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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第六章 響希
37/95

陽菜子の彼氏なんて、認めない!(3)



夜。

一人でいろんなことを考える。


真悟の家族が隣に住んでいた去年の春までは、一人の時間はもっと少なかった。

親がいなくても、真悟の家にずっと居られたから。


真悟たちが引っ越して、あの3人は知らない場所で、知らない人たちの間で暮らすことになったけど、一番さびしかったのはたぶん俺だ。

家族が半分以上いなくなったのと同じだったから。

前は、自分の家にいるときにも、真悟たちが笑ったり、ケンカしたりしている声が聞こえてきたのに。

窓を開けて呼べば、誰かが答えてくれたのに。


学校でもいつも真悟と一緒だったから、真悟がいなくなったら、自分が半分になったような気がした。

もちろん友達はいたけど、真悟のいなくなった場所を埋められるヤツなんていない。

それに・・・。

学校でのできごとを聞いて、笑ったり、説教したりしてくれていた陽菜子もいなくなった。



でも、4月から陽菜子には毎日会える!

そう思って、一年間、我慢してきた。


だから、簡単にあきらめたりしない。




・・・電話だ。

真悟?


「もしもし。」


『響希、元気?』


俺に元気かと訊いているのに、真悟の声には元気がない。


「・・・お前、疲れてるみたいだぞ。」


『え? そう? ・・・うん、疲れてるかも。』


「部活か?」


『ああ・・・それもあるけど、別な方。』


「何かあったのか?」


『うん・・・。彼女が。』


彼女?


「藤野茜のことか?」


『そう。断られた。今。』


え? 今?


「今? 言ったのか?」


今日の昼間、ダメだって言ってたぞ!


『うん。もたもたしてても仕方ないと思って、電話したら、無理だって言われた。』


「理由は? 聞いたか?」


『訊いたけど、『合わないと思う。』って、それだけ。』


さすがに本人に向かって、子供っぽいとは言わないか。


「そうか・・・。」


なんて言っていいかわからなくてため息をついたら、真悟とハモった。

何か別の話題を・・・。


そうだ。


「今日、陽菜子のボディガードに会った。」


そう口に出したとたん、可笑しくて笑いがこみ上げて来た!

真悟の落ち込む話のすぐあとなのに。


『ボディガード? 陽菜子にボディガードがいるのか?』


「そう。野球部のでっかい先輩が・・・あははは! 俺のこと『何やってんだ、このガキ!』って怒って・・・・はははは!」


『お前、何やったんだよ?』


真悟がため息をつきながら尋ねる。


「いつものだよ! 帰りに昇降口で待ち伏せして、陽菜子に抱きついたんだ。一緒にいるのは藤野先輩だと思って、それなら平気だと思ったのに、いきなり襟を掴まれて引き剥がされた。びっくりしたぜ! あっはははは!」


なんだろう?

こんなに可笑しいなんて。


「それで、説教された。」


『そのボディガードにか? その割には、ものすごく楽しそうだけど?』


「なんでかな? あんまりびっくりしたからかな?」


本当に、なんでだ?


「・・・なあ、真悟。水泳部の先輩って、どんな感じ?」


『水泳部の?』


「うん。」


『厳しいぜ。練習中はしょっちゅう怒鳴られてる。』


「そういうの、平気か? お前、他人に指図されるの嫌いだろ?」


『そうだな・・・、最初のころは腹が立ったよ。 “何でそんなに怒鳴るんだ!” 、 “お前ら、そんなに偉いのか!” って。でも、今はあんまり気にならないな。嫌がらせでやってるわけじゃないって分かったから。練習のとき以外は笑って話したりするし、けっこう気を遣ってくれたりもするしな。』


嫌がらせじゃない・・・。

そうなのか・・・。


『響希。なんで、そんなこと訊く?』


「・・・うん。今、真悟の話を聞いてわかった。」


『何が?』


「俺たち、中学のときに男の先輩と付き合いがなかったじゃないか。」


『まあ、俺は部活に入ってなかったからな。でも、響希は』


「吹奏楽部の男の先輩なんて、女子に押されて全然存在感なかったよ。男同士で話したこともなかったし。」


『ふうん。』


「俺、今日、初めて男の先輩に怒鳴られて、びっくりしたんだ。初対面の相手に説教されたのも初めてで。なのに、全然腹が立たなくて、どうしてだろうって思った。」


腹が立たないどころか、素直に返事をしちゃったよ。


『お前が説教されて、何も言い返さなかったのか?』


「そう。」


『信じられないな。響希なのに。』


「だろ? 驚いてたってこともあるんだけど、きっと、その先輩が嫌がらせで言ってたわけじゃないからだ。真悟の話を聞くまではっきりとは分からなかったけど。」


『何て言われたんだ?』


「『男なら、相手の気持ちを考えろ。自分勝手な押し付けなんかするな。』って。」


『“相手の気持ち” ・・・。ふうん。』


「俺、今日、藤野茜に “子供っぽい” って言われて。」


真悟のことだというのは黙っておいてやろう。


『え?』


「その先輩にも “大人げない” って言われたんだ。」


『・・・そうか。』


「よく考えたら、俺も真悟も、親以外の年上の男が近くにいなかっただろう? だから、いいにしろ悪いにしろ、お手本がいなくて、自分が一人前だって思い込んでいたのかも知れないなあ、なんて思って。」


『お手本?』


「お手本、っていうより見本?」


『ああ、なるほど。水泳部の先輩のことを思い出すとわかる。あの先輩、かっこいいな、とか。逆もあるけど。』


「そうそう。いろんな先輩を見て、俺たち、もっとレベルアップしなくちゃダメなんだ。」


『レベルアップか・・・。その先輩は響希にとって、いい見本なのか?』


「うーん・・・。あんなにきっぱり陽菜子を守ってるのはすごいな。行動力にあふれてるって感じで。藤野先輩はどっちかっていうと見守るタイプだから。」


『それに、怒鳴られたのが新鮮だった?』


真悟が笑う。


「そりゃそうだよ! いきなりだぜ! だけど、説教された内容よりも、その先輩が俺に説教したってことの方が、なんていうか・・・楽しいような気がして。男の先輩って、こういう感じなのかって。」


『初対面で、ずいぶん気に入ったんだな。どんな人なんだ?』


「体が大きくて、声も大きくて、力が強い。」


『なんだか金太郎みたい。』


「超美人の彼女がいる。」


『へえ。』


「しかも、その彼女から『みーくん』とか呼ばれてるんだぜ!」


『全然、イメージが湧かない。』


「で、陽菜子のことを『ぴいちゃん』って呼んでて。」


『女に弱いとか?』


「どうかな? もしかしたら、そうかも。」


『陽菜子は? そこにいたんだろう?』


「陽菜子は大笑いしてたよ。俺があんまりびっくりしてたから。藤野先輩はこらえててくれたけど。」


そうだった。

それから、肩をたたいてくれたんだ。ニヤッと笑って。


『響希、楽しそう。』


「そうか?」


『うん。なんだか、ほっとした。』


「どうして。」


『お前、いつも、 “俺は誰にも頼らない” みたいに見えたから。俺たちが引っ越してから。』


そのとおりだ。

ずっと、そう思って来たよ。


『でも、その先輩・・・。』


「岡田先輩。」


『うん、その岡田先輩のこと、頼りにできそうって思ってるんだろ?』


頼りに・・・?


「うん、そうだな。そう思う。陽菜子も信用してるみたいだから。」


『じゃあ、いざとなったら、その岡田先輩に相談することもできるだろう? 陽菜子に言えないことでも。』


「まだわからないよ。たった一回話しただけだから。」


『それにさ、響希。』


「なに?」


『お前、さっきから『藤野先輩』って言ってるよ。前は、『あいつ』だったのに!』


!!


「そ、それは、陽菜子がそう呼べって言うから。」


『わかったわかった。そういうことにしておこうぜ! あははは!』




それから俺たちは、先輩たちの話をしながら、男としてレベルアップするために何が必要かをあれこれ話し合った。

電話を切るころには、真悟は失恋のショックから立ち直っていたし、俺はN高で居場所を見つけたような気がしていた。


―― 居場所。


クラスや部活には、もちろん友達はいるけど。

もっと違う・・・何か、安心感みたいなもの?


岡田先輩も、藤野先輩も、たぶん長谷川先輩も、俺のことを嫌ってなんかいない。

陽菜子はいつも、俺のことを気にかけてくれている。

みんな俺に説教するけど・・・藤野先輩はたまに迷惑そうな顔もするけど、俺を拒否したり、無視したりしない。

俺がそこにいることを認めてくれている。

それに、説教するってことは、俺のことを気にかけてくれているからだ。

だって、関心がなければ、放っておけばいいんだから。


なんだか、照れくさいな。

真悟の家族以外に気にかけてもらえるなんて、考えてもみなかった。

それがこんなに・・・嬉しいなんて。



でも、だからといって、藤野先輩を陽菜子の彼氏だと認めるわけにはいかないけどね!








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