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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第七章 茜
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吉野先輩、変ですよ?(4)



ファミレスでお昼を食べているあいだも、吉野先輩はなんとなく考え込んでいた。

みんなと普通に話しているし、奈々やあたしにもいつも通り優しい。

でも。

やっぱり、ちょっと不満そうな感じ。

笹本先輩の方をちらちらと見て。


なんだろう?


笹本先輩は通路をはさんだテーブルに、ミュウたちに囲まれて座っている。

いつも通りの笑顔で冗談を言ったりして。


吉野先輩、笹本先輩のことを怒ってるのかな?




駅の改札口で買い出しの場所を確認すると、あたしたちのグループだけが違う方向だった。

みんなと別れて、6人でホームに降りる。

あたしたちが行く電機屋さんは、吉野先輩が合流した駅の近く。

広いフロア3階分の売り場があって、品ぞろえが豊富らしい。



電車に乗るころには吉野先輩は元気になっていた。

笹本先輩とも普通に話している。


「迷子にならないでくれよ。」


笑いながら、笹本先輩が吉野先輩に言う。


笹本先輩が吉野先輩に話しかけるとき、いつもドキッとしてしまう。

だって・・・あんまりやさしい言い方だから。


「あたしのことは気にしないで。今年はまーちゃんがいるから。それよりも1年生に、いろんなものの選び方をちゃんと教えてあげてね。」


吉野先輩も笑って答える。

笹本先輩のやさしい忠告は、吉野先輩にとってはいつものこと。

当たり前すぎて気付かない。


そういえば、3年生はもうすぐ引退なんだ・・・。




お店に着いて、売り場を確認。

デジカメやパソコン用品は最上階。


エスカレーターで上に向かう途中、吉野先輩は通り過ぎる売り場をながめながらにこにこしている。

長谷川先輩に話しかける声が楽しそうで、早口だ。

大型家電も、日用品も、デジタル機器も、とにかく種類がたくさんある。


「あとで見に来ようね♪」


と、あたしたちにもささやく。


吉野先輩って、本当に気分がそのまま態度に出てしまう。

やっぱり、さっきは機嫌が悪かったんだよね・・・。



笹本先輩が矢野くんと奈々とあたしに説明をしながら、デジカメの性能や付属品をあれこれ検討する。

吉野先輩と長谷川先輩はときどきやって来ては、「これは使いやすい」とか「重い」とかコメントしていく。(それ以外のときは、自分たちで勝手に見ている。)

一見、機械類が苦手そうな吉野先輩でも、あたしにはわからない言葉を使って笹本先輩と話す。

あたしたちも、2年後にはこのくらいは分かるようになるのかな?


候補をいくつか決めて、次はプリンタの売り場へ。

今日は買わないけど、天文部にあるのはだいぶ古い機種なのだそうで、買い換えのための下見をする。

吉野先輩と長谷川先輩は途中で面白そうなものを見つけたらしくて、プリンタ売り場に着いた時にはいなかった。


そこでも笹本先輩があたしたち1年生に、機種の特徴を説明してくれる。

お店の人が近寄って来ないくらい詳しいみたい。


プリンタのカタログをいくつも持って、買い物リストの商品を選んでレジへ。


「ぴいちゃん、来てない?」


お金を払ったところで長谷川先輩が合流。


「いいえ。先輩とご一緒じゃなかったんですか?」


「途中でトイレに行くって言って別れたんだけど、そのあとは電話にも気付かないみたいで。」


「大丈夫だよ。この建物から出ちゃってるってことはないから。」


笹本先輩、笑ってる。

さすがに慣れてますね。


「じゃあ、しばらく自由時間にしよう。ぴいちゃんはそのうち誰かが見つけるだろうから。3時半に1階の出入口に集合ね。」


きびきびと手順を決めて、笹本先輩はさっさと一人で歩き出す。


やっぱり、吉野先輩を探しに行くのかな・・・?

学校以外で吉野先輩と二人きりになれる、めったにないチャンスだもんね。


長谷川先輩も「じゃあ、あとでね。」と手を振って行ってしまった。

矢野くんはパソコン売り場に向かって。


「あーちゃん。あたしたちも行くよ。」


奈々が張り切ってる。


「何か見たいものがあるの?」


と尋ねるあたしに、奈々がため息をつく。


「何言ってるの? 笹本先輩より先に吉野先輩を見つけなくちゃいけないんじゃないの?」


あ。

そうだった。

あたしったら、また忘れてる。


「うん、行こう。」


あたしたちは、吉野先輩を守るんだから。




吉野先輩は家電売り場で見つかった。

向かい合わせにずらっと並んだ冷蔵庫の扉を片っ端から開けている。

そんなに楽しいのかな・・・?


「あれ? そんなに時間が経ってた?」


トイレに行った帰りにその階で立ち止まって、そのまま夢中になっていたらしい。

驚いた顔でそう言ったあと、


「ねえ、見て見て、これ!」


と、奈々とあたしの腕を引っぱって、1台の冷蔵庫の前に連れていく。


「ちょっと開けてみてよ。」


うふふ、と楽しそうに笑う吉野先輩。

こんな様子を見たら、誰も先輩に文句を言えなくなっちゃうよね。


先輩が示した冷蔵庫には特に変わったところはない。

大きいけど。


上の段は観音開きの冷蔵室、下には引き出しの冷凍室と野菜室。


まずは上の段の左側。

野菜のおもちゃが転がっているだけ。


よくわからなくて吉野先輩を見ると、「となり。」とにこにこして言う。


右の扉?


「うわ?! ペンギン?!」


30cmくらいの高さのペンギンのぬいぐるみ。

本物みたいな色使いで、大きさもそれなりにあるし。

わざわざ棚を抜いて、ペンギンを立てて入れてある。

南極の涼しさ・・・?


これをここに入れた人のユーモアのセンスに思わず笑ってしまう。


「ね? 面白いでしょう? かわいいし。」


吉野先輩は得意気な顔。


「あれ? ここにいたのか。」


「あ、笹本くん。」


うしろの冷蔵庫のあいだから、笹本先輩が登場。

やっぱり吉野先輩のことを探していたんだ。

だって、笹本先輩が冷蔵庫に用事があるわけないもの。わざわざこんなところに来たってことは、・・・だよね。


「ごめんなさい。勝手に歩き回ってて、何もお手伝いしなかったね。」


言葉は申し訳なさそうだけど、吉野先輩の表情はいたずらっ子みたい。

笹本先輩が怒らないってわかってる?

そういうのって、やっぱり普通の関係じゃないよね?


「いいよ。」と微笑む笹本先輩に、吉野先輩がさっきの冷蔵庫を指差す。


「ねえ、これ。開けてみて。」


吉野先輩って、人が驚くところを見るのが好きなんだ。

あんなに楽しそうな顔して。

・・・まあ、あたしたちも笹本先輩がどんな顔をするのか楽しみだけど。


くすくす笑う吉野先輩とあたしたちに首を傾げながら、笹本先輩がその冷蔵庫を開ける。


「わ。なんだこれ?」


「あれ? 以外に冷静。」


残念そうな吉野先輩の声に、奈々とあたしはまた笑う。

笹本先輩は、そんなあたしたちの様子にあきれたように微笑んだ。


「ほかには面白いものはなかったんですか?」


奈々がうきうきと吉野先輩に訊くと、吉野先輩は奈々を引き連れて冷蔵庫巡りを再開した。

奈々ったら、うまく吉野先輩を笹本先輩から引き離したな・・・。


あれ。

ってことは、もしかして・・・。


「茜ちゃんの家の冷蔵庫は新しい?」


うしろからの声に恐るおそる振り返ると、笹本先輩が冷蔵庫のカタログを見ていた。


ああ、やっぱり。

先輩と二人きり?


午前中のことを思い出しちゃう。

恥ずかしい!

ぼんやりしてないで、奈々と一緒に行けばよかった。


急いで見回したけど、どういうわけか、二人とももう見えない・・・。


どうしよう?!








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