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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第九章 藤野 青
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ぴいちゃんを守りたいのに・・・。(10)


俺の部屋で、並んで座っているぴいちゃんの肩を抱いている。


八木にひどいことを言われ、恐い思いをしたことを彼女が忘れられるように。

俺が彼女を守り切れなかったことの償いの気持ちを込めて。

俺の一番大切なひとがぴいちゃんであることが伝わるように。


だけど・・・けっこう態勢がキツい。


上半身をひねってぴいちゃんを支えるのはそろそろ限界?

でも、離れたくない。


・・・思い切って。


ぴいちゃんの後ろに手をまわし、ウェストを抱えて持ち上げながら引っぱる。


よいしょ!


「うわ?!」


床に伸ばしている自分の脚の上に、ぴいちゃんを横向きに座らせる。


「え? あれ?」


ぴいちゃんが驚いて声を上げたけど、それには構わず、背中を抱き寄せてみる。


あ〜、やっぱり、この方が断然楽だ。

これなら何分でもOK!

腕に力を込めやすいし・・・。


バランスを取ろうとぴいちゃんが動かした脚が横腹にあたる。

視界の隅で何かが動いてると思ったら、ぴいちゃんがスカートの裾を引っぱって直していた。


こういう慎み深いところもぴいちゃんらしくて・・・かわいい!


ほっそりして、やわらかいぴいちゃん。

彼女の鼓動がそのまま伝わって来そうな気がする。


「う・・・、藤野くん? く、苦しい。」


耳のすぐ横で、ぴいちゃんの声。


やだ!

離したくない。


大丈夫。

誰も見てないよ。

俺の償いと愛情を受け取って。

それに・・・すっごく幸せ!


ぴいちゃんが思いっきり息を吸い込んでいる。


ほら、ちゃんと息ができるじゃないか!


ぴいちゃんの背中にまわした腕を、三つ編みにした髪がパタンとたたく。

彼女の肩越しに見下ろして、思い出した。

一度、引っぱってみたことがあったっけ。



・・・解いちゃおうかな。



三つ編みを手に持ってみる。

先の方を留めてあるゴムをはずせば・・・。


「ふ、藤野くん。あの。」


ぴいちゃんが両手で俺の肩を押して、どうにか体を離す。

でも、俺は腕をほどかない。

二人の間には狭い隙間があるだけ。


「あの、もう大丈夫・・・だから・・・。」


ぴいちゃんの言葉が途中で小さなつぶやきになって消える。


もしかして、身の危険を感じてるのかな?

この先までは考えていなかったけど・・・。


ひざの上にすわっているぴいちゃんの顔の位置は、いつもと違って俺と同じ高さ。


考えてはいなかったけど、こんなに近くで見つめ合ったら、次は・・・。



次は・・・?



最初は軽い驚きの表情で俺を見ていたぴいちゃんが、近くで見つめ合うことに耐えきれなくなって、俺の肩にパタンと顔を伏せてしまった。


ホントにかわいいなあ!

これはこれで、いい感じではあるけど・・・。


「ぴいちゃん。」


そっと呼ぶと、少し身を引きながら、ためらいがちに俺の方に顔を向ける。


「大好きだよ。」


ゆっくりと顔を近付ける。


次は・・・これで正解・・・だよね?


ぴいちゃんが恥ずかしそうに瞬きを何度も繰り返して・・・、ようやく決心したように目を閉じる。


・・・位置はこれでいいのか?

よくわからないけど・・・、どうにかなるな、きっと。



バターン!



家が振動するほどの大きな音!!

うちの玄関みたいだけど?!


目の前のぴいちゃんが、ぱっちりと目を開ける。


バタバタという足音と、「ママ!」という声。


茜?!


帰ってきたのか?

こんなに早く?


「陽菜子!」


と呼ぶ男の声も聞こえるような・・・。


「早瀬?」


ぴいちゃんを膝に乗せたこの状態でドアが開けられたら・・・・・子どもには目の毒だ!


思わずドアの方を向く。

その途端 ―― 。



チュッ!



え?

右の頬に・・・。


ぴいちゃん?!


驚いてぴいちゃんの顔を見ると、彼女がくすっと笑って、今度は唇に・・・。



ふんわりと、まるでたんぽぽの綿毛でなでられたくらいの ―― Kiss。



「今日のお礼。」


ぴいちゃんは小さな声でそう言うと、軽やかに立ち上がって、ベッドに腰掛ける。

手にはいつの間に取ったのか、お盆の上に載っていたお菓子。


残されたのは、腕の中はからっぽなのに、そのままの状態で固まっている俺。


1階で茜と早瀬が母親と何かを話している気配のあと、ドスドスと階段を昇って来る足音と声。


「吉野先輩!」

「陽菜子!」


二人の声で我に返る。


俺・・・ちゃんとしてるのか?

心臓はものすごい速さで打ってるけど・・・。


「吉野先輩!」


ノックもなしにドアが開けられて、茜と早瀬が飛び込んでくる。


「大丈夫ですか?!」


茜がお菓子を手にしているぴいちゃんを見てほっとした表情をする。

その横で、早瀬が険しい目つきでさっと部屋に目を走らせ、ベッドとぴいちゃんを確認して緊張を解いたのがわかった。


あれ?

もしかして、お前はそこまでの心配をしていたのか?

いくらなんでも、ぴいちゃんは具合が悪かったんだぞ・・・。


だけど。

こんなことなら、ベッドをぴいちゃんが寝たときのままにしておけばよかった。

それに、さっきぴいちゃんの髪を解いておけば、早瀬を焦らせることができたのに!

返す返すも残念だ。

・・・茜に何て言われるか考えると恐ろしいけど。


それにしても。


俺、キスはいつもぴいちゃんにされてるな・・・。




母親に階段の下から呼ばれて部屋を出ようとすると、ぴいちゃんが一緒について来てくれた。ちゃんとあいさつをしたいと言って。


「いきなり響希まで来ちゃったしね。」


と笑う。

いつもの笑顔が戻ったぴいちゃんがそこにいる。

話をさせたことは間違いじゃなかったと、ほっとする。


早瀬には、やっぱりぴいちゃんがメールで俺の家で休んでいると知らせたらしい。


「だって、心配して、あたしの家まで行こうとしてたみたいだったから。」


俺の家にいることを知った早瀬に、べつな心配が持ち上がったことにはぴいちゃんは気付いていない。


元気になったぴいちゃんを見て、母親が夕飯を食べて行くようにと薦めた。


「さっきの男の子も一緒に。」


なんて、すごく楽しそう。

どうやら早瀬のことを気に入ったらしい。

ああいう顔は年齢に関係なく、女性に好かれるんだな。


時計を見るとそろそろ5時で、これからあの二人と今日のことを話すとしたら、小一時間はかかるだろう。

俺からもぴいちゃんに食事をしていくように言うと、迷った末にようやく承諾して、うちの母親に頭を下げた。


ぴいちゃんが家のお祖母さんに電話で事情を話し、うちの母親がついでにあいさつ。

茜と早瀬のカップと追加のコーヒーを受け取って俺の部屋へ・・・戻りかけたところで、「青、ちょっと。」と母親に呼び戻される。

ぴいちゃんが先に階段を上って行くのを確認した母親が、真剣な顔つきで、内緒話をするように身を寄せてくる。


「あれこれ考えたら、心配になっちゃったんだけど・・・。」


そこまで言って、目をそらして迷ってる。

なんだろう?

言いかけて止めるなんて、うちの母親らしくない。


何秒か迷ったあと、もう一度俺を見ると、声をひそめて話し出した。


「陽菜子ちゃんの具合が悪いって、まさか、妊娠してるんじゃないでしょうね?」


「な・・・母さん?!!」


そんな・・・妊娠?!

なんで?!

どうして?!

いや、・・・そりゃあ、やり方は知ってるけど・・・わああ!


さっき、早瀬が慌ててたのを見ても平気だった。あれは、たんなる空想の産物だから。

でも、母親の口からまるで事実のように言われると・・・困る!


「もしそうなら、青だってもう結婚できる年なんだし、あちらのお家にもお話しして・・・」


「しっ、してないよ!! そんなこ・・・。」


“妊娠なんかしてない” という意味で言おうとした “そんなこと” という言葉で、思いっきりリアルな場面を思い浮かべそうになって、急いで止める。


頭がくらくらする!

今度は俺が倒れそう・・・。


「だっ、大丈夫っ! 彼女のは精神的なショックだから!」


「そうなの? そういうことは自分たちだけで解決しようとしちゃダメよ。」


そ、そういうこと?!


「だから、違うってば!」


ようやく納得したのか、母親は小さくため息をついた。


ため息をつきたいのは俺の方だ・・・。

早くぴいちゃんのところに戻ろう。


ポットを持ち上げた俺に、母親がもうひとこと。


「赤ちゃんができないようにする方法は・・・」


「知ってるよ!!」


信じられない!

今さら母親にこんな話をされるなんて!



・・・だけど。



茜たちが帰って来なかったら、 “そんなこと” が手の届くところにあったのか?


なんて思ったら、心臓が跳ね上がって、息が止まりそうになってしまった。









次は茜ちゃんからのおはなしです。

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