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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十章 『吉野先輩を守る会』は・・・。
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陽菜子の一大事!  ≪響希≫(1)



陽菜子が歩けないほど具合が悪いなんて。


どうしたんだろう?

朝は変わりなかったのに。


風邪か? ・・・いきなり?

急性の食中毒?


でも、一応、教室に戻ったみたいだし、教室に行けば長谷川先輩がいる。


それより、図書室に陽菜子が現れたのが遅かったことが気になる。


健太郎の話からすると、たぶん、図書室で陽菜子と藤野先輩が待ち合わせてたのは間違いない。

藤野先輩は、陽菜子がもっと早く来ると思ってた。

でも、実際に来たのは昼休みの終わりごろ。


その間に何があった?




帰りのHRが思ったよりも長引いてイライラする。

初めての中間テストがもうすぐだってことはわかるけど、そんなにくどくど言わなくても分かってるよ!


ようやく解放されて、急いで陽菜子のクラスに行こうと廊下に出る。

何気なく、廊下の窓から下を見ると、校舎から体育館へ渡る廊下の下をくぐっていく見覚えのある二人連れ。


・・・どうして、あの二人が?

八木と田所先輩。


部活が始まる前のこの時間は、体育館の裏は人目に付かない。

あの二人って、仲がいいのか?

・・・いや、この組み合わせって、やっぱり変だ。

陽菜子がらみでマークしている二人が一緒なんて・・・。


陽菜子のことが心配だけど、陽菜子には藤野先輩も長谷川先輩もついてるはず。

あとでメールか電話をしよう。


とにかく、今はこっちだ。




大急ぎで2階から体育館に渡り、そのまま体育館の外側を取り巻く外廊下を八木たちが向かった方へと進む。

二人が話している上まで行けば、話が聞こえるかも・・・え?!


怒鳴り合ってる?!


「全部、いい加減なことばっかりだったじゃないか!」


男の声は八木だな。

おとなしそうに見えたけど、こんなに大きな声が出るんだな。


「何言ってんのよ?! いろいろ教えてあげたのに、何の役にも立たなかったのはそっちでしょ!」


田所先輩も相当な音量だ。


「なんだと! 田所、吉野さんは僕のことを特別だと思ってるって言ったよな?! それに、許婚と、1年坊主の彼氏と、藤野と、3人の男がいるって!」


3人の男?!

陽菜子に?!


「吉野さんは気に入った男となら簡単に付き合うって!」


なんだよ、それ?!

田所先輩、どうして陽菜子のことをそんなふうに?

それに・・・八木! なんで、そんなことを信じてるんだよ?!


「でも、そうじゃないって言われたよ! 田所、知ってたんだろう? 許婚と1年坊主は同一人物で、しかも、ただの幼馴染みだってこと!」


ただの幼馴染み・・・。

悔しいけど、それが真実だ。


「それに、藤野と付き合ってるから僕とは無理だって言われたよ! 吉野さんは、平気で何人とでも付き合えるような子じゃなかったじゃないか!」


そのやりとりが、昼休みにあったことなのか?


「ふん。そんなこと、八木くんがもっと魅力的なら問題なかったんじゃないの? ぴいちゃんが八木くんを好きにならなかったのは、あたしのせいじゃないでしょ? なによ! 自分だって、ほかの男子よりもぴいちゃんと仲がいいって、自慢してたじゃない! それに、あたしだって、八木くんがぴいちゃんとうまくいってくれなくて迷惑してるんだから。」


「何だよ、それ。田所、僕に協力するって・・・。僕が吉野さんとうまくいくようにって・・・。」


「そうよ。そうすれば、あたしが藤野くんの彼女になれるはずだったんだから。」


え?

陽菜子に復讐するんじゃなくて・・・。

田所先輩の狙いは藤野先輩?


「田所・・・、それが目的だったのか? そのために僕を利用したのか?」


「そう。ぴいちゃんが八木くんとうまく行くか、そうじゃなくても藤野くんが、八木くんと仲良くなったぴいちゃんに愛想をつかしてくれればよかったの。」


そんなこと、あるわけないのに・・・。

あんなに信じ合ってるんだぞ。


「そのために、ぴいちゃんとも仲良くなったんだから。藤野くんに近付くために。ぴいちゃんに傷つけられた藤野くんをあたしが慰めて、それでうまくいくはずだったのに。」


「・・・本気でそう思ってるのか?」


八木も、呆れ気味?


「どうしてそんな顔するの? だって、あたしとぴいちゃんって似てるじゃない? 何人もの人に言われたよ。」


・・・まあ、たしかに第一印象は少しね。

でも、中身は全然違う!


「もし、2年のときに藤野くんと同じクラスになったのがぴいちゃんじゃなくてあたしだったら、今、藤野くんの隣にいるのはあたしだったのよ!」


おいおい!

勘違いもはなはだしいぞ!


「1年のとき、吹奏楽部で野球部の応援に行って話したときから、ずっと好きだったのよ! 3年になっても、やっぱり親切だったし。せっかく同じクラスになったんだから、そのチャンスを利用して何が悪いの?」


「だからって、俺を利用する必要は」


「あら。八木くんだけじゃないよ。」


え?


「八木くんだけじゃ、失敗する可能性があるからと思って。うちの部の1年生、さっき話した許婚の幼馴染みの子をね。」


え?! 俺?!


「ぴいちゃんと藤野くんの邪魔をさせようと思っていろんな情報を流してあげたけど、ちっとも役に立たなかった。逆に藤野くんと仲良くなっちゃうなんて、がっかり。」


くっそ〜!!

がっかりで、ざまあみろだ!!


「ねえ。昼休みはどんな様子だったの? 5時間目も6時間目も、ぴいちゃん、ずいぶん辛そうだったけど。」


そんなに・・・?

陽菜子。守れなくて、ごめん。


「・・・田所に言われたことを信じて誘ったら、断られて・・・、思わず逆上して・・・。」


「何か言ってやったの?」


“言ってやった” って・・・、ひどい言い方だ。

藤野先輩とうまく行かなかったからって、陽菜子が傷ついてることがそんなに嬉しいのか?


「・・・『男なら誰でもいいくせに。』って。『そんな女だから、彼氏がほかの女とイチャついてても平気なんだろう。』って・・・。」


ひどい!

八木の馬鹿野郎!!


「ふふ。」


笑ってる?!


「八木くんには、あたしと藤野くんがイチャついてるように見えてた?」


八木の返事は聞こえない。


「それなら少しはよかったかな?」


「・・・何が?」


「ぴいちゃんにイヤな思いをさせてやったってこと。」


そんな!


「・・・どうして?」


「だって、悔しいもの。あんなふうに取り柄のない子が、ただ同じクラスになったっていう理由だけで藤野くんの彼女になるなんて、絶対に認めたくない。あたしは1年のときからずっと藤野くんのことを見ていたのに。」


田所先輩・・・。歪んでるよ、そんな考え方。

俺だって、陽菜子と藤野先輩のことを認めたくないけど、だからって、藤野先輩に何をしてもいいとは思わない。

そんなことをしたら、陽菜子が悲しむ・・・。


「無理だったよ。」


「え?」


「田所がどんなに頑張っても、藤野は迷惑そうだったよ。」


「うそばっかり。さっき、 “イチャついてた” って言った・・・」


「ただその場で、吉野さんを傷つけようとして言っただけだよ。田所だって、気付いてたんじゃないのか?」


「そんなこと・・・。だって、いつもあたしのこと断らないで・・・。」


「初めのころだけだろう? 最近は、追い払われてたじゃないか。」


藤野先輩も頑張ってたんだ・・・。


「認めない、そんなこと。藤野くんは優しいもの。」


「それは、田所が吉野さんと仲がいいと思って、吉野さんのために、田所に親切にしてるだけだ。」


「そんな・・・。あたしに優しいのはぴいちゃんのため? あたしのことは・・・?」


「友達って思ってたらラッキー、っていう程度じゃないか? それも、こんなことをした後じゃ、分からないけど。」


「バレるはず、ない。八木くんが言わなければ。」


俺が言っちゃうけどね。


「こんなことして、吉野さんと平気でこれからも仲良くできるのか? 藤野と平気で話せるのか? ・・・僕はできない。あまりにも、酷いことを言ってしまったから。」


背後の体育館で声が聞こえてハッとする。

バレー部とバスケ部が、準備運動を始めている。


・・・もういいや。

何があったのかは分かった。


俺の行動が、陽菜子を傷つけることに利用されたってことも・・・。


ごめん、陽菜子・・・。









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