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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第六章 響希
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陽菜子の彼氏なんて、認めない!(2)



4人で来ているショッピングセンターは、周りに遊べる施設もあるし、ゴールデンウィーク中でものすごい人出だ。

どこも混んでいて休む場所もないし、女子が店を見るペースに合わせて歩きまわるのは面倒くさい。

午後も早い時間に、俺は疲れ切ってしまった。


一方、真悟は相変わらず元気いっぱい。

普段から運動をしてるからか?


いや、吹奏楽部もそれなりに走ったりしている。

これは、気持ちの違いだな。



それにしても・・・、けっこう難しい状況だ。


真悟のお気に入りは藤野茜だ。

でも、真悟に気があるのは窪田。

藤野茜は、窪田の付き添いで来ているだけ。

その態度もかなりはっきりしている。


真悟はそんなことは全然気にしていないようだけど。



「早瀬。ちょっといい?」


窪田と真悟が商品を眺めているあいだに、藤野茜に呼ばれた。


「なに?」


よく見ると、藤野先輩に目元が似ている。

そう気付いて、なんとなく弱気になる自分に戸惑う。


「真悟くんに、紹介してほしいって頼んだのは奈々だって言ってくれてある?」


小声でだけど、はっきりと言われた。

つまり、真悟の態度が迷惑だってことだよな。


「最初に言ったよ。」


だけど、真悟は気にしてない。


「そうなの?」


疑わしそうな目を向けられても、本当なんだから仕方ない。


藤野茜がため息をついた。


「ねえ。真悟くんが奈々を好きになるようにできないかな? あたし、困るよ。」


そんなこと・・・。


「好きになる気持ちを、簡単に止めることなんかできないよ。」


それができたら、誰も苦しまない。


俺の言葉を聞いて、藤野茜が驚いたように俺を見た。


「ごめん。・・・早瀬にこんなこと言っちゃいけなかったよね。」


なんだよ!

同情なんかするな!

俺はまだ、お前の兄貴に負けたわけじゃないんだからな!


窪田と真悟が店から出てきた。


真悟はさっさと藤野茜に話しかけに来て、藤野茜が適当にそれに合わせる。

どう見ても、真悟に望みはなさそう。

なのに、真悟は全然気にしてない。


それを見ているうちに、いつのまにか、真悟と自分が重なって見えた・・・。





ゴールデンウィーク明けの月曜日。


昼休みの終わり間際、席に戻ったときにふと思い付いて、藤野茜に尋ねてみる。


「なあ。真悟のどこがダメなんだ?」


「え?」


いきなりの質問に驚いた顔。

それから、 “当然でしょ” という顔をして。


「だって、奈々が真悟くんを好きなんだよ?」


「もし、そうじゃなかったら、OKなのか?」


俺の問いに、藤野茜が少し考える。


「・・・・・無理だね。」


「どうして?」


「だって、子供っぽいもん。」


子供っぽい?!


「真悟が?」


「うん。」


真悟が子供っぽい?

あいつはバイトも始めたし、いつも家の手伝いなんかもして、俺よりもずっとしっかりしてるのに!


「こっ、子供っぽいって、どんなところが?」


「そう言われると・・・、なんとなくだけど。」


「ふ・・・、ふうん。」


なんだか、ものすごくショックだ。

同級生の女子に、子供っぽいって言われるなんて・・・。


「ねえ、早瀬。あたしも訊いていい?」


「え?」


ちょっと、俺、まだ動揺から抜け出してないけど・・・?


「あのさあ、早瀬は吉野先輩のどこが好きなの?」


一気に頭がはっきりする。


「全部。」


言い切る俺に、感心したような視線を向ける藤野茜。

それを見たら何故か、ちゃんと説明しようという気になった。


「陽菜子はいつも誰かのために頑張るんだ。自分のことは後回しにして。だから、俺は陽菜子を助けたいんだ。陽菜子には俺がついてるって言いたいのに。」


しまった。

弱気な言葉が、つい・・・。



俺を頼りにしてほしい。


いつも、そう思ってる。

なのに、陽菜子は俺のことを弟扱いする。


それは、俺が子供っぽいからなのか?

同級生の女子からも言われるほど・・・?

(実際に言われたのは真悟だけど。)


「早瀬も真剣なんだね。」


「当たり前だろ?」


相手は陽菜子だぞ。

いい加減な気持ちでそばにいられる訳がない。


「人を好きになるって、覚悟が必要なんだね・・・。」


藤野茜がため息をつきながら言った。


そうだ。

誰かを好きになるのに、いい加減な気持ちなんてあるわけない。




放課後、部活に出る前に陽菜子に会いたくなった。

昼休みの藤野茜との会話での動揺が、今でもあとを引いている。

陽菜子の顔を見たら、きっと元気が出るはずだ。


でも、3年8組の教室に行ったら長谷川先輩がいる。

昇降口でつかまえるのがいいな。

今週のバイトの休みは木曜日って言ってたから、今日はすぐに帰るはず。



荷物を持って、大急ぎで昇降口へ降りる。

2か所の階段のどちらから陽菜子が降りてきても見えるように、昇降口の真ん中あたりの廊下で待機。


部活に入っていない生徒や運動部の生徒の波が通り過ぎる。

その集団が過ぎ去って、もしかしたら見落としてしまったかも・・・と落胆したところで、陽菜子の声が聞こえた。右側の階段だ!


声がするってことは一人じゃないんだ。

たぶん、藤野先輩だろう。

でも、気にするもんか!

藤野先輩は純情そうだから、陽菜子と抱き合ったことなんかないだろう。

いっぱいヤキモチ妬けばいいんだ!



階段から廊下に出て来たのが陽菜子だと確認してから走り寄る。


「陽菜子! 会いたかった!」


いつものとおり♪

陽菜子、大好き・・・うわ?!


「何やってんだ、このガキ!」


学生服の後ろ襟をむんずと掴まれて、陽菜子から引き剥がされた!



だっ、誰?!



振り向くと、体の大きな先輩が恐い顔で俺を睨んでる。

藤野先輩じゃない!


慌てて陽菜子の方を見たら・・・お腹を抱えて笑ってる?!

その後ろに、懸命に笑いをこらえようとしている藤野先輩・・・。


もう一度、俺をつかまえている先輩を見る。

怒ってる顔がやっぱり恐い・・・。


誰なんだよ?!

陽菜子のボディガードか?


「岡田くん、もういいよ。」


陽菜子が笑いながら言うと、大きな先輩がやっと俺を放してくれた。

俺は呆然として、その先輩を見上げるばかり。


「岡田くん、この子が響希だよ。あたしの弟みたいなものだから、よろしくね。」


岡田先輩・・・、陽菜子とはどういう関係?


「ちょうど今、響希の話をしてたところなんだよ。タイミングピッタリで現れるから・・・。」


そう言って、陽菜子がまた笑いだす。

今度は藤野先輩も、岡田先輩も。


俺、笑い物・・・?


「お前なあ、」


岡田先輩が笑うのをひと段落させて真面目な顔をすると、俺に向かって話し始める。


「人前であんなことやるなんて、大人げないぞ。」


・・・また、子供だって言われた。


「岡田がそれを言うのかよ?」


藤野先輩が小声で言うのが聞こえた。

何があったのか訊きたいけど、今の状況では・・・。


岡田先輩がちょっと藤野先輩を睨んで、また俺を見る。


「いいか。男なら、相手の気持ちを考えろ。自分勝手な押し付けなんかするな。」


相手の気持ち?

自分勝手な押し付け?


俺がやってるのは、そんなこと・・・?


岡田先輩の言葉が、心にジュッと焼きつくような気がする。


「・・・はい。」


俺は・・・。


ぽん、と肩をたたかれた。

ハッとして振り返ると、藤野先輩がニヤッと笑う。


「そんなに素直だと、早瀬じゃないみたいだ。」


それから髪をぐしゃぐしゃっとかき混ぜられて。


先輩。

じゃあ、俺、どんな顔をしてたらいいんですか?


「部活、急がなくていいの?」


陽菜子の声。


「うん、行くよ。じゃあな。気を付けて帰れよ。」


「またね〜、ぴいちゃん。」


岡田先輩?!

「ぴいちゃん」って呼ぶのか?

あんなに恐い顔してるのに?

・・・今は笑ってるけど。


「あ、いたいた! みーくん!」


きれいな声。

振り向いたら、声だけじゃなくて、姿もたおやかで綺麗な人。


「あれ、どうした、小暮?」


え?!

もしかして、「みーくん」っていうのは・・・岡田先輩?

あんなに大きくて恐い・・・いや、今の岡田先輩は全然恐くないや。


「岡田くんの彼女だよ。合唱部の小暮里緒さん。」


陽菜子が俺に説明してくれた・・・けど、2人の仲良しぶりをみれば、二人の関係は説明されなくてもはっきりわかる。

美女と野獣の組み合わせと言いたいところだけど、何故かすごくお似合いだ。


「響希も部活に行かなくていいの?」


陽菜子が俺の髪を直してくれながら言う。


「ああ、うん、行く。」


そうだった。

ちょっとびっくりすることが一度に起きたから・・・。


「トランペット、頑張ってね。」


笑顔の陽菜子にそう言われたら、落ち着かなかった気分がすっきりした。


「うん。じゃあ。」


これで、ほっぺにキスくらいしてもらえたら最高なんだけどな。








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