ぴいちゃんを守りたいのに・・・。(4)
「つまり、 “友達の彼氏” ってやつだな。」
俺の、田所さんについての愚痴を聞いて、映司がわかったような顔をしながら言った。
「どういう意味だよ?」
「ほら、ドラマとかでもあるじゃないか。親友の彼氏とか彼女を好きになっちゃう話。」
映司、もしかして楽しそう?
まさか、和久井に話そうと思ってるんじゃないだろうな?
「・・・そういうドラマでは、最終的にどうなるわけ?」
「うーん・・・。主人公が誰かってことによるな。最終的には主人公が幸せになるんだから。」
全然、参考にならない!
「“別れられてラッキー” ってこともあるし・・・。」
ぴいちゃんが俺と別れられてラッキー?!
変なこと言わないでくれよ!
「そんな結末は却下。」
俺のムッとした顔を見て、「ごめんごめん、あはは。」と笑う映司。
「お前をからかうと面白いから。」
もう!
「その性格って、和久井に影響されてるんじゃないか?」
「そうかもしれないなあ。なっちゃん、いつも藤野のことからかってたもんな。」
そう言って、映司はまた笑う。
去年の文化祭のとき、俺は和久井を信用して、ぴいちゃんのことでちょっと頼みごとをした。
そうしたら。
ことあるごとに、俺は和久井にからかわれる破目に陥った。
俺の気持ちには一向に気付かないぴいちゃんの前で、俺が答えられないような質問をしたり、ぴいちゃんをけしかけたりするのだ。
で、困っている俺を見て笑ってる。
一度なんか、ぴいちゃんと俺が話しているのを映司に盗み聞きさせたこともある。(『見張れ』っていう指令だったらしいけど、俺はそんな危険人物じゃない!)
和久井がしっかり者で、ぴいちゃんの安心できる友達だっていうことだけは間違いないんだけど。一応、信用できるし。
もしかしたら、映司に相談したのは間違いだったかも、と思い始めたころ、映司が真面目な顔をして言った。
「誰かに協力してもらったらどうだ?」
「協力?」
「うん。その田所さん、だっけ? その人をお前に近付けないようにしてもらうとか。」
なんだか、俺が八木にやろうとしてるのと同じようなことだ・・・。
「それって、けっこう大変だと思うな。」
「なんで? 田所って、そんなにしつこいの?」
「そういうことじゃなくて、実は今、吉野に近付こうとしてるヤツがいて・・・。」
「え?! お前が同じクラスにいるのにか?!」
「うん。そいつと吉野が一緒にいるときは、俺もなるべく一緒にいようと思ってるんだけどなかなか難しいんだ。」
「吉野って、男は苦手だったよな?」
「そうなんだけど、吉野がそいつのことは “女子と同じ” って言うんだよ。そんなよくわからない根拠で、そいつにだけは警戒心がないんだ。」
「何ていう名前?」
「八木。八木裕一郎だったかな? 知ってるか?」
「八木・・・? あ。もしかしてブラバンか?」
「今は部活は入ってないみたいだけど・・・。」
「おとなしい感じの目立たないヤツ?」
「ああ、そうそう。」
「俺と同じ中学だったヤツだ。あいつか。たしかに危険そうには見えないよな。」
映司がちょっと考えてから尋ねる。
「ただの友達ってことはないのか? いくらなんでも、藤野の目の前で吉野に近付けるような男じゃなさそうだったし、吉野が気付かないってことは・・・。」
「吉野は気が付かないよ、そういうこと。」
俺と岡田が目の前をウロウロしていても、全然わからなかったんだから。
ため息をつく俺を見て、映司が笑う。
「そうだったな。」
「それに、俺以外にも気付いてるヤツがいる。」
「ふうん。・・・じゃあ、今、藤野には心配事が2つあるわけだ。自分のと、吉野のと。」
「そいういうこと。」
で、片方だけでも解決できればいいと思ったけど、無理かもな・・・。
「長谷川がいるだろう?」
「いるけど、田所さんのことは苦手だって言って、近寄らないよ。」
「へえ。俺、あいつは信用できると思うけど。八木のことをどう思ってるか訊いてみれば?」
そうだな・・・。
長谷川になら、俺が心配してることを話しても大丈夫かな。
・・・笑われるかもしれないけど。
「あと、お前も邪魔してもらった方がいいな。根岸が同じクラスだっけ?」
「そうだけど、根岸にそんなことできそうか?」
お調子者で、なんとなく不安だ。
「・・・いいや。長谷川が八木を見張ってくれるなら、田所さんのことは自分でどうにかするから。」
よく考えたら、俺が誰かと一緒にいればいい話だ。
それで、会話もそっちに振ってしまおう。
「なんとなく、見通しが明るいような気がしてきた。映司に話せてよかった。サンキュー。」
「だろう? 持つべきものは、信用できる友達だよな! ところで、先週、あいつと対決したんじゃないのか?」
「あいつ?」
対決って、なんだ?
「吉野の年下の許婚。」
「なんで知ってる?! ・・・あ、和久井に知らせたのはお前だもんな。」
そこからぴいちゃんに連絡が行ったんだった。
「藤野が話してくれるんじゃないかと思って、ずーっと待ってたのに、もう一週間以上たったぜ。俺って信用ないんだな・・・。」
そう言って、ため息をつく真似をする映司。
「和久井から聞いてないのか? 吉野が和久井には話してると思ったけど。」
「なっちゃんからは一緒に夕飯作ったって聞いたけど、吉野はその場にいたわけじゃないだろう? やっぱり本人から聞かないと。本当は殴り合いとかしたのか?」
ドラマを持ち出すだけあって、そういう展開を期待してるわけね。
「ケンカなんかしてないよ。俺、怪我なんてしてなかっただろう?」
「・・・そうだな。じゃあ、延々と話し合ったのか?」
「議論もしなかったな。練習のあとにそんなことしてたら、眠っちゃうよ、俺。」
「じゃあ・・・?」
「本当に夕飯作って、食べただけ。」
「え〜〜〜〜?! 信じられない! じゃあ、決着はどうやってつけたんだよ?」
「そのあたりのことは、ほとんど話してないよ。」
「じゃあ、何しに行ったんだ?」
何しに・・・って訊かれると、岡田とのことを話しにっていうのも、なんとなく変か?
「向こうが相談事があって・・・。」
「相談? ライバルのお前に? それで、家に呼んで、一緒に飯を食うのか?」
「まあ、そんな感じだけど。」
おかしいか?
「そんなの納得できない!」
「べつに映司が納得できるかどうかの問題じゃないと・・・、」
「わかった!」
何が?
「人に言えないようなことがあったんだろう?」
なんだ、その怪しげな目つきは?
「男にしては綺麗な子だったじゃないか。」
「は?」
「相談とか言いながら、誰もいない家に藤野を呼んだりして、」
おい。
まさか。
「『先輩、実は俺、先輩のことが。』なんて言われて、一緒にシャワーとか・・・」
うわ。
ばか、映司!
「やめろよ!」
映司の言葉を急いで止める。
「信じられない! どこから出てくるんだ、そういう想像は?!」
だいたい、口に出すのも恥ずかしくないか?!
映司は平然と笑ってるけど、俺は自分の耳が赤くなってるのがわかる。
「やっぱり、藤野って純情だよな〜。からかうと面白い! あははは!」
それをまた和久井に話して楽しむわけだな・・・。
俺、この二人には、いつもからかわれてばっかりだ。
映司に相談したのって、やっぱり間違ってたかな・・・。