・・・。


「ねえ。その人って、どうして吉野先輩にそんなことをしたの? そんなに吉野先輩のことが嫌いだったのかな?」


「違うよ。田所先輩の狙いは藤野先輩だったんだ。」


「お兄ちゃん?! なんで?!」


茜が大きな声で驚く。

ぴいちゃんがその横で「そういうことか。」とため息をつくと、ますます驚いてぴいちゃんを見た。


茜め。

俺が狙いじゃ、納得ができないっていうのか?


「お兄ちゃんに嫌がらせをするために、吉野先輩の変な話を流したの? 意味が分からないよ。」


「嫌がらせじゃないよ。」


早瀬が呆れた顔をして言う。


「田所先輩は藤野先輩の彼女になりたかったんだよ。」


「ええ〜〜〜〜っ?! うそでしょ?!」


「茜ちゃん、それは・・・。」


ぴいちゃんが俺に気を遣って、茜をなだめようとする。


だけど。


茜の態度って、ぴいちゃんに対しても失礼なんだけど!

あれじゃ、まるでぴいちゃんが変な趣味をしてるって言ってるようなものだ!


俺とぴいちゃんの様子に気付いて、早瀬が急いで続きを話し始める。


「あ、あの、だから八木をけしかけて、陽菜子を藤野先輩から引き離そうとしたんだよ。その前に、自分が陽菜子と友達になって、藤野先輩に近付いておいて。それに、俺にも二人の邪魔をさせようとしたり。」


「響希にも?」


「そう言ってた。たしかに土曜の昼のことも田所先輩から聞いたし、教室であったこともよく話してくれたよ。効果がなかったって、がっかりしてたけど。」


「ふうん・・・。だけど、お兄ちゃんをねえ・・・。」


茜はまだ納得しかねる様子で首をかしげた。









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