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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第七章 茜
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吉野先輩、変ですよ?(5)



冷蔵庫売り場で笹本先輩と二人。

プラネタリウムでのことを思い出して、ちょっと落ち着かない。


「うちは去年、壊れて買い換えました。」


「そうなんだ? うちも買い換えの話があって、母親からカタログと値段調べを頼まれてて。」


え? お母さんに頼まれた?

じゃあ、吉野先輩を探しに来たわけでは・・・。


「茜ちゃんの家の冷蔵庫はどこのメーカー? 使いやすい?」


カタログを見ながら笹本先輩が質問する。


そうだ。

周りに人がたくさんいるんだし、こんなところで何かあるわけないか。

それにプラネタリウムでのことは、先輩がちょっとふざけただけだもんね。


「どこのって訊かれても・・・。たしか、氷が自動的にできるやつで、素早く冷凍ができる機能がついてたと思いますけど・・・。」


冷蔵庫のメーカーなんて、全然考えたことないよ。


「うーーーん。みんな同じに見えるな・・・。」


デジタル機器には強い笹本先輩も、冷蔵庫の違いはよくわからないらしい。

カタログでは除菌機能とか、容積とか、取り出しやすい工夫とかうたってあるけど、現物を見ると、扉の開け方が一番重要な感じがする。


先輩のいつもと変わらない態度にほっとして、一緒に冷蔵庫の扉を順番に開けてみる。


「先輩! この棚、まわりますよ。ほら。」


びっくりして、ちょっとテンションがあがる。

うちの冷蔵庫にも、何か仕掛けがあるのかな?


左右どちらにも開く扉があったり、冷蔵と冷凍を切り替えられる引き出しがあったりする。

中には長ネギやゴボウみたいな長いものを入れる場所がついている製品やワイン専用の冷蔵庫もあって、妙に感心してしまった。

吉野先輩が面白がっていた理由がわかる。


「何リットルくらいの冷蔵庫をお探しですか?」


女性の店員さんがにこやかに声をかけてくる。


「今日は下見なんですけど。」


と、笹本先輩はことわってから、カタログを指差しながら製品の説明を聞いている。ときどき値段をメモして。

あたしはその横でもう一台、冷蔵庫の扉を開けて中をのぞく。


何を入れる?

牛乳に、卵に、アイスクリーム、それからケーキ。あとは・・・。


「奥様は背が高くていらっしゃるから、このくらいの高さでも十分に届きますよ。」


へえ。

この店員さん、笹本先輩のお母さんのこと知ってるんだ・・・。


「え? あ、あの、違います。俺たちは、あの・・・。」


ん?

笹本先輩のおろおろした声?

それに、 “俺たち”・・・?


・・・あれ?


もしかして、勘違いされた?!


「い・・・行こう、茜ちゃん。」


驚いて冷蔵庫の扉から顔を出したあたしの腕をとって、笹本先輩が大股でその場所から離れる。

引っぱられるように隣を歩きながら、そうっと先輩を見たら、先輩は真っ赤な顔をしていた。


笹本先輩が慌ててる?!

こんな先輩、初めて見た!


店員さんに誤解された驚きよりも、笹本先輩の様子に笑い出しそうになって、慌てて横を向く。


先輩と夫婦に見えた? 新婚さん、とか?


お似合いだったかな・・・?


やだ。

あたしったら、何を考えてるんだろう?





「ああ! 恥ずかしい!」


冷蔵庫売り場から遠ざかったところで、笹本先輩があたしの腕を離して、両手を頬にあててつぶやく。

まだ赤い顔をしている。


いつも落ち着いてい大人っぽい先輩が、こんなに動揺してるなんて。

ちょっと、かわいいな。

もしかして、あたしだけしか知らない先輩の一面?


「勘違いされちゃってごめん。それにしても、いきなりあんなこと・・・。」


先輩、ずいぶんショックだったみたい。

あたしと顔を合わせることができないらしい。


あたしの方が、よっぽど落ち着いてる。

いつもは逆なのに・・・。



ため息をついている先輩を見ているのが気の毒になって、周囲へ視線をめぐらす。


台所用の電気製品の売り場の前。

大型のオーブンにミキサー、食器洗い機・・・。

派手なポップが飾られているのは炊飯器だ。


先輩から離れて端から順番に見てみる。


『7段圧力』『土鍋炊き』『三重構造』・・・?


冷蔵庫に劣らずいろいろあるな。


ひとつずつ蓋を開けてみる。

スイッチ一つで開くものもあれば、握って開けるものもある。


・・・これ、どうやって開けるのかな?


「先輩、先輩。これ、どうやったら開くんでしょうね?」


笹本先輩を呼んでみる。

さっきのことを忘れるためにも、ほかのことを考えた方がいい。


「え?」


まだ少しぼんやりとしながらも、先輩があたしの隣までやって来る。


「ああ、きっと・・・、」


「ご家族お二人でしたら、そちらの3合炊きでよろしいかと思いますよ。」


「?」


若い男の人の声に驚いて横を見ると、黒いベスト姿の店員さんがにこにこ笑ってる。



“ご家族お二人” ?



笹本先輩と顔を見合わせる。



あたしと、笹本先輩で、二人?


・・・また、間違えられた?



笹本先輩の顔がみるみる赤くなる。


あらら。


「あの、今日は見に来ただけなので。」


今度はあたしが言い訳をして、笹本先輩の腕を引っぱる。

先輩は力なくよろめきながらついてくるだけ。


なんだか、可笑しい!

2度も!


先輩を引っぱって歩きながら、笑いがこみ上げてきた。

だって・・・、だって!




自販機コーナーのベンチに先輩を座らせて、冷たいコーヒーとりんごジュースを買った。


笹本先輩の面倒を、あたしがみているなんて!

やっぱり可笑しい!


「どっちがいいですか?」


飲み物を差し出すと、先輩はぼんやりとあたしを見上げてから、りんごジュースを手に取った。


「ありがとう。」


手にしたペットボトルをちょっと見つめて、それを額に当てて、目をつぶる。

まだ目元が少し赤い。


「ごめん。ちょっと、びっくりしちゃって。あんなこと言われるの、慣れてないから。」


そりゃあ、高校生で夫婦と間違えられることって、めったにないでしょうね。


だけど。


いつもは、あたしの方が慌ててるのに。

先輩はそんなあたしのことを気付いてるのか、気付いていないのか、いつもにこにこしているだけで。

今は先輩が気が動転してるっていうことにも驚いてるけど、自分が意外に落ち着いていることに感心してしまう。

もしかしたら、先輩を守ってあげなくちゃいけないような気がするのかもしれない。


母性本能?


うん。

たしかに可愛いよね。


・・・あの笹本先輩が?


笑いをこらえようとしても、あふれ出てしまう。

笹本先輩から見えないように下を向くけど、きっとバレバレだ。


先輩が隣で大きな深呼吸。


「よし。」


あ、復活しました?


「そろそろ集合時間だけど、茜ちゃんは何か見たいものはあった?」


おお!

そんな気遣いも、本当にいつも通りですね!

その笑顔も。


「いいえ。あたしはべつに・・・、」


と言いったところで、さっきの先輩の様子が頭によみがえってきて、思わず笑い出してしまった!


「あはははは! す、すみません。なんだか・・・。あははは・・・。」


笑いながらちらりと先輩を見ると、また赤い顔をして横を向いてしまった。


本当に・・・ごめんなさい。








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