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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第八章 響希
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陽菜子のまわりの男たち(10)



「ねえ。実は、あたしもちょっと心配なことがあるんだけど。」


藤野茜がおずおずと切り出した。


「え? あーちゃん、もしかして笹本先輩のこと?」


窪田が驚く。


「違うの。ちょっと、吉野先輩の様子が気になってて。・・・話してもいい?」


「そこまで話して、やめられたら気になるよ。」


近藤も不安そうな顔で促す。


「吉野先輩がね、あたしのことをチラっと見ることがあってね。」


見るって・・・見るだけ?


「それが、いつも吉野先輩が笹本先輩と話しているときなんだよね。」


「笹本先輩って?」


近藤が尋ねる。


「天文部の部長さんなの。吉野先輩と、すごく仲良しなんだよ。」


おい・・・。

仲良しだけど、疑われるような関係じゃないんだぞ。


「でね、どうしてそんなに見るのかなって考えて、思い当たったのが、お兄ちゃんのことなの。」


「藤野先輩?」


「うん。うちのお兄ちゃん、気が利かないから、吉野先輩がさびしいのかもって思ったんだ。笹本先輩って、吉野先輩にはすごく優しいから、お兄ちゃんにもそのくらい優しくしてほしいのかなって。それで、笹本先輩と仲がいいところをあたしに見せて、お兄ちゃんにそれとなく言ってほしいんじゃないかと思って。」


そんな遠回りなこと・・・。

あの二人、お互いに信頼感にあふれてるけど。


それにしても、よくそんな結論にたどり着いたな。


「でもね、きのうと今日、ほかのことが続けてあって・・・。」


「ほかのこと?」


「うん。ほら、あの女子の先輩。」


「ああ。田所先輩。」


そうだ。

きのうも田所先輩だった。


「もしかしたらお兄ちゃんが浮気してて・・・、」


「藤野先輩が浮気?!」


近藤が大声を出して、俺たちに睨まれる。


「それで、吉野先輩が、お兄ちゃんにヤキモチを妬かせようとしてるんじゃないかと思って・・・。」


探るように俺たちを見る藤野茜。


「浮気はあり得ない。」


俺が断言する。


「ホントに?」


と藤野茜。


「絶対。」


そう請け合っても、まだ信じられないという顔をしている。


「だって、さっき廊下で会ったとき、藤野先輩は陽菜子のことばっかり気にしてたよ。田所先輩のことはうわの空で。」


「そうかもしれないけど、きのう、有希乃が言ってたじゃん。『よく一緒にいる』って。同じ人でしょ?」


「そうだけど・・・。」


田所先輩と陽菜子はどっちも長い髪をうしろでまとめている。

陽菜子は三つ編みにしていて、田所先輩は真っ直ぐな髪を1本にたらしているっていう違いがあるけど。

それに、どっちも落ち着いた雰囲気で、第一印象が真面目な感じがする。

だから、きのうの方は人違いっていう可能性も捨てきれない。


「土曜日に弁当食べてるときは、二人とも、何も疑ってなかったよ。」


「土曜日に弁当って、なんだよ?」


・・・近藤は、最初にはいなかったんだっけ。


あれ?

そういえば・・・。


「今日の朝、見た。」


「何を?」


「田所先輩と藤野先輩。」


「どこで?」


「3年生の廊下。教室に行く藤野先輩に追い付いて来て、話しかけてた。」


「うーん。友達の範囲内っていう可能性も捨てきれないよね。」


「そうなんだけど、俺があいさつしようとしても気が付かなかったみたいで、・・・ちょっと気になった。」


“偶然” って、こんなに重なっても、やっぱり “偶然” なのか?

そういえば!


「俺、吹奏楽部の先輩に言われたんだった。」


「何を?」


「田所先輩に気をつけろって。」


「何だよ、それ?」


「俺、田所先輩とは部活でけっこう話すんだ。先輩が陽菜子と同じクラスで、俺が陽菜子のこと好きなのはみんな知ってるから、陽菜子のことをいろいろ話してくれて。」


だから、土曜日に陽菜子たちと弁当を食べることになって・・・。


「その先輩は、田所先輩に近付かれたら、自分が利用されてないかよく考えろって言った。」


「ってことは・・・?」


「お兄ちゃんが利用されてる可能性があるってこと?」


藤野茜がますます心配そうな顔をする。


「でも・・・、何のために?」


窪田はけっこう冷静だ。

たしかに、藤野先輩を何に利用するんだろう?


「吉野先輩に恨みがあるんじゃないか?」


近藤!

恐いこと言うなよ!


「ああ、そうかも! その先輩の好きな人が、吉野先輩のことを好きだとか。で、吉野先輩に仕返しするために、あーちゃんのお兄さんを・・・。」


そんな!


陽菜子も、藤野先輩も、二人ともすごくのんきだ。

自分たちを傷つけようと思って近付いて来られても、対抗できないんじゃないだろうか?

藤野先輩は陽菜子を守ろうとするだろうけど、もしかしたら、田所先輩の計画には気付かないかも・・・。


「ねえ。これって、あたしたちの出番じゃないの?」


窪田が藤野茜に話しかける。


「出番って・・・?」


「実はね、あたしたち二人で『吉野先輩を守る会』っていうのを作ってるの。」


窪田が真剣な顔をして言い、藤野茜が恥ずかしそうな顔をした。


「守る?」


近藤が不思議そうに訊く。


「そう。吉野先輩を狙ってる人を追い払うの。早瀬くんとか、笹・・・」


「あ、あの! 早瀬はもういいよ。お兄ちゃんがライバルだって認めたんなら、あとはお兄ちゃんと争ってくれればいいから。」


・・・俺と笹本先輩が対象だったわけか。


「あ! それで、俺が持ってる写真のことも、あれこれ言ってたんだな。」


近藤が納得した様子で言い、窪田がそれに応えてニヤリと笑う。


「でも、今度の方が本気で危なそうだよ。そういうことだよね、奈々?」


「うん、そう。さっきの八木っていう人も、その田所っていう人も、このままだと吉野先輩が傷つけられてしまうかもよ。」


それを聞いて、近藤がうなずく。


「つまり、俺たちでその二人から吉野先輩を守ろうってことだな?」


“俺たち” ?

・・・4人で?


「うん。どう? やる?」


「俺はもちろん、やる。吉野先輩のファン代表として。」


近藤が決意に満ちた表情でうなずく。


「・・・俺も。俺一人じゃ無理だと思うから、一緒に。」


それに、俺はもともと『陽菜子ガーディアン』だから。・・・とは、ちょっと恥ずかしくて言えないけど。


「あのね、『守る会』の会長はあーちゃんだからね。」


窪田がこれだけは譲れないという顔をして、俺と近藤に念を押した。


「奈々。それはどうでもいいよ・・・。」


藤野茜が困った顔をする。


「でも、誰かまとめ役がいないと。」


窪田の抗議に、藤野茜がちょっと考える。


「わかった。じゃあ、あたしが会長でもいいけど、司令官は奈々ってことでいい?」


「司令官?」


「そう。あたしより奈々の方が作戦を考えたりするのに向いてそうだから。」


「そう? ・・・じゃあ、いいよ。そういうことで。」


俺と近藤を無視して窪田が司令官に決まった。


・・・ということは。

つまり、俺と近藤は家来ってことだな・・・。


「よし! じゃあ、まずは、明日までに作戦を考えてこようよ!」


窪田がにこにこと張り切る。

ちょっと不安だけど・・・陽菜子のために、頑張ろう。


それに、これからは4人だ。








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