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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第六章 響希
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陽菜子の彼氏なんて、認めない!(1)



ゴールデンウィーク中の5月3日。

真悟と藤野茜、窪田、そして俺の4人で、海のそばのショッピングセンターに遊びに来ている。



本当は来たくなかった。

俺にとっては何の意味もないし、藤野茜を見ると、陽菜子とあいつのことを考えてしまうから。


だけど、真悟に来てくれないと困ると言われたら、断るわけにはいかない。

真悟は親友だから。

それに、真悟が俺に頼みごとをするのはめったにないことだ。

つまり、真悟にとって今回のことは、ものすごく大事なことなんだ。


そう頭の中で納得していても、藤野茜を見ると、穏やかな気持ちではいられない。




あいつ。 藤野青。



入学してから、あいつのことは何度も見かけた。

放課後に陽菜子と一緒にいるところも2、3回。

陽菜子はあいつの隣で安心した顔をしていた。

学校であんな顔をしている陽菜子を見たことがショックだった。


中学のとき、いつも他人の目を恐れていた陽菜子。

その陽菜子に笑顔を取り戻させるのは、俺だったはずなのに。

俺の隣だけが、陽菜子が安心できる場所になるはずだったのに。



陽菜子と俺。

2年の差。



陽菜子はいつも2年先にいる。

追い付きたくて、子ども扱いされたくなくて、陽菜子と同じレベルで話ができるように努力した。

陽菜子が好きだと言った本も読んだ・・・・よく理解できない部分もあったけど。


だけど、時間の経過は誰にでも平等。

俺が進んだ分、陽菜子も進む。


俺が、あと2年早く生まれていれば!

そうだったら、陽菜子と一緒に大きくなって、いつも陽菜子の隣にいることができたのに!



藤野青 ―― 藤野先輩。


ただ2年早く生まれたからって、不公平だ。

俺は最初からずっと陽菜子の弟のままで、あいつは初めから同級生だなんて!


「ずるいじゃないか!」


そう言ってやりたい。

でも・・・。


あいつはずるい奴なんかじゃなかった・・・。




2週間以上前のこと。

藤野茜に、俺が陽菜子のことを自慢したことが原因で、天文部に何人もの生徒が陽菜子を見るために集まっている、と言われた。


まさか、そんなことになるとは思わなかった。


中学のときは、俺の邪魔をしようとする生徒なんていなかったから。

中2までは真悟と俺の、だ。

俺たちが興味をもっていることに関わったり、反対したりする生徒なんていなかった。

それくらい、真悟と俺は、中学では一目置かれていた。


だけど・・・高校ではそうじゃなかった。

だいたい人数だって違うし、いろんな学校からいろんな生徒が集まっている。

中学時代のことなんて、全然意味がなかった。


そんな簡単なことに気付かずに、俺は陽菜子の自慢をした。

話せば陽菜子に手を出そうとするヤツを牽制できると思ったし・・・違う。

本当は、陽菜子たちが引っ越してから一年ぶりに、陽菜子と毎日会えるようになって浮かれてたんだ。



“陽菜子を見るために何人も” ?


俺は何てことをしちゃったんだろう?

あんなに他人の目を恐がっていた陽菜子に。

「守る」なんて言いながら、俺がやったのはその逆のことだ。



居ても立ってもいられなくなって、部活が始まる前に急いで陽菜子のところに行った。


陽菜子にただ謝ることしかできなくて、思いっきりあやまって、顔をあげたら・・・・あいつがいた。



落ち込んでいた俺を見て、あいつが最初に言った言葉は「どうした?」だった。

馬鹿にしてるんじゃなく、心配そうに。


信じられないお人好しだ。

俺は陽菜子とあいつの邪魔をするつもりなのに。


事情を話したら、陽菜子が大丈夫だと言い、長谷川先輩もそう請け合ってくれた。

陽菜子に追い返されて教室に戻る途中で、あいつはわざわざ追いかけて来た。俺を安心させるために。


“俺のことなんか、心配してんじゃねえよ!”


って言いたかった。


どうしてだよ?!

俺はお前の敵なのに!

俺の失敗を利用して、俺を陽菜子から遠ざけようとしないのか?

しかも、陽菜子が辛いときには支えるって・・・、それは、俺が言いたかった言葉だ!


「お前が、もっとずるいヤツだったらよかったのに・・・。」


思わず口にした言葉。


お前の潔さが恨めしい。

お前の陽菜子の強さを信じる心が恨めしい。

お前のやさしさが恨めしい。


そんな俺に、あいつが言ったのは


「そんな男じゃ、吉野に相応しくないだろう?」


だった・・・。



“相応しい” ?



そんなこと、考えたことなかった。

ただ、守ればいいと思ってきた。



2年の差は、こんなに大きいのか?

俺は絶対に追い付くことができないのか?


あの日から考えはじめた。

陽菜子に相応しい男は、どういう男だろうって。




それから少しあとのこと。

吹奏楽部の先輩が、土曜日に陽菜子が来ていることを教えてくれた。

「帰っちゃうかもよ。」と言われて大急ぎで探しに行ったら、陽菜子とあいつが一緒に弁当を食べていた。


悔しくて、邪魔をしてやるつもりで、俺もそこに居座った。

あいつは俺の思惑どおり、迷惑そうな顔をした。



ほら、やっぱり悔しがってるじゃないか!

あんな偉そうなことを言ったって、俺と同じだ!


そう思えたのは、その日だけだった。



次の週、俺が自分の弁当を持って行ってみると、あいつはもう俺に迷惑そうな顔を向けなかった。

それどころか、俺にも当たり前に話しかけてくる。


内心は悔しがってるはずだと思おうとした。

だけど、そんな態度は一度も見せなかった。


そして・・・いつの間にか、俺も二人の仲間みたいに一緒に話して笑ってた。

その場の心地よさに何度もハッとして、また悔しくなった。



どうしてだよ?

俺のことなんか、全然気にしてないってことなのか?

それを見せつけるために、こうやって俺を受け入れてるのか?



でも。


陽菜子が信じてる相手だ。

陽菜子に笑顔を取り戻させた男だ。

それに。


それに・・・何だろう?



見れば見るほど、話せば話すほど、藤野先輩を嫌いになることが難しくなる。


嫌いでいたいのに。



部活の時間が近付いて、仕度があるからと陽菜子と俺を残して教室を出ていくとき、藤野先輩が言った。


「またな、早瀬。」


陽菜子が「またね、響希。」って言うのと同じ言い方だった。



“また来てもいいの?”



そんな言葉が頭をかすめた。


俺らしくない、そんな言葉。

誰かに自分の行動を尋ねるなんてこと、ずっとしていない。



藤野先輩と一緒にいると、俺が俺でなくなって行くような気がする・・・。




「響希。落としそうだぞ。」


真悟の声に慌てて手元に目をやると、手に持ったトレイが傾いていた。

行く先では、先に席に座っている窪田と藤野茜が、なにやら内緒話をしている。


「真悟、楽しいか?」


俺の問いに、真悟は目を輝かせて答えた。


「当たり前だろ?」


そうか。

それならよかった。


お前だけでも好きな相手と・・・。


“お前だけ” ?

それって、俺はダメだけど、ってことか?


いや、違う。


俺はあきらめてなんかいない!

まだ対決してもいないのに、あきらめたりするもんか!


それまで、藤野先輩を陽菜子の彼氏だなんて、絶対に認めたりしないからな!








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