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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十章 『吉野先輩を守る会』は・・・。
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新『吉野先輩を守る会』  ≪茜≫(2)



6月6日。


活動を開始してそろそろ2週間近い。

毎日、特に変わったこともなく過ぎている・・・と思う。


昼休みと放課後は、吉野先輩が八木先輩や田所先輩と一緒にいるところを一度も見ていない。

2度ほどすれ違った教室の移動のときには、吉野先輩はお兄ちゃんとは一緒にいなかったけど、隣を歩いていたのは長谷川先輩ともう一人の女子の先輩だった。

田所先輩とお兄ちゃんは見かけなかったから、違う教室だったのかな? お兄ちゃんは大丈夫かな・・・?


ただ、早瀬だけは、今週になってから、八木先輩の様子が変わったと言う。

原因は席替えじゃないかと。

毎朝の訪問で、早瀬は吉野先輩に新しい席順を訊いてきていて、もとは吉野先輩のすぐ前に座っていた八木先輩が、離れた位置になったことを知っていた。


「前は、自分が陽菜子と話した話題を、俺に自慢するみたいにしゃべっていたのに、最近はそれができなくなって、恨めしそうな顔をしてるよ。なんとなくイライラしてるみたいな感じもするし。」


なるほどね。

席が離れたから、話すチャンスが減ったのか。

まさか、それでイライラしてる八木先輩を、早瀬が煽ってたりしないよね?

このまま厄介払いできるといいけど。


そんな調子で、少し飽きたな・・・なんて思っていた今日、事件が起きた。




「吉野先輩、様子が変だったぞ。」


昼休みの図書室当番から戻った健ちゃんが、息を切らしながら話しかけてきた。


「歩くのもやっとって感じで・・・、あ、次の休み時間に話すよ。」


「うん。わかった。」



次の休み時間、健ちゃんが教室の隅に『守る会』のメンバーを集めて報告する。


「昼休みが終わるころ、吉野先輩、ものすごく具合が悪そうだったよ。」


「おかしいな。 朝は何でもなさそうだったけど・・・?」


首をひねっている早瀬の横で、健ちゃんが昼休みに見てきたことを詳しく話してくれた。


「今日は、珍しく藤野先輩が一人で図書室に来たんだ。俺は少し離れた本棚のあいだにいたから、先輩は気付かなかったみたいで、雑誌を持って机に行ったのを、そのまま仕事をしながら見てたんだ。たぶん、吉野先輩と待ち合わせてるんじゃないかと思って。」


それはなかなかいい判断だね。

奈々もうなずいている。


「でも、吉野先輩はなかなか来なくて、藤野先輩は何回も時計と入り口を見ててさ。あと7、8分で予鈴が鳴る時間になって、立ち上がったんだよ。そこに吉野先輩が到着したんだけど。」


そこで、近藤が一息つく。


「吉野先輩、真っ青な顔しててさ、歩くのもやっとって感じだったよ。入り口の戸を開けたままそこにつかまってて、藤野先輩が駆け寄って机まで連れて行ったんだ。」


どうしたんだろう? 病気?


「藤野先輩がいろいろ訊いてたけど、吉野先輩は首を振って、「大丈夫」って言ってたみたいだった。もう時間が遅かったから、藤野先輩が付き添って出て行ったよ。ちょっと廊下に出て見てみたら、保健室じゃなくて、教室に戻ったみたいだった。」


「教室に戻ったんなら病気じゃないのかもね。」


「生理痛じゃないの?」


奈々?!

男の子の前で、そんなにはっきり言う?!


「いや。陽菜子はいつもそんなに重くないよ。」


早瀬まで?!

そりゃあ、誰にでもあることなんだけど・・・。

赤くなってるのはあたしと健ちゃんだけ?

恥ずかしがる方が変なのかな・・・?


「教室に戻ったんなら、心配いらないのかもしれないね。」


奈々が落ち着いた声で言う。


「俺、6時間目が終わったら、陽菜子のところに行ってみる。今までそんなに具合が悪いことってなかったし、様子が分からないと不安だから。」


そうだよね。

早瀬にとっては大切なひとだもんね。


あ、そうか。


「今日は吉野先輩が部活に来る日だよ。授業に出てるなら、そのまま部活にも来るかもしれないね。」


「うん、そうだね。来たら、先輩の様子はメールで知らせるよ。」




放課後、部室に行ってみると、あたしたちより少し後から、長谷川先輩が一人でやって来た。

心配そうな表情で笹本先輩のところに行って、何か話している。

話を聞いた笹本先輩も、気遣わしげな表情に。

きっと、吉野先輩のことを話してるんだ・・・。


「今日は吉野先輩は・・・?」


いつもの観測の準備をしはじめたところで、奈々と一緒に長谷川先輩に近付いて尋ねる。


「あ、ぴいちゃんは具合が悪いから、今日はお休み。」


やっぱり・・・。


「あの、先輩。うちのクラスの子が昼休みに吉野先輩を見かけて、すごく体調が悪そうだったって言ってたんですけど・・・?」


奈々が心配そうに訊く。


「え? 見かけたの? それ、昼休みのいつごろ?」


「ええと、終わりごろって・・・。」


「ああ、そう・・・。じゃあ、わからないか・・・。」


長谷川先輩ががっかりした顔をした。

先輩たちも、理由はわからないのかな?


「食当たりか何かでしょうか? 早瀬くんが、朝は元気だったって言ってましたけど?」


「何が原因なのか、よくわからないんだよね。ぴいちゃんは『大丈夫』って言うばっかりで。でも、5時間目も、6時間目も、顔色は悪いままだし、今にも倒れそうだったんだよ。あんまりひどいから、藤野が部活を休んで、家まで送って行くことにしたんだ。」


え?

お兄ちゃんが?

野球部を休んで?

吉野先輩の家まで送って行く?


そんなに悪いの?!

驚いて顔を見合わせている奈々とあたしに、長谷川先輩が元気づけるように言う。


「大丈夫だよ、藤野がついてるから。あたしなんかよりも、藤野の方がよっぽどよく気が回るよ。それに、絶対にぴいちゃんに無理をさせたりしないから。」


うん、きっとそうだ。

お兄ちゃんは、絶対に吉野先輩に無理をさせたりしないはず。


だけど・・・吉野先輩の家は遠い。

本当に大丈夫かな?


不安に思うけど、今のところ、あたしたちにできることはない。


そういえば、早瀬は吉野先輩が帰る前に会えたのかな?

・・・そうだ。


「ねえ、奈々。一応、健ちゃんと早瀬に、お兄ちゃんが吉野先輩を送って行ったことを知らせておいた方がいいかな?」


「ああ、そうだね。もう知ってるかもしれないけど、その方がいいね。」


本当に、吉野先輩、大丈夫かな?

それに、いったい何があったんだろう・・・?









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