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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第十章 『吉野先輩を守る会』は・・・。
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新『吉野先輩を守る会』  ≪茜≫(1)



『吉野先輩を守る会』に早瀬と近藤・・・じゃなくて健ちゃんが加わった翌日の昼休み、あたしたちは作戦を練った。

健ちゃんは、奈々が気に入らないことを言うと、「セブン」なんて変な呼び方をして、たびたび混ぜ返していたけど。


「あたしたちがやらなくちゃいけないのは、八木っていう人と田所先輩を、吉野先輩に近付けないようにすることだよね。まず、みんなで分担できそうなことを考えようよ。」


奈々が早速、提案する。

こういうときには本当に頼りになる。

何となく楽しそうなのは、大目に見てあげないとね。


「朝は俺が見張る。」


と早瀬。

当然か・・・。

今までもやってるし、早瀬なら吉野先輩も変だとは思わない。


でも。


「朝はいいとしても、休み時間の度に先輩のところに行くわけにはいかないよね?」


「そこは仕方ないな。まあ、長谷川先輩と藤野先輩がいるから、授業がある間はなんとかなるんじゃないか? 藤野先輩には、この前、ひとこと言っておいたし。」


うん。

自分の彼女なんだから、あたしたちが言うまでもないだろうけど。

ただ、お兄ちゃんは田所先輩っていうひとを何とかしないとね・・・。


「俺、昼休みに図書室で、よく吉野先輩のことを見るよ。」


「ああ。健ちゃんって図書委員だっけ。そういうときって、吉野先輩は誰かと一緒なの?」


「いや。たいてい一人で来るよ。一度、藤野先輩があとから来たことがあったけど。」


「一人か・・・。」


奈々が考え込む。


「健ちゃんの昼休みのお当番って、どれくらいのサイクル?」


「週一回あるかないかってところ。」


「吉野先輩は毎回、来るの?」


「毎回じゃないけど、半分よりは多いかな。昼休みの終わりごろにちょっとだけ来ることもあるし。」


「あたしたちが毎日、図書室を見張ってもしょうがないか。いつまで続くかわからないしね。」


「そうだね・・・。」


「俺、当番以外の日も、昼休みに図書室に寄るくらいならできるよ。毎日は無理かもしれないけど。」


たしかに吉野先輩が図書室で健ちゃんに会っても、図書委員の健ちゃんなら疑われないよね。


「じゃあ、お昼休みは健ちゃんにお願いするね。無理のない範囲でいいから。」


「了解! まかせとけ!」


健ちゃん、嬉しそう。

きっと、吉野先輩のためなら、何でも楽しいんだ・・・。


「あとは放課後か。やっぱり、あたしとあーちゃんかな? 部活も一緒だしね。」


「いいけど・・・、教室に行く?」


「教室じゃないと意味ないじゃん。警戒対象が同じクラスにいるんだもん。」


「あ。放課後は藤野先輩が一緒にいるぜ。」


「え? そうなの?」


早瀬、そんなに吉野先輩のことに詳しいのか・・・。


「うん。部活に出ないで帰る日は、必ず藤野先輩と一緒に昇降口まで来るよ。」


「なんで知ってるの、そんなこと?」


「俺、待ち伏せしたから。」


待ち伏せ?!

そんなに平気な顔して言うの?!


「じゃあ、そこまでは安心なんだね。」


奈々・・・、びっくりしないんだ。


「あたしとあーちゃんは、万が一のことを考えて、吉野先輩があーちゃんのお兄さんと別れてから学校を出るまでを見守ることにしようよ。」


「どうやって? 中庭で待つ?」


「ううん。そんなことしなくても平気だよ。部室の廊下から中庭が見えるし、部室からは3年生の自転車置き場が見えるじゃない。」


ああ、たしかに!


「奈々、かしこいね! で、もしもそこで警戒対象が出てきたりしたら、吉野先輩に声をかければいいってことね。」


「そういうこと! どうかな?」


健ちゃんと早瀬も同意して、あたしたちは緊急用に連絡先を教え合い、その日から活動を開始した。




奈々とあたしは、毎日、放課後に理科室の廊下から(または5階の教室の廊下から)中庭をのぞき込む。

何日かすると、お兄ちゃんと吉野先輩が昇降口から出てくるのは、ほかの生徒がだいたい通り過ぎてからだとわかった。

放課後になった直後には生徒が行き交っていっぱいになっている中庭に人がいなくなったころ、お兄ちゃんたちが出てきて、手を振って分かれていく。吉野先輩は自転車置き場へ、お兄ちゃんは部室のある体育館の方へ。


誰かに見張られているとは思ってもみない二人はいつもにこにこしていて、その様子を見るたびに、あたしも嬉しくなってしまう。

プラネタリウムに行った日から、お兄ちゃんに少しずつ笹本先輩のことを言い続けてきた甲斐があったみたい。



6月1日、見張りを始めた翌週の金曜日。


吉野先輩が部活に出る予定だったので、教室まで迎えに行ってみることにした。

早瀬が、吉野先輩が部活に出る日のことはよく知らなかったから。

長谷川先輩が一緒にいるのは分かっていたけど、放課後の様子を見ておくのも悪くないだろうということになって。

あたしたちが吉野先輩のところに行っても怪しまれないだろうし。


まだたくさんの先輩たちがウロウロしている3階の廊下を、3年8組の教室まで歩く。

やっぱり上級生の教室の前は気後れしちゃう。

天文部の先輩とすれ違って、ちょっとあいさつ。

笹本先輩は、もう行っちゃったかな・・・?


3年8組の教室から笑い声が聞こえてくる。

男子も女子も何人かいるみたい。


教室の前側の入り口からそっとのぞいてみると・・・吉野先輩とお兄ちゃん、それに長谷川先輩もいる。あと、後ろ向きで男子の先輩が2人。

真ん中あたりの席で、椅子に座った吉野先輩と長谷川先輩を中心に、楽しそうにお話し中。


そうか。

吉野先輩が部活に出る日でも、お兄ちゃんはぎりぎりまで一緒にいるんだ。


「あれ? 奈々ちゃんと茜ちゃん?」


吉野先輩が気付く。

長谷川先輩がこっちを見て、慌てて時計を見る。


「迎えに来たの? もうそんな時間?」


それを聞いて、お兄ちゃんたちも急いで時計を確認。


「あ、違います! ちょっと寄ってみただけ・・・。」


まさか、見張りに来たとは言えない。


「二人とも、どうぞ入って。」


吉野先輩が楽しそうに、あたしたちに手招き。

お兄ちゃんが渋い顔をするのを見て、心の中で謝った。


「おととい、席替えしたんだよ。あたしとまーちゃんはこんな真ん中で並んでるの。」


それで、この場所に集まってるんですね。

あ。男子の先輩の一人には見覚えが・・・。


「こんにちは。」


「あ、藤野の妹だ。」


その先輩にそう言われ、奈々が不思議そうな顔であたしを見る。


ええと、たしかコンビニで会った先輩だよね・・・。

猛烈な勢いで記憶を呼び起こそうとしてみるけど、全然、名前が出てこない。


「東くんだよ。こちらは根岸くん。」


吉野先輩、ありがとうございます!


そうそう! 東先輩だ。

根岸先輩は野球部だね。お兄ちゃんと同じバッグ。


「こんにちは。」

「初めまして。」


奈々とあたしがあいさつをする横で、吉野先輩が男子の先輩にあたしたちを紹介してくれる。


「天文部の1年生なの。藤野くんの妹の茜ちゃんと、窪田奈々ちゃん。」


「かわいいからって、軽々しく手を出さないでよ。」


長谷川先輩がわざと恐い顔をして付け加えた。


「軽々しくじゃなくて、本気ならいいわけ?」


東先輩の言葉に、お兄ちゃん以外の全員が笑う。

前に会ったときもそう思ったけど、東先輩って、どこまでも軽い人だ・・・。


「そろそろ行かないか?」


お兄ちゃんがそわそわしながら言うと、「はいはい。」と根岸先輩が笑いながらバッグを肩にかけ、東先輩も「俺も行くか。」と立ち上がる。

笑顔で手を振りながら教室を出るときに、東先輩が一言。


「二人とも、こんど、帰りにアイス食べようね〜。」


うわー。

ホントに軽いなあ・・・。


「はーい。楽しみにしてまーす♪」


奈々?!


吉野先輩とあたしが驚いて奈々を見て、長谷川先輩が隣でくすくすと笑う。

奈々は平気な顔であたしに言った。


「だって、おごってくれるんじゃない?」


長谷川先輩の大きな笑い声が響き渡った。









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