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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十章 『吉野先輩を守る会』は・・・。
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陽菜子の一大事!  ≪響希≫(3)


早く、早く!

陽菜子が危ない!

藤野茜、急いでくれよ!


俺とは違う心配で道を急ぐ藤野茜のうしろ姿に、正しい情報を伝えなかったことを心の中で謝る。

だけど・・・!


途中まではさっき通った道を戻り、駅のいくつか手前の交差点から住宅街へと曲がる。

そこから5分かからなかった。

家の前に、陽菜子の自転車が停まってる。


ああ・・・さっき、こんなに近くまで来ていたのに!


俺の自転車も、陽菜子の自転車に並べて停める。

藤野茜が玄関を開けて、靴を脱ぎながら叫ぶ。


「ママ!」


・・・ママ?


ってことは、お母さんがいるのか?

留守じゃない?


いや!

だからと言って、安心できない!

お母さんは出かけてるかもしれないし!


「陽菜子!」


大きな声を出せば、藤野先輩を撃退できるかも!

とにかく、俺が来たことを知らせれば。


「ママ!」


藤野茜が奥に向かってバタバタと進んでいく。

その後ろから、俺も。


奥のドアから女の人が驚いた顔をして出てきた。


「どうしたの? あら? 男の子・・・?」


藤野茜のお母さんか?

頬のふっくらした、優しそうなひとだ。


「あの、お邪魔します。」


「ママ。吉野先輩がうちで倒れたって聞いたんだけど?!」


「ああ。さっき、目が覚めたみたいよ。青の部屋にいるから・・・。」


「どこ?」


お母さんの言葉が終わらないうちに、藤野茜に訊く。


「あ、ああ、2階。こっち。」


廊下を戻る藤野茜を先に通して、お母さんに会釈してからあとに続く。


「吉野先輩!」


急いで階段を上りながら藤野茜が呼んでいる。


「陽菜子!」


気が気じゃなくて、俺も。


2階に上がって左側の奥のドアを、藤野茜がノックもなしに開けた!

自分がやられたらものすごく怒るけど、今はただ、 “よくやった!” と拍手!


ドアから一歩入ったところで立ち止まっている藤野茜の横から部屋の中を見回すと・・・。


左側のタンスの前には先輩と陽菜子のバッグ、部屋の真ん中にお盆に載ったお菓子とコーヒー、右側のベッドに腰掛けている陽菜子とその足元にすわっている藤野先輩。

部屋もベッドもきちんとしてるし、陽菜子の服も・・・。



無事だった〜〜〜〜!!



あんまり安心して、膝をつきそうになった。


「吉野先輩! 起きても大丈夫なんですか?」


藤野茜が陽菜子に駆け寄っていく。

そこに陽菜子ののんきな声。

もう、具合が悪そうには聞こえない。

本当によかった!


「心配してくれてありがとう。もしかして、響希に連れて来られたの?」


「連れて来られたっていうわけじゃ・・・。先輩が倒れたって聞いたので。」


「そうなの。自分でもびっくりしちゃった。茜ちゃんのお母さんにもご迷惑かけちゃって。でも、もう大丈夫だよ。そろそろ帰ろうかと思ってたところ。」


陽菜子の隣に座った藤野茜に背中を蹴られて、藤野先輩がブツブツ言いながら立ち上がる。


「お前は話さなくていいのか?」


入り口でぼんやり陽菜子と藤野茜が話しているのを見ていた俺に、藤野先輩が話しかける。


「もちろん話すよ。」


あんまり安心して、陽菜子を見ているだけで満足な気がする。

自分がにこにこしているのがわかる。


けど・・・。


「先輩。俺、陽菜子にこんなことをしたヤツらの話を聞いたんだ。偶然だけど。」


小声で言ったつもりだったのに、たまたま陽菜子たちの会話が途切れて、部屋にいた全員が聞いてしまった。


「なにそれ? 吉野先輩にって・・・? 早瀬、何が原因か知ってるの?」


「茜。」


藤野先輩が鋭い声で藤野茜を止める。


「茜ちゃん、あたしから説明・・・」


「吉野。もう思い出さなくてもいいよ。」


藤野先輩がいたわるように陽菜子を見る。

陽菜子にとっては、それほど辛いことだったんだ・・・。


「だけど、二人とも心配だろうし・・・。」


「陽菜子も、本当のことは知らないと思うよ。」


三人の視線が一斉に俺に集まる。


そうだ。

話さないわけにはいかない。

陽菜子のためにいろいろ頑張った藤野茜は知りたいだろうし、藤野先輩だって知らなくちゃいけない。

それに、何も知らないままで、陽菜子を田所先輩の前に立たせたくない。


「本当のこと?」


陽菜子がつぶやく。


「無理には聞かなくてもいいんだよ。」


藤野先輩の話しかける言葉が、いつもよりずっと優しい。


「・・・平気。みんなが一緒にいるから。本当のことがあるなら、知りたい。」


“藤野くんがいるから” じゃなくて、 “みんなが” って言ってくれた。

俺も、陽菜子の心の支えになってる?


「青〜! ちょっと来て。」


藤野先輩のお母さんが呼んでる。

先輩が廊下に顔を出して返事をすると、きちんとあいさつをしていなかったからと言って、陽菜子も一緒に出て行った。




陽菜子たちが出て行ったあと、部屋をもう一度見回したら、先輩の机の上のフォトフレームに目がとまった。

飾ってある写真に見覚えがある。

近付いて見たら、先輩が携帯で見せてくれた写真だった。

浴衣姿の陽菜子の両側に藤野先輩と岡田先輩がいて、三人で笑っている写真。


―― すごく楽しそう。


藤野先輩にとって、思い出の写真なんだ。

陽菜子と二人の写真じゃなくても。


俺もこれからの高校生活の中で、こんなふうに思い出を残せるといいな・・・。


「早瀬。吉野先輩が目を覚ましてたこと、知ってたの?」


後ろから聞こえた藤野茜の声にはっとする。

そういえば、それは黙って案内させたんだっけ・・・。


「えーと、もしかしたら、ちょっとだけ、言わないことがあったかな・・・?」


後ろめたくて、まともに顔を見ることができない。

あんなに心配させちゃって、申し訳ないと思ってる。


「“ちょっとだけ” って、目を覚ましたかどうかって、けっこう大事なことじゃない!」


「ごめん・・・。だって・・・。」


「なによ?」


「目を覚ましたって言ったら、連れて来てくれないと思ったから。」


「・・・そうかもしれないけど。」


「どうしても、急いで来なくちゃならなかったんだよ。」


「なんで? お兄ちゃんがついてるんだよ?」


「だからだよ!」


「は?」


「陽菜子が男と二人っきりなんて、危ないじゃないか!」


「何言ってんの?」


言ってる意味がわからないのか?


「だって、もう高校生なんだぞ! 心配して当然だろ?!」


「高校生って言ったって、吉野先輩とお兄ちゃんだよ? あの二人だったら、手をつないだことだってないに決まってるよ。」


う・・・・・。

そう言われると、返す言葉がないけど・・・。


言葉に詰まった俺に、藤野茜がニヤニヤ笑いながら言う。


「早瀬、もしかして、吉野先輩が大学生になっても、大人になっても、ずっと『男と二人っきりはダメ!』とか言うつもり?」


「・・・当然だ。」


「ねえ。もしかしてだよ、万が一、相手が自分だったら?」


え?

そんな。

俺が・・・陽菜子と?


「・・・ダメ。結婚するまでは。」


「早瀬。顔が赤いよ。」


藤野茜がくすくす笑う声が聞こえた。









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