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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第七章 茜
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吉野先輩、変ですよ?(2)



5月13日、日曜日。

天文部でプラネタリウムの見学&買い出し。


奈々とバスの時間を合わせて、集合場所である駅へと向かう。

吉野先輩は途中の駅で合流する予定。



きのう、奈々が今日の服装を相談しに家に来た。

あたしの服装じゃなくて、自分の。

ずいぶん気合いが入ってるな、と感心していたら、どうやら真琴に対抗意識を持っているらしい。


「べつに、男子部員に好かれたいわけじゃなくて、自分のプライドの問題。」


なのだそうだ。

でも、少しは笹本先輩に感心してほしいって思ってるんじゃないかな。


奈々は、真悟くんとは今でもメールのやりとりをしているみたい。

あたしと真悟くんのことには気付かなかったようで、ほっとしている。


奈々は、大きな袋2つ分も服を持って来た。

そんなに大荷物を持って来ないで、あたしが奈々の家に行けばいいと思うんだけど、あたしたちの間では、奈々がうちに来ることが圧倒的に多い。

奈々は部屋が妹と共有だし、うちのママがのんきな性格だっていう理由で。

べつに奈々のお母さんが恐い人だというわけではないけど。


あたしの部屋で、床とベッドの上いっぱいに持って来た服を広げ、鏡の前で何度もコーディネートを試したあとに、奈々はカーキ色のショートパンツと白いTシャツ、その上に細かい花柄のひらひらしたキャミソールに決めた。涼しいときのためにカーディガンを持っていくと言って。

女の子っぽくて、元気な奈々にピッタリ。


ついでだからとあたしの服も見てくれたけど、あたしは奈々みたいな可愛い服は持っていない。

結局、デニムのスカートにゆったりしたグレーの透かし編みのセーターに落ち着いた。セーターの中にはタンクトップで。



駅で集まってみると、たしかに私服姿の男の子たちは学校とは違う。

でも、男の子は同じようなコーディネートが多くて、ジーパンにタータンチェックのシャツを羽織っている人が半分くらい。あとはTシャツの重ね着とか。

後ろ姿だと、見分けがつかないような感じ。


笹本先輩は黒のジーパンと白いTシャツの上に水色の無地のシャツを着ていた。

それが・・・予想外にかっこいい、みたい。

制服だと真面目なところが強調されて、メガネの効果もあって、秀才そのものって感じなんだけど、今日は思いがけない男っぽさみたいなものがある。

ポケットに手を突っ込んでリラックスして立っている姿がいつもよりもっと大人っぽくて。

透明なフレームのメガネは普段でもやさしい印象だけど、今日はちょっと・・・なんとなく、話しかけにくいかも・・・。


長谷川先輩・・・ロングスカート?!

いつもサバサバした話し方だから、なんとなく私服はパンツ派かと思ってた・・・。

ギャザーがたっぷりの茶色のスカートにニットのベストを重ねて。

1年の男の子たちが、はにかみながらやって来てはちょっとずつ話していく。


ミュウたちもそれぞれに個性重視の着こなしで華やか。

笹本先輩のまわりに群がって楽しそう。

笹本先輩はその意味に気付いてるのかな・・・?




30人近くで電車で出かけるって、まるで遠足みたい。

あんまり集団になってしまうと目立つからと、電車に乗るときには適当にバラける。

奈々とあたしは2年の先輩たちと話しながら。


後ろの方で、真琴とミュウが笹本先輩と話しているのが聞こえる。

女子2人の甲高い声に、笹本先輩の落ち着いた弦楽器の声が混じる。


あの声は好きだな・・・。


初日に思ったとおり、笹本先輩の声はすぐにわかる。

ゆったりした声と、歯切れのいい話し方。

あの声でよく呼ぶ名前は・・・「ぴいちゃん」だ。




2回目の乗り換え駅で吉野先輩が合流。


「二人ともかわいいね!」


会ってすぐに、先輩があたしたちの服装を褒めてくれる。


「あたしは背が低いから、なかなかかっこよく服が着られないの。」


と、残念そうに言う。

全然そんなことないのに。


今日の吉野先輩は、ジーパンにラベンダー色のギンガムチェックのシャツ。長袖シャツの袖をめくって。

胸から下はボタンを閉めて、胸元には紺のインナーをのぞかせている。きりっとした雰囲気。

シャツはウェスト部分が絞ってあって、女の子らしいシルエット。

肩からななめにかけたキャンバス地のバッグがかわいらしい。

それに、きれいなラベンダー色は吉野先輩によく似合ってる。


奈々とあたしが吉野先輩を褒めると、


「この色は好きなの。」


と、ちょっと赤くなって、小さな声で言った。

どうして色の話くらいで恥ずかしがっているのかよくわからないけど。


「でもね、背が低いっていうのは、決定的な違いがあるんだよ。」


すぐに立ち直った吉野先輩が続ける。


「前にね、茜ちゃんがはいてるみたいなスカートを試着したことがあるの。初めは、ひざ丈くらいで悪くないかなって思ったんだけど、隣の試着室から同じスカートを試着した人が出てきてね、その人がはいてるのを見たら、ミニスカートだったんだよ。」


あらら。


「茜ちゃんみたいに脚が長くてかっこよくてね。あたしはもう大急ぎでそのスカートはお返ししてきたの。あれは本当にショックだった・・・。」


そうか。

やっぱり背が高いって得なんだね!

嬉しくなっちゃう。


「長谷川先輩がスカートっていうのは予想外でした。」


奈々がしみじみと言うと、吉野先輩が笑った。


「まーちゃんは、私服は女の子らしいのが多いよ。もともとそういうタイプなんだから。」


もともとそういうタイプ?


奈々とあたしが不思議そうな顔をするのを見て、吉野先輩が説明してくれた。


「まーちゃんは中学までは普通に女の子らしかったんだよ。でもね、可愛くて女の子らしいから男の子にモテすぎちゃって、中2の途中で変えることにしたの。」


「モテすぎて、ですか?!」


「うん。まあ、それだけじゃなくて、まーちゃんもちょっといじめに遭ったんだけど。」


え?


「あのう・・・、 “も” っていうのは、もしかして吉野先輩も・・・?」


「あれ? それを言うつもりじゃなかったのに。」


そう言って、吉野先輩は屈託なく笑った。

いじめられても、今はそんなふうに笑えるのか・・・。

先輩たちお二人とも、強いな・・・。


「まあ、あたしもちょっとね。理由は違うけど。・・・でね、まーちゃんはとにかく『可愛く見えないように、それと、女の子らしく見えないようにする!』って宣言して、髪をショートカットにして、メガネをかけることにしたの。メガネは鬱陶しいから嫌いって言ってたのに。それほど嫌な思いをしたんだよ。」


モテるのって羨ましいと思ってたけど、けっこう大変なんだ・・・。


「見た目だけじゃなくて、話し方もあんなふうに変えてね。見た目で勝手に判断されたくないって言って。あのころは中学生だったから、けっこう極端な考え方をしていたと思うけどね。」


なんだか、可愛くとか綺麗に見せようとしている自分が情けなくなってくる。


「だけど、それをすぐに見破ったのが、あたしたちの1つ上の田中先輩でね。」


吉野先輩は楽しそうにくすくす笑う。


「あたしたちが天文部に入ってすぐから、まーちゃんには特に優しくてね。まーちゃんがどんなに男の子っぽく振る舞っても、優しい目で見守ってたよ。よく、『無理するなよ。』って言ってね。その先輩が、今はまーちゃんの彼氏。」


「田中先輩の話?」


うしろから弦楽器の声。


「あれ、笹本くん。聞こえてた?」


「最後の方だけだけど。」


話しながら、吉野先輩の隣の吊り革に笹本先輩が移動してくる。


二人並んでいる先輩たちは落ち着いてて大人っぽくて、吉野先輩の隣にいる奈々とあたしが場違いに感じてしまう。

4人で話しているのに・・・笹本先輩も吉野先輩も、奈々やあたしにもちゃんと話しかけてくれているのに、先輩たちの会話に入れないような気がしてしまうのは、なぜ?


2年間の積み重ねって、そんなに大きいの?

笹本先輩は吉野先輩のこと、どれくらい好きなの?

吉野先輩にとって、笹本先輩はどんな存在なの?


会話にはちゃんと参加しているのに、心ではそんなことを考えている自分がいる。


自分たちが1年のころの思い出をあたしたちに話しながら、ときどき顔を見合わせる吉野先輩と笹本先輩。

一緒の思い出を語り合って、笑う。

あたしと奈々は、そこにはいない。



ちらり、と視線?



吉野先輩?

一瞬で、逸らされた?


なんだろう?

何か、意味ありげな・・・。

なんだか・・・変。








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