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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第五章 藤野 青
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ぴいちゃんと俺(7)


公園から駅のあるショッピングセンターの建物に戻る途中で、何も言わずにぴいちゃんの手を取った。

ちょっと強引かな、と思ったけど。


だって・・・あんなに近くにぴいちゃんがいたあとに、自分の手がからっぽだということには耐えられない!


ぴいちゃんは驚いて立ち止まった。

そりゃそうだろう。

さっき、手をつなぐのは恥ずかしいって言ったんだから。

彼女は俺が納得したと思っていただろうし、あの時点では俺も納得したつもりだった。


だけど。



“だめだよ。離さない。”


目と手で彼女に伝える。



ぴいちゃんはつないだ手と俺の顔を交互に見て、あきらめたように微笑んだ。

ささっと俺の隣に並んで、小声でひとこと。


「トイレに行くときは離してね。」



結局、彼女が恥ずかしそうにしていたのはほんの5分くらいで、そのあとはすぐに元気になった。

小さい子がやるように、歩きながらつないだ手を前後に振ったり、今にもスキップでもしそうな足取りで歩いたりして、ずいぶん楽しそう。

ちょっとテンションが上がってる?

こんなに浮かれた様子のぴいちゃんを見るのは初めて!


「疲れない?」


と訊いたら、


「大丈夫。なんだか楽しいの。」


と、笑いながら答えた。


手をつないだ効果なのか?

はしゃいでいるぴいちゃんも、やっぱりかわいい。

それが俺と手をつないでいるせいだと思うと、嬉しくなってしまう。


「うわ。」


ショーウィンドウを見ながら、横向きにスキップするみたいに移動していたぴいちゃんが、自分の足に躓いた。

俺の手にしがみついて態勢を立て直した彼女に、思わず注意する。


「前向いて歩かないと危ないよ。」


そんな俺をぴいちゃんが笑った。


「ふふふ。まるでお父さんみたい。」


ぴいちゃんまで “お父さん” って言うのか?!

ひどいよ!




甘いものでも食べようかと話しながら歩いていたら、ぴいちゃんが突然立ち止まる。

何か見つけた?


「藤野くん、こっち!」


手を引っぱられて、すぐ前の雑貨屋へ。


「なに?」


ぴいちゃんは商品の間から、広い通路の反対側をじっと見てから指差した。


「あそこ。ねえ、あれ、真悟と響希だと思うんだけど。それに・・・。」


彼女の指す方を見ると・・・。

並んでいるキャラクターショップの前で足を止めている4人。


「茜?!」


一緒にいる奈々ちゃんの名前は口に出す前に止める。

ぴいちゃんは気にしないって言ったけど、わざわざ持ち出す必要はない。


どういう組み合わせだ?

真悟くんと早瀬に、奈々ちゃんと茜?

早瀬と茜は、あんまり仲良しじゃなかったはず。


「やっぱり。」


ぴいちゃんが頷きながら言う。

そういえば、驚いてないな。


「知ってたのか?」


無言でうなずくぴいちゃん。

恋愛関係には疎い彼女が、気付いていたことにびっくりだ。


「ほら。この前、電話で言いかけたことがあったでしょう?」


あったっけ?


「ああ。俺には言えないって言ってたこと?」


「うん、そう。あの日の朝、茜ちゃんと響希が話してるときに、あたしもその場にいたの。」


朝と早瀬といえば、あれか・・・。

その場に茜が居合わせたってことだな。


「茜ちゃんが『真悟くんは元気?』って響希に訊いて、ゴールデンウィークのことを話してたの。あのときの茜ちゃんは、その真悟くんはうちの真悟じゃないように聞かされていたみたいだったけど、響希と仲良しの真悟って言ったら、やっぱりうちのだよね。」


それから、何かを思い出したように笑う。


「真悟は偽名を使ってて、しかも、恥ずかしがり屋っていう設定らしいよ! きっと、あたしの弟だって知られたくないんだね! だけど、恥ずかしがり屋なんて・・・ふふふ。」


偽名? わざわざ?

しかも、性格まで偽るなんて、いったいどういうつもりなんだろう?


「ねえ、藤野くん。あの子たち、誰が誰を好きなんだろうね?」


ぴいちゃん、楽しそう。

すごくにこにこしてる。


俺も4人を観察。


うーん。

楽しそうなのは真悟くんと奈々ちゃんだ。

早瀬と茜の単調な歩き方とは違う。

ずっとしゃべってるみたいだし。


ってことは、真悟くんと奈々ちゃんが一組で、早瀬と茜は付き添い?

いや、待てよ。

早瀬と仲が良くないって言ってた茜が、今は普通に話してるじゃないか。

もしかして、意外に気が合うのかも・・・?


「真悟が気に入ってるのは、茜ちゃんだね。」


「え? そうか?」


「うん。茜ちゃんに話しかけたあとに微妙な顔をしてるもん。あれは、茜ちゃんが興味持ってくれないからってがっかりしてる顔だよ、きっと。」


さすが、姉だ。


「響希は付き添いっぽいね。奈々ちゃんは、間違いなく真悟だね。まさか、真悟を気に入る女の子がいるとは思わなかった。」


「ぴいちゃんはそう言うけど、真悟くんは女の子に人気がありそうだよ。」


「ダメだよ! 性格がわがままだもん!」


「それを言うなら茜も似たようなものだけど。」


「そんなことないよ。茜ちゃんはカワイイよ。・・・あれ? そういえば。」


何か気になることでも?


「笹本くんはどうしたんだろう?」


「笹本?」


「茜ちゃんも奈々ちゃんも、笹本くんのことが好きみたいだったのに。」


「それって、勘違いじゃないのか?」


「ううん。勘違いじゃないよ。先週だって、あたしが笹本くんと話してるところに2人で入って来てたよ、何回も。」


ぴいちゃんに気付かれるほど露骨なんだな・・・。


「ああ、わかった! 奈々ちゃんは真悟が好きで、笹本くんを好きなのは茜ちゃんなんだ、きっと。奈々ちゃんは茜ちゃんに協力してるんだよ。」


「あくまでも、ぴいちゃんの推測だよね?」


「まあ、そうだけど。・・・もしかして、茜ちゃんの相手が笹本くんじゃ気に入らない?」


「え?」


「兄として、『あいつは認められん!』とか?」


それじゃあ、兄じゃなくて父親じゃないか・・・。


「べつに不満はないけど。」


笹本はいいヤツだと思うし。


「じゃあ、あたしも茜ちゃんに協力しちゃおうかな♪」


「協力?! ぴいちゃんが?!」


できるのか、そんなこと?


「だって、笹本くんもいい人だし。」


う!


ぴいちゃんの口から笹本を褒める言葉を聞くのは初めてだ。

こんなに自分が動揺するとは・・・。


「き、協力って、どんなことをするつもりかな?」


「そうだなあ・・・。あんまりわざとらしいのはよくないよね。今までの様子を見てると、ヤキモチを妬かせるのが手っ取り早いかな?」


まさか。


「ヤキモチって・・・誰に、どうやって?」


「あたしが笹本くんと仲良くすれば、」


「絶対ダメ!」


ぴいちゃんが驚いた顔で俺を見て・・・笑い出した!


「やだなあ。藤野くんがヤキモチ妬いてどうするの? あははは!」


そんなこと言ったって!


俺の気持ちがわかってるなら、その作戦はやめてくれよ。








次は響希編です。

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