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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十章 『吉野先輩を守る会』は・・・。
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陽菜子の一大事!  ≪響希≫(2)



陽菜子に謝らなくちゃ。


俺が言ったこと・・・許婚のことや、みんなの前で抱きついていたこと。

それが、陽菜子を傷つけることにつながった。


岡田先輩に言われたとおり、大人げないやり方だった。

陽菜子が怒らないからって・・・藤野先輩が言うとおり、甘ったれてた。


陽菜子・・・。本当にごめん。


もしかしたら、まだ教室にいるかもしれない。

とりあえず、3−8に行ってみよう。

今は部活に顔を出したい気分じゃない。

田所先輩が来るかもしれないし、顔を見たら殴ってしまうかもしれない。



3−8の教室は、もう誰もいなかった。


帰ったのかな・・・? それとも部活?

・・・そうだ。携帯は?


携帯にはメールが1件。

藤野茜から。


『吉野先輩は部活をお休みしています。うちのお兄ちゃんが家まで送って行くことになったそうなので、心配はいらないと思います。でも、午後の授業はだいぶ辛そうだったと、長谷川先輩から聞きました。』


藤野先輩も部活を休んだ・・・。

かなりひどい状態なんだ・・・。


学校を出たのはどのくらい前なんだろう?

自転車で帰れたのか?

今はどのあたりだろう?


とりあえず、電話をかけてみる。

留守電に「どこにいるか教えて。」とメッセージを残して。

それだけでは心配で、メールも送る。


・・・けど、少ししか待てない。

1分も経つと、また心配になってしまう。


『体調はどうなの?』


とメールを送る。

そんなにすぐに返事が来るわけがないのに。

自転車に乗ってたら、駅に着くまで気付かなくて当然だから。


だけど・・・。

陽菜子の無事を確認するまで安心できない。


またメール。


『駅に着いたら、必ず連絡して。』


今、どのあたりだろう?

もしかしたら、具合が悪くて、携帯を見る余裕もないかもしれない。


陽菜子の顔を見るまで不安だ・・・顔を見る? そうだ!


陽菜子の家まで行こう。

そこに行けば、必ず陽菜子がいるんだから。

今から行けば、遅くなる前に帰って来ることができるだろう。


もう一度携帯を出して、メールを打つ。


『これから陽菜子の家に行く。』


荷物を持って昇降口を出たところで、思い付いて、もう一つ。


『俺が行くのを起きて待たなくてもいいから。具合が悪いんだから、家に着いたら休んでて。』


そう。

とにかく、陽菜子に会いに行くから。




駅に近い交差点で信号待ちをしているとき、携帯を確認したら・・・、陽菜子からメールが!


『心配かけてごめんね。あんまり具合が悪そうだからと、駅に行く途中で、藤野くんが家で休むようにと言ってくれました。藤野くんの家に着いたとたんに、安心したせいか倒れてしまって、今、目が覚めたところです。今まで連絡できなくてごめんね。眠ったのでだいぶ良くなったけど、もうしばらく休ませてもらってから帰ります。心配しないで。』


藤野先輩の家?!

倒れた?!


藤野先輩がついててくれてよかった。

陽菜子一人だったら、どうなってたかわかんないよ・・・。


でも・・・、どうしよう?


心配するなって言われても、陽菜子の顔を見るまで安心できない。

それに、俺のせいで陽菜子がひどいことを言われたことを、ちゃんと謝りたい。


やっぱり、会わなくちゃ。


藤野先輩の家・・・。

陽菜子に電話して訊いても分からないに決まってる。

たぶん、来なくていいって言うだろうし。

藤野先輩に訊いても同じだろうな。


・・・あれ?

藤野先輩の家って、誰かいるのか?

まさか、二人きりなんてことは・・・。



わーーーーーっ!



急いで行かなくちゃ!

眠ってたって書いてあったよな?!

つまり、ベッドとか、寝る場所があるってことだ!


もう少し休んでからって?!

危ないじゃないか!


どうしよう?!

どうやったら、藤野先輩の家がわかる?!


・・・藤野茜だ。

部活中だけど、緊急事態だから。

電話、電話・・・・出ないよ!

何やってんだよ!!


ああ、もう!

学校に戻って連れてくるしかないか・・・。


陽菜子、無事でいてくれよ!!




何度か車にぶつかりそうになりながら学校まで戻り、自転車は適当なところに乗り捨てて、第一理科室へ走る。


「藤野!」


戸を開けながら名前を呼んで部屋を見回すと、たくさんの驚いた顔がこっちを向く。知った顔も何人か。

その中から藤野茜が小走りにやって来る。


「どうしたの?」


廊下に出て戸を閉めながら、藤野茜が膝に手をついて息を切らしている俺を呆れた様子で見下ろしている。


「ひ・・・、陽菜子が倒れたって・・・。」


「吉野先輩が?! 倒れた?!」


「そう・・・。今・・・、藤野先輩の、家に・・・。」


「え? うちにいるの?」


「うん・・・。」


息切れを鎮めるために、深呼吸を何度か繰り返す。


「駅に行く途中で危ないと思って・・・、藤野先輩が連れて帰ったらしい。で、そこで倒れて、さっき・・・、」


そうだ。

目を覚ましたって教えたら、「じゃあ、大丈夫」って、俺を連れて行ってくれないかもしれない。


「藤野。俺、どうしても陽菜子に会わなくちゃ。案内してくれよ。急いで。」


「わかった。荷物取って来る。」


藤野茜はさっと理科室に戻ると、窪田と長谷川先輩と言葉を交わし、カバンを持って出てきた。


「あ、笹本先輩。」


出てきた藤野茜が俺の背後に目を向けて、つぶやく。

振り返ると、笹本先輩がプリントを持って廊下を歩いてくる。


「あれ? 茜ちゃん? どうしたの?」


「先輩、今日は急用で帰ります。すみません。お先に失礼します。」


藤野茜が笹本先輩に頭を下げる。俺も一緒に。


「早瀬、行こう。」


そう言って先に走り出した藤野茜を追いかけようとしたとき、いきなり右手首を掴まれた!


・・・笹本先輩? どうして?


先輩が真剣な様子で小声で話しかけてくる。


「どうして、キミが茜ちゃんを連れて行くの?」


そんなことを、今?!

一刻を争うのに!


「陽菜子が、あいつの家で倒れて・・・。」


もう、いいよね?

急いでるんだよ!


「え? ぴいちゃんが?」


「そうです! じゃあ、失礼します!」


先輩の手を振り切って、藤野茜のあとを追う。




陽菜子・・・、間に合うだろうか?









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