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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第八章 響希
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陽菜子のまわりの男たち(1)



月曜日の昼休み。


藤野茜と窪田が話しているのを見て、陽菜子のことを思い出した。

きのうは天文部の校外活動で、一緒に出かけていたはずだ。


今朝も、いつもの通りに陽菜子に会いに行ったけど、きのうのことは訊く暇がなかった。

長谷川先輩が来て、いつものように俺をからかうから。

もしかしたら、あの二人から、きのうの陽菜子の様子を聞けるかも。



「きのう、陽菜子と出かけたんだって?」


声をかけると、窪田はちょっと驚いたけど、藤野茜は俺の情報源はちゃんと気付いている。


「真悟くんでしょ?」


と。


つまんないな。

せめて、陽菜子から聞いたと思ってくれればいいのに。


「プラネタリウム、きれいだったよ。早瀬くんも一緒に行きたかった?」


窪田がにこにこしながら言う。

俺が聞きたいのはそんなことじゃないよ。


「べつに。部活だろう? みんなで一緒なら危ないこともないだろうし。」


そう答えると、窪田が怪しげな目つきをした。


「危ないことっていうわけじゃないけど、うちの部長さんがね・・・。」


「部長?」


なんだ?

窪田の表情が気になる。


「前からなんだけど、吉野先輩にはものすごく優しいんだよね。」


!!


それは・・・、それは、どういう意味だ?!


「や、やだなあ、奈々。そんなこと言ったら、早瀬が驚くよ。」


藤野茜が慌ててる。

こんなふうに慌てるってことは、やっぱり何か・・・。

教えろ、窪田!


「優しいって?」


俺の質問に込めた気持ちに気付かない様子で、窪田がその部長のことを話す。


「例えばね、『ぴいちゃん』って話しかけるときの言い方もそうだし、何かを始める前に、吉野先輩だけに『気をつけろよ』なんて声をかけるとか、吉野先輩が困ってるときにさりげなくサポートするとか。」


そんなに一気に出てくるなんて、忘れてる分を足したら相当な量になりそうだ。

その意味するところは一つ。

つまり・・・。


「は・・・早瀬。優しいって言っても、笹本先輩は吉野先輩と特別な関係なわけじゃないよ。」


当たり前だ!

あの陽菜子に、 “特別” がそんなに何人もいるわけがないじゃないか!

陽菜子はそんないい加減な女じゃないぞ!


思わず藤野茜を睨みつける。


「ほら、吉野先輩って、ファンがたくさんいるじゃない? 近藤とか、天文部の1年部員とか。お兄ちゃんが、よその学校にもいるって言ってたよ。ああ、それに、岡田先輩だって、吉野先輩のこと守ってるみたいに見えるじゃない。それと同じだよ。」


焦りながら説明する藤野茜。

それがかえって俺の疑惑を招いているとも知らずに。

でも、そのことばの中に、一瞬、俺を冷静にさせる名前が。


「・・・岡田先輩と同じ?」


「うん。そうそう。」


藤野茜がこくこくとうなずく。


岡田先輩か・・・。


たしかに岡田先輩は陽菜子のことを守ってるけど、陽菜子に下心を持ってるわけじゃない。

その証拠に、あの美人の先輩とすごく仲が良くて・・・。


「その部長って、彼女いるの?」


「彼女? いないよ。」


窪田のすばやい回答に、藤野茜が “しまった!” という顔をする。


やっぱり岡田先輩とは状況が違う。


「そう。貴重な情報、サンキュー。」


一度、その部長を見に行こう。




同じクラスの相沢に、天文部の部長のクラスを尋ねると、ちょっと不思議そうな顔をして


「たしか3−1だったと思うよ。」


と教えてくれた。


放課後、大急ぎで3年生の教室のある3階へ。

階段を降りて、いつもは8組方面へ左に曲がるところを右に曲がって、つきあたりの教室まで廊下を歩く。

まわりを3年生がたくさん歩いてて、何人かが、俺のことちらりと見た。

たぶん、俺が怒った顔をしているせいだ。


1組の手前まで来て、ハタと気がつく。

どうやったら、その人がわかるんだろう?

よく考えたら、名前もわからないや。

慌てないで、相沢にちゃんと訊いてくるんだった・・・。


今日はあきらめようかと思ったところで、吹奏楽部の先輩が1組から出てきた。


「あれ? 早瀬くん?」


ラッキー!

気さくでいつも面白いことを言っている高橋先輩だ。


「どうしたの? 今日は部活休むの?」


「違います。あの・・・、天文部の部長って、どの人ですか?」


「天文部の部長? ああ、笹本くんね。えーと・・・。」


よかった。

笹本先輩だな。

とりあえず、今日はどんなヤツか見て・・・。


「あ。笹本くーん! お客さんだよ!」


「え? あの、先輩、今日は・・・。」


高橋先輩、聞こえてないよ!


仕方なく先輩の視線を追うと、黒縁の眼鏡をかけた賢そうな男の先輩がいた。


「ちょっと待ってて。」


と、カバンに教科書を詰めてから、こっちに歩いてくる。

もう逃げられない。


よし!

予想外の展開になったけど、ちゃんと話をするぞ。


「ええと・・・?」


向かい合った笹本先輩は、俺と同じくらいの背の高さ。

でも、落ち着きがあって、俺とは較べものにならないくらい大人っぽい。

俺の顔に見覚えがないから戸惑った様子で、それでも親切そうな表情をくずさない。

・・・きっと、いい人なんだ。


「俺、早瀬響希っていいます。」


一応、頭を下げる。

陽菜子の友達だから。


「あ、笹本彰です。初めまして。」


先輩も?

こういうところ、ちょっと陽菜子に似てるかも。


俺たちの対面を見ていた高橋先輩が、笹本先輩の不思議そうな様子に気付いて、ひとこと付け加える。


「笹本くん、この子だよ、ぴい子の。」


小声で言ったつもりだろうけど、俺にもばっちり聞こえた。

それだけで意味が伝わるってことは、俺が流したうわさをこの先輩も知ってるってことだ。


笹本先輩は、一瞬、記憶をたどるような顔をしてから、「ああ!」と笑顔になった。


「こんにちは。どうしたの?」


さっきよりも、ずっと親しげな顔。

その顔を見たら、俺が用意していた言葉が全部、自分勝手な言葉のように思えてきた。


「あの・・・。」


何を言ったらいいのか迷って、下を向いてしまう。

こんなに軟弱そうな先輩を前にして、自分が下を向いてしまったってことに自分で驚く。


「歩きながら話そうか。」


俺が話し出せないことに気を遣って、先輩が言う。

たしかに、歩きながらの方が話しやすいかも。


「はい。」


と答えると、先輩が先に立って歩き出す。

俺も一歩足を出したところで、高橋先輩に呼び止められた。

振り向いた俺に、高橋先輩が手招きして、小声で話し出す。


「ちょうどいい機会だから、ちょっと言っとくね。本当は自分たちの仲間のことを悪く言うのは嫌なんだけど、アンタのことは気に入ってるし、ぴい子には、去年、ずいぶん楽しませてもらったから。」


高橋先輩も、陽菜子の味方なのか。

それだけで、高橋先輩の信用度が大幅にアップ。


でも、 “自分たちの仲間” って・・・?


「早瀬くん、よく朱莉(あかり)と話してるけど、彼女には気をつけた方がいいよ。」


田所先輩のこと?

陽菜子と同じクラスで、いつも陽菜子の様子を話してくれるけど。


「気をつけるって・・・?」


「なんていうか、わがままなところがあって、それに他人を巻き込むんだよね。前に、部内でもめた原因になったこともあるんだよ。」


そう言われても、よくわからない。


「要するに、朱莉に近付かれたら、自分が利用されていないか、よく考えた方がいいってこと。大丈夫だと思うならそれでいいよ。」


「・・・はい。ありがとうございます。」


「じゃあ、先に部活に行くね。部長には言っとくから、ごゆっくり。」


そう言って軽く手を振ると、高橋先輩は笹本先輩にひとこと声をかけて行ってしまった。


田所先輩についての忠告が気になる・・・。

もしかしたら、俺も利用されているのか?


少し離れたところで俺を待っていた笹本先輩が戻って来て教室を覗く。


「教室がからっぽになったから、ここで話そうか。」


そうだった。

今は笹本先輩と・・・。








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