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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第五章 藤野 青
32/95

ぴいちゃんと俺(5)



カシャ。



雨降りの月曜日。

廊下や屋根つきの場所での部活が終わり、部室で着替えようとしていたとき、写真を撮る音がした。


誰だ、こんなところで?


「おお! バッチリ!」


岡田?


携帯の画面を確認しながら、満足そうな表情。

周りの部員が何を撮ったのかと、笑いながら尋ねる。


「藤野。」


俺?!


「なんで?!」


「秘密。」


にやにやしているのが気持ち悪い。

何に使おうっていうのか・・・。


「教えろ。」


「えー? 言っちゃっていいの?」


ますます気持ち悪い。


「理由によっては消してもらう。」


少しのあいだ、岡田は考えていたけど、


「まあいいか。藤野が話せって言うんだから。」


と言う。

当たり前だ。俺を写したんだから。


「ぴいちゃんに頼まれた。」


?!


「「「おおおおぉ?!」」」


部員がどよめく。


ああ・・・バカだった!

あとで人がいない場所で聞けばよかった!


自分の顔が赤くなるのがわかる。


「今朝さあ、バスでぴいちゃんと一緒になったときに頼まれたんだよ。」


もういいよ!

そんなにペラペラしゃべらなくても・・・。


「お、岡田。もう、」


「最初は『着替えてるときとか、写真撮れる?』って訊かれたから、どんな写真が欲しいのかと思ってあせったけど、」


やめろーーーー!

ぴいちゃんがそんなセクシーショットを欲しがるわけがないじゃないか!


「よく訊いたら、藤野の白い野球の服って言われてほっとしたよ。」


“俺の” っていうのをそこで認識したってことは、その前は誰のだと思ってたんだ?!

まさか、部員全員とか? それとも自分か? あり得ない!


ああ、もう・・・。


そういえば、欲しいって言ってたよな。

だけど、どうして岡田なんかに頼んだんだ?

そりゃあ、ぴいちゃんが自分で撮るチャンスはなさそうだけど、せめて映司に頼んでくれれば、もう少しひっそりと・・・。


「お、そうだ。俺の写真も一緒に送ろうかな?」


楽しそうだな、岡田。


「なんでだよ?」


「なんとなく。」


意味分からん。


「あ、俺も一緒に写る。」


は?

篠崎、お前まで?


「え? 篠崎が一緒なら、俺も。」


根岸も?

毎日、教室で顔を合わせてるだろ?


「OK。何人でもいいぞ。」


「そうだ。1年にも訊いてみよう。おーい。」


池田が外で着替えている1年に声をかける。

俺には誰も声をかけないのか?


「なんで1年?」


「藤野、知らないのか?」


映司が笑いながら俺を見た。


「1年の中にも吉野のファンがいるんだぜ。この前、吉野のバイト先に行ったときから。」


知らなかった・・・。


いそいそとやってきた1年生たちを見たら、その中に近藤がいる。

今日の昼休み、図書室でぴいちゃんと話してた。


そうでしたか。

邪魔して悪かったな!


総勢9人の写真を撮ってくれと、岡田が俺に携帯を差し出す。

俺に頼むって、なんとなく変じゃないか?


よく見たら、上半身裸のヤツが・・・。


「服を着ろ。」


わざとピンボケにしてやろうか!


そんな気持ちで撮った写真は、逆にくっきりときれいに撮れた。

まあ、9人が写った写真なら、ぴいちゃんが持ってても、誰も誤解はしないだろう。

だけど・・・、俺が写ってないし。


やっぱりおかしくないか?!




夜、ぴいちゃんに電話をすると、写真のことで笑っていた。


『さっき、なっちゃんからも電話が来たよ。ずいぶん大騒ぎになったみたいで。』


なっちゃんというのは彼女の親友、和久井夏海のこと。映司の彼女でもある。


「ぴいちゃんが岡田なんかに頼むから。」


苦情めいた言い方になってしまうのは許してほしい。


『ごめんね。 “できたらでいいから” って言ったんだけど。岡田くん、親切だからね。』


“親切” っていうより、面白がってたと思う。

ぴいちゃんだって、笑ってるじゃないか。


『でも、藤野くん、かっこよく撮れてたよ。カメラ目線じゃないところが気に入ってるの。』


・・・そう言ってくれるなら、まあ、いいか。


『一緒に送られてきた写真には驚いたけど。』


「そうだと思ってた。」


『根岸くんもいるね。どういう団体?』


「・・・希望者、みたいな。」


ぴいちゃんに写真を持っていてもらいたい、っていう希望者か?


『ふうん。・・・・・あ! そうだ! 今日ね、・・・あ、ダメだ。』


「なに?」


『うーーーん、言っちゃいけないような気がする。たぶん。』


「誰か、ほかの人のこと?」


『そうなの。今日、偶然知ったんだけどね、藤野くんには言わない方がいいと思う。』


「そう言われると、ますます気になる。」


『ごめん。大丈夫。』


何が大丈夫なんだか・・・。


『あ、あのね! ゴールデンウィークの予定は?』


そうだった!

来週だよ!


「ええと・・・、野球部は5月3日と4日が休みだな。」


『よかった! 3日ならあたしもバイトがお休みだよ。』


「じゃあ、3日に出かけよう。」


『うん。』


嬉しそうな声。

俺も嬉しい。


「ああ、そういえば、将太くんからメールが来てたよ。」


将太くんは、この前会ったすぐあとは、毎日のようにメールを送って来ていた。

でも、最近は飽きたのか、ネタがなくなって来たのか、だいぶ少なくなった。


『何て言ってる?』


「来月から塾に行くことになったって。」


『ああ! そのこと! ふふ。』


「将太くんは、直くんを見張るためにって言ってたけど。」


『違うよ! 英語の小テストで10点しかとれなくて、お母さんに叱られたの。そしたら、直くんのいる塾なら行くって言って。きっと、藤野くんにそういう言い訳をしたかったんだよ。』


「なるほどね。」


男のプライドだな。


「そういえば、将太くんのメールに、真悟くんの様子が変だって書いてあったよ。」


『真悟の? 真悟まで見張ってるのかしら?』


たぶん、早瀬の情報を得るために・・・だな。


「携帯を見ながら、ニコニコしてたり、イライラしてたりしてるって。」


『携帯でイライラ・・・?』


「誰か、好きな相手でもできたんじゃないのか?」


去年の俺がそうだったし。


『好きな相手って・・・まさか! もしかして?!』


「心当たりあるんだ?」


『確実じゃないんだけど、もしかしたら・・・ね。本当にもしかしたら、だけど。』


ぴいちゃんがこんなに勘が働くなんて、ちょっと意外だな。

まあ、正解かどうかは別として。


「見かけたとか?」


『ううん、違うの。ちょっと、ほかで聞いた情報から・・・。』


ふうん。


早瀬と同じくらい態度が大きい真悟くんが、恋をしたらどうなるんだろう?

なんとなく、ものすごく真っ直ぐに突き進んで行くような気がするけど。

ちょっと見てみたい。








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